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第四百二十六話 絶望そして

「レニー、引くぞ。砦の内側まで下がるんだ」


 苦渋の選択である。およそ10分もすれば鳴き声に呼ばれたリブッカ達がこちらに到着する。その数は3体と多くはないが、リブッカのような巨大な魔獣が3体だ。そんなものを3体も相手できるほどこちらの戦力は整っていない。


 レニーは悔しそうにしていたが、状況を把握したのか素直に頷くと兵士達を連れ共に砦の内側に飛び込んだ。


 リブッカは先程のダメージがまだ残っているようで、直ぐに追ってくることは無かったが……、眷属達はこれを好機と見たのか一斉に門へ向けて動き始めたようだ。


 兵士達は状況が把握しきれていないため、何故下がるのかと不満の声を上げていたが、先程の鳴き声に呼ばれたリブッカ達がこちらに向かっていると聞くと血相を変えて納得をしてくれた。


 それは良いのだが……、取り敢えず砦の後ろに下がってみたものの、何の解決にもなっていない。砦は石と丸太で作られた物で、それなりに頑丈そうではある。機兵の力を持ってしてもこれを砕いて突破するのは中々に骨が折れることだろう。


 門もまた重く頑丈な扉で速やかに封印され、簡単には入ってこれなくなっている。が……時間の問題だろうな。


 眷属達が一斉にかかったら、そうじゃなくともリブッカが4頭も向かってきたならば。この砦は長くは持つまい。


「おそらく真っ先に破られるのはやはり壁が薄い門の箇所だろうな」


「はい。あまり現実的ではありませんが、他よりマシと言う意味合いではそこを抜けてやってきた眷属なりリブッカなりを1機ずつ叩くしかないでしょう」


 向こう側から鈍い音が聞こえはじめた。とうとう攻撃が始まったのだ。それでもなんとか抗おうとする兵士達が砦の上部に登り、下に向けて矢を射り、岩を落としと反撃をしているが……どうにも振るわないようだ。


 俺も登って参戦しようと思ったが、それはスミレに止められた。


「下が破られたとき、貴方が居なければ一気に攻め込まれてしまいます。貴方はここで壁役をするのが適切。心許ありませんが……カイザーシールドを展開し、最初の突撃に備えてください」


「了解した!」


 下に残っている兵士達を俺の斜め後方に下がらせ、彼らにも同様に盾を構えさせる。彼らの盾は俺のより大分頼りないが、それでもないより十分マシだ。


 最初の1体をシールドバッシュで押し倒し、後は勢いで何とか……ならないか、いや、するしか無い。それほど策がない。流石のスミレさんも奇策を出せず苦い顔をしている。


 それでも何とかしようと、撤退後からずっと全リソースを回して戦術シミュレートをしている。そのため現在レーダー範囲はごく近距離に限定され、通信も同様に制限されている。


 敵がこちらに向かってきているのは明白……というか、壁のすぐ向こう側で今直ぐにでも打ち破ろうとしているのだ。今更レーダーなどなくとも構わない。


 通信も全戦力がここに集結している以上、全員が届く範囲にいる。だからスミレ、頼んだぞ!


『ひゃあ!駄目だ!降りろ!降りろー!』


 砦の上から攻撃していた兵士達が叫び声を上げ撤退をはじめた。


「どうした!?状況を報告しろ!」


『ああ、カイザーさん!あんたも、周りの連中も逃げろ!ありゃ駄目だ!来たんだよ!リブッカが!』


 先程から聞こえる地鳴り、そうかリブッカの到着か。


 ようやくレーダー範囲に入ったその反応は3。あれから増えていなかったのは僥倖だが、しかし問題は何ら解決していない。


『やべえって!さっき居たのと同じのが3つも増えた!たとえあんたでもさばききれねえよ!』


「だがな……それでも……」


 と、言いかけたときである。ドーンドーンという大きな音。そして……


『やられたぞーーー!リブッカだ!リブッカが壁を破ったぞおおおおお!』


 眷属やリブッカがひたすらに攻撃を加えていた壁、そこに追加のリブッカが加わってとうとう穴が開けられてしまった。


「くっ!レニー!」

「はい!うおおおおおおおおおおお!!!」


 穴から這い出してきた眷属にシールドバッシュを食らわせる。ゴキャリと音を立て、その場に倒れるが、直ぐ後ろからそれを踏みつけるようにリブッカが顔を出す。


 それは凄まじい勢いで、俺の胴体にガツンと角が打ち付けられてしまった。


「きゃあああああ!」

「くっ!スミレ!損傷を確認!」

『胸部装甲に若干の損傷……コクピットには影響ありません』


 危ないところだった。リブッカの角が当たったのは胸部、つまりはコクピットがある位置だ。ここを砕かれてしまってはパイロットの命に関わってしまう。


 俺たちを突き飛ばしたリブッカは気を良くしたのかそのまま砦を壊しに掛かっている。その間にも2体目3体目のリブッカ達が体当たりを繰り返す。


 何とか起き上がり態勢を整えようとするのだが……、兵士達の士気は既に消えかかっていて、怯えて立てなくなっているもの、浜に向かって撤退するものとボロボロである。


「参ったな……完全にお手上げだ」


 派手な破壊音が更に鳴り響き、4体目のリブッカが眷属達を引き連れて内側に現れた。俺の背後には畑が広がっていて、さらにその奥には居住区、そして最奥の砂浜には何より護るべき村人達が居る。


 どうあってもここを守り抜きたい……が!

 

「……スミレ、レニー!少しでも時間稼ぎをして村人達の避難を進めさせよう……付き合ってくれるな?」


「もちろんです!ここで逃げたらあたしが廃る!ここが踏ん張りどころですよ!」


 レニーを巻き込むような形になってしまったのは本当に申し訳ないが、ここで逃げようと言ってもきっと首を縦には振らなかっただろうな。ありがとうなレニー、それでこそ俺の相棒だ。


「スミレも……すまんな。何か良い作戦があれば言ってくれ!こんな状況でも君は頼りになるからな」


「ふふ、買いかぶりですよ。でも……そうですね、一つだけ言えることがあります」


 スミレがようやく明るい表情になって笑ったその時だ。ぬっと大地に影が差したと思ったら、巨大な物体が目の前を覆い尽くした。


「どうやら時間はもう既に十分稼いでいたようですよ」


『……やっと応答したね!妨害電波でも受けていたのかね?ああ、こちらキリンだ。遅くなってすまない!例のものを持ってきたのだが……それより応援が先のようだね』


 そうか……通信とレーダーを制限していたから……接近に気づけなかったというわけか。待ち人来たり、どうやら神様はこういう演出がお好みらしいな。


 ああ、そうだよ。俺だって好きさ!さあ、逆転の時間だ!

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