第四百二十三話 不穏な動き
◆新機歴121年12月15日12時48分
早めに昼食を取り、待つこと1時間。お待ちかねの……いや、来ては欲しくはない来客達の到着を告げるアラートが鳴り響いた。
接敵まで15分を切った事を知らせるこのアラートは通信機を通じて全機に共有され、皆一様に気を引き締めている。
さて、現在接近中の敵勢力は総勢14機。当初の21機より数を減らしているのである。何故か？
1時間ほど前のことだ。昼食を摂った後に実行した索敵より監視を常時に設定し、絶えず敵勢力の状況を監視していたのだが、途中、おかしな動きをしているのに気がついた。
こちらに向かっているはずの敵勢力が突如向きを変え、街道から外れた方向に動き始めたのだ。一体何をしているのだろうか？ と、思った所でこの世界における情報収集において最強の存在を思い出す。
「スミレ、ポーラにアクセスしてくれ。敵勢力の動きがおかしい。"空"からの映像が欲しい」
「了解しました……こちらスミレ、こちらスミレ……フィアールカ、そこに居ますか？」
少しして、本体の方のフィアールカが応答する。
『こちらフィアールカ。なんなの？ こっちは下のフィアールカにリソース取られて忙しいの！手短にして欲しいの！』
……むう。分体だと言ってもそう都合が良い事ばかりではないようだ。どうやらグランシャイナーは修羅場のようで、フィアールカも"ほぼ完全体"となって忙しく働いているらしい。
「カイザーが空からの映像をこちらに送ってほしいそうです。座標は……」
『まったく迷惑なカイザーなの！んーーーえいえい！何機かマーキングしたから暫く追尾してると思うの。じゃ、私はもういくの！』
礼を言わせる暇もなく通信を切られてしまった。そして代わりにフィアールカからリアルタイムの映像データが送信され始める。
レニーにも見てもらうため、モニタ上にもそれを表示して敵機の様子を伺う。
「あ！見てくださいよカイザーさん！」
「ああ、見ているとも……これは何をしてるんだ……？」
「よく見れば何機か負傷しているようですね……。移動速度が遅いのはこんな真似をしているからでしょうか」
何をしているのか？ わざわざ魔獣がいる方向に向かい、じゃれ合っているのである。
じゃれあうという表現が適切なのかはわからないが、討伐しているようには見えない。
やたらとガタイが良いリブッカという大きなヘラジカのような魔獣を取り囲み、何やら抑え込もうとしているようだ。……流石に衛星から見下ろしている映像ではいくら高解像度高倍率だとは言えわかりにくいな。
そして間もなくして……。
「おや……使役したようですよ」
「なんだって……？」
モニタに向かって飛んでいったスミレが『ほら、ここを見て下さい』と指をさす。指された場所を見てみれば、先程まであれほど抵抗していたリブッカがおとなしくなり、眷属達の隊列に加わっているではないか。
「まさか……移動に遅れが出ているのは……」
「恐らく、道中であった魔獣を眷属化しようと頑張っていたのでしょう。あの様子では成功したのはやはり、あのリブッカがはじめてでしょうけどね」
見れば暴れたリブッカにとどめを刺されたのか、何機かの眷属や眷属化した機体達が戦闘不能になっている。スミレが言う通り、ここに来るまで何度か眷属化を試みたのだろう、何機かはリブッカから攻撃を受ける前からかなり機体に損傷が見られた。
今眷属化したリブッカ以外に魔獣が見当たらないのはこれまで失敗して来たからなのだろうな。
リブッカというなかなかに厄介な戦力を増やされたのは頭が痛いが……それよりも『魔獣を使役できる』という事実が恐ろしい。
それも、ルクルゥシアがその力を使ってするのではなく、眷属レベルでそれが可能というところだ。確かに考えてみれば人間を眷属化し、隷属させてしまえるのだから魔獣にそれが出来ても不思議ではないのだが。
……というわけで、今まさに村に到着しようとしている敵部隊は14機と数を減らしているが、リブッカという中々に頭の痛いお土産を引き連れているわけだ。
見張り台に詰めている兵士も其れに気づいたのか、驚き混じりの報告が届けられる。
『報告！現在接近中の敵勢力だが、魔獣を連れているぞ！あれはリブッカだ！』
その報告を受けた兵士達から次々と悲観する声が聞こえてくる。さもありなん。リブッカはヒッグ・ギッガほどではないにしろ、中々の巨体だ。マイクロバスにゴツい鹿のボディをつけたような感じを想像して欲しい。
それが地響きを立てながらこちらに向かってきているわけだから兵士達も動揺するわけである。
……が、そんなことで士気を下げられては困るのだ。
「案ずるな兵士諸君！」
突然声を上げた俺にびっくりしたのか、ざわめきが収まった。
「俺の話を忘れたか！俺とこのレニー、そしてスミレは仲間と共にヒッグ・ギッガやバステリオンを倒している！しかもだ。その当時の俺は今よりも性能が低かった！今はその倍以上の性能を発揮できる！」
『そ……そうだ！俺達にもカイザーが居るんだ！』
『そのガタイ……俺達の倍近くあるもんな！ 確かにリブッカも一捻りできそうだ！』
「と、申してますがカイザー、実際に一捻りしないとかっこが尽きませんね」
「……くっ！ 士気を上げるための演説でハードルを上げるハメになるとは」
「大丈夫ですよカイザーさん。いつもどおり自分たちのペースでがんばりましょう」
「ああ……、ありがとうなレニー。そうだな、元々無理がある戦いなんだ、何時も通り頑張るか！」
「はい！」
スミレに弄られレニーに慰められるという妙な着地をしてしまったが、演説を通して兵士達の士気は急上昇した。
今の目的はあくまで防衛だ。刻が来るまで持ちこたえてやるさ。
