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第四百七話 森の魔女大いに語るその1

◆リン婆ちゃん自分語り◆


 あれはもう何十年と前だったかのう。まだ周りの爺共から『小娘』と呼ばれていた頃の私はトレジャーハンターとして半島をあちこち駆け回ってたんじゃ。


 トレジャーハンターになる前はここより少し行った場所にある集落で家族と一緒にほそぼそと暮らしていて、当時の私はそれに不満を持っていなかったし、集落の誰かと結婚して、そのままこの地で静かな時を過ごすのじゃろうと思っていたんじゃ。


 しかし、ある日の晩じゃ。ベッドで眠っていると、窓を誰かが小突くような音がする。集落を出る前じゃから、まだ10にもならぬ子供じゃよ? 村の男が逢引に誘いに来るということもないし、当時の私にはそんな事もわからない。純粋になんだろうと思ってベッドから起き上がり、窓辺に向かったんじゃ。


 するとどうじゃ。月明かりに照らされた小さな小さな人影が見えるじゃないか。人形かと思ったんじゃが、どうも違う。恐る恐る近づいてよく見てみれば、それは人形ではなく背中に羽根を生やした妖精様じゃった。


「妖精様?」


 そう、呼びかけたと思う。すると、妖精様はニコリと微笑んでの、私の頭に手を当てると優しく囁いたんじゃ。


『あと4つ年を重ねたらイーソに向かいなさい。そしてその地で出会った者と行動を共にし、後は流れに身を委ねなさい』


 それだけ言うと妖精様はふわりと飛び上がり、森に消えていってしまったのじゃ。


 翌朝、母親にこのことを話すと、少し難しい顔をした後、優しく微笑み頭を撫でてくれたんじゃが、その日の晩になると集落の長が家にやってきたんじゃ。


 今思えば、妖精様を見たという私の話を長に相談したんじゃろうな。先に言っておくが、居ないものを見たという娘を心配したからではないぞ。この地では昔から妖精様への信仰が根強く残っておっての、そんな妖精様を見たという話を聞いたからこそ母親は慌てて長に連絡したんじゃ。


 長は私の話を改めて聞くと、そうかそうかと笑い、やはり頭を撫でてくれた。そして複雑な表情をしている母親と父親に『妖精様のお告げに悪いことはない。心配じゃろうが信じて送り出してやろう』と、言ったんじゃ。


 今思えば酷な話よの。一人娘を14という年齢で家から出すのじゃから。しかも、結婚という形ではなく、漠然としたお告げに従っての行動じゃ。


 今の世の中ではレニーの様に若い女が冒険者となって各地を旅して周るというのは一般的ではなかったし、何より女は結婚して家庭に入るというのが根強く残っていた時代じゃったからのう。両親としては複雑な思いじゃったことじゃろう。


 幼い私にはそんな事はわからぬものじゃ。妖精様に会えたという嬉しさと、妖精様から支持されたという誇りが勝っての。親のことは大切じゃったし、離れるのは寂しかったが……まあ、幼いとはいっても私じゃからな……。14の誕生日が来る日を指折り数えて楽しみに過ごしたものじゃよ。


 そして迎えた14の誕生日。親や集落の人達に見送られ、私は旅に出た。当時はまだ他国とそこまで仲が悪いわけではなかったからの。半島東端にあるイーソまでの道中ではあちこちから来たという冒険者達と一緒になることもあった。


 言った通り、女一人の、それも幼い身で一人旅というのはまずありえない時代じゃったからの。大抵の冒険者は良くしてくれたものじゃよ。


 今思えば、危ない思いをすることもあったと思うのじゃが、それもきっと妖精様の加護があったおかげじゃろうな。


 それでも旅は決して簡単なものではなかった。機兵に乗るわけでもなく、馬車すらいつでも乗れるわけじゃあない。基本は徒歩で、路銀を稼ぎながらの旅じゃからな。イーソに着く頃には半年が経っていた。


 イーソについてから、暫くは何も起きず、生活費を稼ぐために当時はまだ賑わっていた冒険者ギルドに足を運び、薬草集めをして暮らしてたんじゃが……、いつものように森に入り目当ての薬草を何種類か集めたところで妙な気配を感じたんじゃ。


 嫌な気配ではなかった。しかし、胸騒ぎを感じさせる妙な気配じゃ。それに急かされるようにその気配の方に向かうと……、同族の子供が倒れててのう。


 私と同じ、白い毛並みをした猫族の少年で、酷く汗をかきながら真っ青な顔で震え、うずくまっておった。一体何が……と、周囲を見ると……足に噛み傷が。ヘビにやられたんじゃな。


 ヘビに噛まれた場合、解毒薬が必要となるんじゃが、どうやらこの少年はもっていなかったようでな。幸いなことに、手持ちの薬草で調合可能じゃったので、その場で作り、無理やり飲ませてやったんじゃ。


 火を起こし、少年の身体を温めながら暫く様子を見ていると、間もなく呼吸が落ち着いてきてのう。集落で覚えた事が人の命を救うことになったんじゃ、嬉しくて仕方がなかったわい。


 そして、少年が目覚めるまでの間と、そばに寄り添い火にあたっていると何時しか眠ってしまっていたんじゃ……そんな顔をするんじゃないよ。この少年とはなーんも、この後もな~んもなかったんじゃから。


 そして、目を覚ました時、私は驚くことになったんじゃが……レニー、すまないがお茶を入れてくれるかね。喋りすぎてのどが渇いてきたよ。

ばあちゃんが言ってた通り、長い話になりもうした……。

もうちょっと語ります。

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