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第四百六話 魔女との対話

 真剣な顔で話すジルコニスタの説明をリン婆ちゃんは真剣な顔で聞いていた。説明がしにくい場面が出た時に親切心で記録映像を見せたときにはまたびっくりされてしまって、要らないことをしてしまったかと思ったが、


『ルッコの説明より大分わかりやすいわい。もっとそれを見せとくれ』

 

 と、結果的に映像を主体とした説明に変わってしまった。もっとこう、カルチャーショックを受けるかと思ったのだが、なんとも適応力が高いお婆ちゃんだ。


 とは言え、二人がここから旅立ち、私達の元へたどり着くまでの話はレニーから伝えられたざっくりとした説明と、仔馬から渡された僅かなデータくらいだったため、それは私も興味深かかったな。


 レニー達が帝都に寄った時点でも既に怪しげな――眷属化していると思われる兵士は多く居たらしい。現在私達と合流し、今もグランシャイナーに乗り込んでいる"皇帝"ナルコニアスは現在も傀儡として皇帝の座に収まっているらしい"先代"の手に落ちた黒騎士団から身を隠し、市井に紛れて情報を探っていたらしい。


 皇帝は既に生者ではなく、その肉体のみを操られている別物であること、それらに従う黒騎士団は従来騎士団を文字通り飲み込んで勢力を拡張し、現在まともに生き残っている騎士たちは半島の各村を護る僅かな兵達だけであるという。


 それも、今は怪しいというのがジルコニスタの意見だった。黒騎士団は兵力を増やすため、半島各地を巡っていわゆる眷属化を進めているだろうと。


 それを止めるため、そして眷属化してしまった騎士たちを救うためにジルコニスタはこの場所へ、実家であるこの家に訪れ、母であるリン婆ちゃんに協力を求めに来たらしいのだが……、実のところ私も詳しい話は聞いていないため、なぜこの婆ちゃんがここで出てくるのか見当もつかない。


 が、ジルコニスタの一言でそれまで静かに話を聞いていたリン婆ちゃんが豹変した。


「で……だ。非常に頼みにくい話なのだが……、鋼鉄の魔女の力を貸しては貰えないだろうか」


「薄々とそうじゃないかと思いながら話を聞いてたがね……そうかい、久しぶりに顔を見せたのはそういうことかい……」


「すまん、母さん!母さんがその名を忌み、この地に移り住んだというのは知っている!だが……!」


 すがる目で見つめながら頭を下げるジルコニスタをリン婆ちゃんが一喝する。


「喧しい!お前は昔からそうだよ!人の気も知らんで勝手に行動してさ!大体お前は話を最後まで聞かないから駄目なんだ!この私がお前の、お前とレニーのお願いを聞かないと思ってるのか!?」


「……いや……しかし……」


「その言い振りからして、初めから断られるのを前提で話していたね?断られた後、如何にして首を縦に振らせるか、それだけを考えてたってのが見れば丸わかりだよ」


 目を丸くして驚くジルコニスタを見て婆ちゃんはハァ、と大きなため息を付いた後、頭をガシガシとかき、レニーと私を見て笑顔をうかべた。


「レニー、そしてカイザーさん。私が今ここにいるのは妖精様から定められた運命なのかもしれないねえ。今度は私が話す番かね」


 そして『長くなるから』とお茶を入れ直しに向かった婆ちゃんを『あたしも手伝うよー!』と、レニーが後を追っていった。


「参ったな……。こういう展開になるとは思っていなかった……」

「ジルコニスタ……、君はなんというか……真面目系ポンコツだな……」

「……ポンコツと言うのが何かはわからんが、肝に銘じておこう」


 いや肝に銘じるなって……。


 しかし、この婆ちゃんは妖精という言葉をよく使うな。そもそもこの土地は妖精にまつわる逸話が多く残っているらしいから、その影響なのだとは思うのだが……。どうも奴の姿が、神の笑顔がちらついて仕方がない。


 なんというか『妖精から定められた運命』これがいけない。どうしても何かの声に従ってこの地に来たとか、そういう予感がちらついてしょうがないのである。


 キッチンからリン婆ちゃんの声が聞こえてくるが、久しぶりに孫が来た感じというか、娘が来た感じというか。短い間だったとレニーは言っていたけれど、大切に保護をしてくれていたのだなと感じる。

 

 今のところはただの気のいいお婆ちゃん……いや、ちょっと魔女っぽいお婆ちゃんでしかないのだけれども、一体どんな秘密があるのだろうか。


 "鋼鉄の魔女"と言う物騒でかっこいい二つ名からして何か察するものはあるのだが、わざわざジルコニスタが会いに来るほどの事だし、婆ちゃんが言う『運命』というのも引っかかる。


 きっとこれからの戦いに必要となる大切な鍵を握っているのだろうな。


「おまたせー!薪でお湯を沸かすの久々だったよー」

「そうじゃろそうじゃろ。たまには魔道具に頼らんのもいいもんじゃ」


 と、ニコニコとした二人がお茶を運んできた。ふわりと漂う澄んだ香りはジャスミンティーを思わせる。


 きちんと私とスミレの分もいれなおされ、お茶会の後半戦がスタートだ。


「本当に長くなるからね、覚悟して聞きな。ああ、レニー。お仲間が居るんだろう?今日は泊まるかもしれないって連絡しておきな。出来るんだろう?」


「え?あ、うん!だってさ!カイザーさん!」


「ん……そうだね、じゃあ私からキリンに指示を飛ばしておくよ」


 現在海上で待機中のキリンにテキストにて連絡を入れた。これから"会議"が始まるということと、ソレが長くなるということ。相手の指示により、どうやら1泊する必要があるということを伝え、念のために先行して半島東部に移動しておいてもらうことにした。


 今の私は飛行可能なので、いざとなれば運搬用のカゴを出してジルコニスタとリン婆ちゃんの二人くらいなら運ぶことだって出来る。


 この後の予定として、半島東部の村々の安否を確認するという重要な案件があるため、実は余裕があるようでそうでもないのだ。


 なので、場合によっては。現在フィアールカが集めている情報次第では先行して白騎士団に頑張ってもらうことにした。


「ん、どうやら連絡はすんだようだね」


 必要事項の送信を終え、顔を上げた私を見てニッコリと微笑むリン婆ちゃん。そして、表情を引き締めると、改めて本題を語りはじめた。

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