第三百九十七話 終わりの始まり
基地に戻ってからの日々は穏やかなようで忙しく、あっという間に時が過ぎ去り、季節は完全に冬にと移り変わった。
グレンシャ村に行くために通ったルート上で非常に寒い思いをしたため、パイロット達に取っては『また冬が来てしまった』という感覚が強いようで、昨夜からパラパラと降り続いていた雪を見て皆顔をしかめていた。
この基地には元々優秀なエンジニア達が揃っていたが、それにキリンと言う技術も知恵も道具も兼ね揃えた存在が現れ、さらにフィアールカ(分体)という小さな秘密兵器も現れてしまった。
それにより、機体の製造ラインは一新され従来の数倍という恐ろしい速度で戦力が増強されることとなった。
フィアールカは当初その見た目からマスコットとして愛される意外には役に立たないと思われていたのだが、秘められた知識とスキルが明らかになった瞬間、リックとジンが目を剥いて驚いていたのは非常に愉快だったな。
『見た目で判断するおじさん達にはこういうやり方が一番効くの。誰がボスなのかわからせてやったの』
と、子グマは誇らしげに胸を張って笑っていた。恐ろしいクマだよまったく。
恐ろしいと言えば、キリンが作った開拓用装備も大概だ。グランシャイナーの停泊地を作ったのでは飽き足らず、それに隣接するように更に開拓し、やたら大きなハンガーを建造してしまった。
と言うのも、日々作られていくシュトラールやエードラムがそろそろ邪魔にされ始めている…………と言ったらアレなのだが、以前に増して大きく人口が増え、今やフォレムに次ぐ大陸北部の街になりつつあるこの基地だが、一応は秘密基地という体を取っているため(既に周囲からはバレバレであるのだが)今まで開拓はおとなしめにしていて、居住地はあまり広くは無かったのである。
そこに置き場に困った機体達がどんどん置かれていくモノだから、邪魔で邪魔で仕方が無い。
方々からクレームが入り、緊急会議が開かれるまでに発展してしまった。
結果、もはやこの基地は秘密でも何でも無く、独立したての行商人にすら認知されている新たな街と化している、肝心のルクルァシアだっておそらくはこの場所を知っていることだろう、そもそも隠す意味はもうないのだから、堂々としていった方が楽なのでは無いか…………等など、たまりにたまった『何故か秘密の扱いをされていた基地』につっこみが殺到し、とうとう秘密にする事を辞めようという事になったのだ。
皆が知ってる秘密基地という矛盾した存在、それもまたお約束なのだが、冷静に考えればただただ妙であり、運用しにくいだけであると皆が気付いてしまったのだった。いや、もっと早く気付かれると思ったのだが……。
ともあれ、そのお陰で王家の森北部の開拓が承認された。現在の管理者であるトリバ共和国の一番えらい人……、レイ。そしてかつての支配者であり、神の山を管理してきた王家の末裔、アズ。この2人が身内であるわけなのだから、許可が下りないわけがなかった。
会議の後、間もなく工事は始められ機兵達を格納する大型ハンガーが建造されたというわけなのである。
グランシャイナーの停泊地に近接しているため、以前にまして軍事基地感が出て中々にかっこいい‥…。
いずれ平和な世の中になった際には大陸北部を護る拠点として活躍することであろう。
……そんな世の中で何から護るかはまあ、別としてだ。
現在保有している機兵は全部で200機を超える。しかも、事実上この大陸に関わる4カ国と異世界が協力して作り上げた最高の設計で作り上げられた機体達である。
この世界の人達が言うところの神話の時代に作られた旧時代の機兵達はロストテクノロジーの塊であり、現在では再現不可能なものとして、その模倣品にしか過ぎない機兵が存在するに過ぎなかったこの大陸だったが、今やその神話機体にも勝る機体が量産されている。
この世界の知識水準からすれば手に余る技術の決勝である機体が量産されているのは、ある意味神話の時代を、大戦の時代をなぞっているようにも思える。
しかし、今度は違う。我々異世界の戦士が全て揃い、かつて剣を交えた国家の末裔が手を取り合い、共に刃を向けるのは同胞ではなく異世界の邪神である。
攻め入る先はシュヴァルツヴァルツ領だが、その目的は侵略ではなく開放だ。それも詭弁ではなく、邪神により支配をされている善良な市民達を真の意味で開放する戦いである。
我々の目的は唯一つ。ルクルァシアが真にこの世界を簒奪するべく動く前にこの大陸内で蹴りをつけること。この大陸に平和を取り戻すことが世界の平和に繫がるのだ。
私が……俺が持ち込んだ火種なんだ。しっかりとケリを付けてやる。
そして――
新機歴121年12月8日午前11時32分……
基地内各所に備え付けられたスピーカーよりアラートが鳴り響いた。
『緊急事態発生 緊急事態発生 こちらルナーサ領大魔法使いの山観測基地です。ルクルァシア軍の侵攻を確認。現在敵軍は半島南部より海路を使いビスワンに侵攻中。付近の待機兵が急ぎ向かっています……が、戦力差は明らかです。至急、応援を願います!』
ルクルァシアがとうとう動き始めた。世界に終わりを……いや、この物語に終わりを齎すため動き始めたのだ。




