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第三百九十二話 釣りなのである。

 パイロットやクルー達が釣りをしているのを見て居るうちに…………私も釣りをしたくなってきた。そんな私にフィアールカの甘い誘惑が刺さる。


『その身体で無理でも"カイザー"の身体でならば問題無いの』


 12mの巨体で装備可能な釣り具、そんなモノは通常存在しないが、フィアールカは私のストレージ内に唸るほど入っている資材を使い、グランシャイナーの機材を使ってぱぱぱっと作り上げてしまった。


「ちゃんとした装備は流石にキリンじゃ無いと無理だけれども、こういう簡単な日常品は私でも作れるの」


 簡単な日常品、と言うけれど……。竿は兎も角として、リールはそこまで簡単な仕組みでは無いのだが……。


 ハンガーに設置されている機体メンテナンス用のロボットアームを器用に動かし、ちゃっちゃかと作り上げてしまうのだから恐ろしい。キリンまでとは行かなくとも、普通にエンジニアとして活躍できる腕前を持っているのでは無かろうか。


 ……フィアールカは彼方を手伝うべきだったのでは無かろうか……。


 そんな事を考えながら作業を見守っていると、


『何を考えているのかわかるの。でもそれはダメなの。私が居ないとグランシャイナーは全能力を出せないの。魅力半減なの!』


 と、そんな事を言っていた。一応クルー達も先祖代々伝えられてきたマニュアルによりグランシャイナーの運用は出来る。しかし、それはあくまでもキチキチっとしたマニュアルに沿った動きが出来るに過ぎない。


 緊急時、速やかに適切な行動を取るにはあまりにも経験が足りない。クルー達に足りない分は司令官が補うべきなのだが、俺もまたグランシャイナー運用の経験が足りない。キリンやフィアールカから受け取ったデータこそあるが、実戦経験というモノはまた別物である。


 フィアールカかキリン、そのどちらかが居ればなんとかなるのだが、そのどちらも居ないとなれば緊急時にちょっと不安が残る。故にフィアールカはこちらに残ったというわけなのだった。


「……カイザー、カイザー!引いてますよ!」


「む!」


 そんなわけで、現在俺はグランシャイナーのデッキに立ち、釣り竿を振っているわけだが……、考え事をしていたせいで折角のあたりをのがしてしまったようだ。


「しっかりして下さい。次はちゃんとかけるのですよ、カイザー」


 俺のコクピット内にはレニーの姿は無く、スミレだけが乗り込んでいる。レニーはレニーで別の場所で釣りをしているからな。


 特性の釣り竿を振り、ルアーを軽く投げる。ルアーのサイズは俺からすればかなり小さく感じるのだが、45cm程の大きさで、明らかに大物用のサイズである。トローリングに使うようなひらひらとしたイカ型のルアーで、本来は船で引きながら使うのだろうが、遠投して普通のソフトルアーのように誘っているのだ。


 それでもちょいちょいと当たりはある……のだが、上手く乗らない。おそらくはルアーより口が小さい魚がちょっかいをかけているのだろう。


「カイザー、ナブラです。あそこを通しましょう」


 ナブラ。小魚の群れが捕食者に追われ水面を泳いでいる様子を表す言葉である。位置はここから沖合62m。ラインのキャパは500m程で、私の身体で投げられる距離は300mまで。余裕で届く距離だ。


 ルアーを巻き上げ、ナブラの向こう側を目指して投げる。人で言えばちょい投げくらいの感覚で投げると大体100mくらいは飛んでいくから楽ちんだ。


 着水後、ワンテンポ置いてから竿をしゃくり、ラインを何度か巻き取ると……ガツンときた。この身体で感じるくらい大きな感触だ。これはデカいぞ!


 今度はスミレにつっこまれる隙も無くキチンと合わせ、しっかりと獲物に針をかける。装着されているラインは特別製。多少無理をしても……そう易々と切れはしないぞ。なんと言っても本来の利用目的は脅威を拘束したり、物資の運搬に使ったりする『不思議製法』で作られたトンデモ繊維を使って作られた謎ロープだからな。釣りとしては風情が無いが……、食料調達のためなのでそこは割り切る。


「ま、ラインが強くても普通の素材で作ったロッドやリールは当たり前に壊れるからな。無茶はせずに寄せていくぞ」


 ゆっくりと竿を立て、魚を引き寄せる。たるんだ分の糸を巻き取り、竿を戻す。必死に逃れようと魚が暴れればそれに逆らわず竿を動かし、必要であれば糸を少しずつ開放……!


 非常に地味な戦いだが、この手応えからすればかなりのサイズが期待出来る。俺や僚機のストレージ同様に時間停止機能を備えているグランシャイナーのストレージにしまっておけば傷むことは無いし、何匹か確保すれば基地の食糧事情に大きく貢献する事が出来るだろう。


 慎重に慎重に。しかし、通常の人間がやるよりは圧倒的な力業で獲物をジワリジワリと引き寄せていく。実際、人間の身体で普通の道具を使って相手にすれば数時間はかかるであろう戦いもこの身体と道具では『ちょっと大きな魚がかかった』くらいの感覚で寄せることが出来てしまった。


 それでもかけてから15分はかかったと思う。グランシャイナーから10mくらいの距離まで寄せたとき、水面に獲物の影がぬるりと浮かび上がった。目測で軽く5mは超えている。デカい……!


 慎重に近くまで寄せたが、獲物は既に疲れ切っていて抵抗することは無かった。さて、こんなに大きな獲物、どうやって上げようかと迷っていると。


『カイザー、聞いたよ釣りをしてるんだってね』

『私達もたまには動かないと鈍っちゃうから手伝うわ!』


 と、ハンガーからわざわざケルベロスが自立機動で手伝いに現れた。ミシェルはビックリした顔をしているし、俺もちょっと驚いたよ。今まであまり自立機動をしようとしなかったからな。


 ……まあ、実際の所、彼らも何か手伝わないといけないという気持ちになったのかも知れないな。


 そしてケルベロスがギャフ代わりに槍を突き刺し、一気にデッキまで上げてくれた……のだが……。


『これはこれは……カイザー、ものすごいモノを釣り上げたね?』

『異世界だから私達の常識は通用しないのはわかるけど……これは凄いわよ』


「むう……カジキ……にしては少しイカついな?」


 釣り上げられた獲物は竜のような鱗を持ち、頭には縦に二本並ぶツノを生やしていた。その顔つきもまた、魚と言うよりは竜のような顔つきで……。


 スミレがデータベースで照合した結果、私が釣り上げた体長7mの獲物は所謂『水竜』であり、陸上では絶滅寸前である本来の意味の『魔物』と言う事がわかった。


 なお、念のため様々な視点から検査をしたが、食材としては味も栄養面でも優れていて、素材としても皮やツノはかなり有用という結果が出たため、海で待機している間は水竜釣りに励むハメになったのであった。

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