第三百九十話 カイザーやらかす
「こちらカイザー。現在空中母艦グランシャイナー改に搭乗中。多数のクルー達とともにそちらに向かっている。受け入れ体勢の用意をお願い。到着予定時刻は明日の朝8時だね」
グレンシャ村を発って直ぐ神の山に連絡を入れた。通信室にはアズが居たようで、直ぐに承諾を…………してくれると思ったのだが、少し様子がおかしい。
「グランシャイナーと言うのは……この間言っていた船……の事だよね? 受け入れ用意……と言われても、一体どうすれば良いんだい? 海はここからかなり距離があるし、そちらに拠点は作っているという話しは聞いてないよ」
そう言われて気付いてしまう。謎の悪戯心が勝ってしまったというか、サプライズ的な気持ちになってしまったというか……なんといいますか、私が完全に悪い。ちゃんと説明をしていなかった私が全て悪い。
「ごめん、アズ。ちゃんと説明してなかったね。グランシャイナーは空を飛ぶ巨大な帆船で……」
「ちょっと待って。空を飛ぶ……?巨大な帆船……?」
「う、うん。だから水場じゃ無くても着陸できるんだ。だから基地の直ぐそばに止めることだって……あっ」
「……うん、今の『あ』は気付いた『あ』だね。君達が乗れるような船だ。さぞや大きいのだろうね」
「大きいね……」
「基地の周りは森だよね。広大に広がる王家の森があるわけだ。さて、どこに泊めようか?」
「困ったね……?」
「ああ、困るも困る、大弱りだよ……。グランシャイナーがかなりの戦力になるのはわかるし、是非とも受け入れたい。しかし、置き場が無い。森を切り開く許可はレイから貰えると思うけれど、さて、その後どうするか。何か妙案はあるかい?」
これらの会話はブリッジ内にそのまま流れている。呆れた視線を私に送るパイロット達。ため息をつくスミレ。フィアールカは何故か優しく私の肩に手を置き、慰めてくれている。
うう……そうだよ、どうしよう……?妙案と言われてもどうしようも無い。
と、ここで最高の助っ人から提案が降ってきた。
『はっはっは。お忘れでは無いか、私のことを! たった数日でトンネルを掘り抜いた私のことを!さあ!頼ってくれたまえ!このキリンに!さあ!さあ!』
キリンと言えばビックリメカだ。なるほど、彼女なら伐採・整地メカの開発・製造も可能かも知れない。
『今、キリンなら……って思っただろう? どれ、私が話を付けよう! 通信先……アズくんと言ったか。彼に繋いでくれた前!』
とは言っても、こんなにもやかましくブリッジ内に響いているわけで。当然キリンの声もアズに届いている。
「……キリンだったね。はじめまして。アズベルト・ルン・ルストニアだ。そこにいるミシェルの父であり、ルナーサの大店長をしている。よろしく頼む」
『ああ!よろしく頼む。私は天才技術者であり、カイザー君達のサポートメカを務めるキリンだ。それで、私にはグランシャイナーの着陸スペースを作る用意がある。どうだろう、私に任せてくれないか』
「……こちらでどうすることも出来ない以上、君にお願いするしかないだろうね。しかし、それまでの間、グランシャイナーはどうするんだい? パイロット達以外にも多くの人達が乗っているんだろう?」
『それに関しても合わせて説明をしよう。まずは……』
と、ここからはキリンの独壇場である。ペラペラとしゃべるわしゃべるわ。アズもそれなりにしゃべる方だと思うのだが、終始キリンの勢いに押されていた……後でアズを誘って酒場にでも行こう……。
◆◇◆
翌朝、私達は予定通りの時間に神の山に到着した。基地前に広がる関係者達が住む町には朝も早いというのに多くの人達が立っていて、皆驚いた顔をして空を指さしていた。
『本当に船だぞ!』
『あんなのまで飛ばすのかよー!』
『ていうか、何処に止める気なんだ?』
そんな会話が聞こえてくる。何処に泊める……か。残念ながら今回泊めることは出来ない。ではどうするか?此処から先はキリンが決めたプランに従うしか無い。
まず、グランシャイナーはギリギリの高度まで下降する。良くわからない謎の仕組みで浮遊するグランシャイナーはギリギリまで降りたところで他の建造物を吹き飛ばしてしまうようなことはない。
家屋を潰さないよう、気をつけながらギリギリ……高度5mまで加工した。その状態でホバリングしているわけだから、下から見れば中々にスリリングなのだろう。きゃあきゃあと悲鳴が聞こえてくる。
そしてまずはじめにキリンが下に降りた。挨拶もそこそこにしてもらい、続いてケルベロスとシグレが下に降りた。そしてグランシャイナーから地上に向かうリフトに乗ったクルー達。全員ではなく、技術者の中から6人、サポートクルーが8人、計14名が先行して神の山基地に降り立った。
キリンの指示の下、マシューとシグレ、ジンとリック、それとクルー達が整地メカを建造し、グランシャイナーが停泊できる最低限のスペースを作る事になったのだ。
そして残された我々はどうするかと言えば……。
「じゃあ、後は任せたよ!定時連絡は欠かさないこと!」
『了解だよカイザー!こちらのことは任せておいてくれたまえ!』
浮遊したグランシャイナーは再び神の山から飛び立ち、停泊場所へと移動を開始した。
トリバの港につけようか?とも話したのだが、普通の船舶に比べて大きすぎるため、スペースをやたらと取ってしまうのと、悪目立ちしてしまうのが目に見えていたため、それはなしにして……。
結果的に大陸の西側、以前元黒騎士の2人が上陸した海の沖合に停泊することにした。
船なのだから海に浮かんだところで問題はない。グランシャイナーにも兵装は有るし、フィアールカやクルーが入ればその扱いも問題ない。さらに私とヤマタノオロチが居れば何かあっても十分防衛可能なのです。
張り切って村を出てきた手前、このグダグダっぷりは少々恥ずかしい……。これからは気を引き締めていかないとな。
もしかしたら明日は更新お休みかもしれません。




