第三百八十七話 敗北、危機、そして―
パイロット達や僚機達と別れた我々義体チームはのんびりとグレンシャ村の住宅地をブラブラしていたのだが、今思えばそれは誤りだったと後悔している。
義体に乗り換えた我々の力は弱く、大抵の相手には軽くひねられてしまう。なので本来であればパイロットなり僚機なりを必ず近くに置き、我が身の護衛をして貰う必要があるわけなのだが……今回ばかりは完全に油断をしてしまった。
「……いえ、貴方はよく捕まっているでしょう……?」
「その通りです。はい、もう慣れたものです、すいません」
現在、我々が置かれている状況はかなりまずい。対象は6。うち4つの反応がフィアールカを取り囲んでいる。残り2つの反応が私とスミレを拘束している――っく、やめてくれ!顔が!近い!
「妖精しゃん、にっこりしよねー」
「ほらほら、ルゥちゃん。笑いなさい。そこに活路が有るなら笑いなさい」
「こっちの妖精さんもニッコリするのよー」
「ほら、スミレさん?あなたも笑えと言われていましてよ」
「……ニコッ」
うわ、スミレの笑顔が怖い。優しげな顔で笑っているが、笑わない目で私をじっと睨んでいる。私は悪くないぞ。な~んも悪くない。
「まーーー!!!!やめるの!よだれでベチョベチョなの!私のしっぽをかじらないの!まーーー!!!」
向こうから聞こえるフィアールカの叫び。どうやらしっぽが餌食になっているらしい……南無。
誰か大人でもここに来ればこの窮地から抜け出せると思うのだが……、いかんせんここは子供たちの遊び場、小さな公園である。日本の公園であれば大人の1人や2人座っているだろうし、親も子供を1人で出すようなことはあまりないのだが、残念ながらこの世界では子供がほったらかしにされることが多い。
この子達の両親は今頃忙しく働いていることだろうから、それに関して文句は言えない。言えないけど……誰かたすけてくれええ!!!
……と、ここで思い出す。助けを呼ぶ? 呼べばいいじゃないか!
「……スミレちゃん」
「なんでしょう、ルゥちゃん」
「レニー達に助けを求められるのでは……」
「あっ!」
スミレがここまで「は!」とした顔は初めて見たかも知れない。そうだよ、私達ならレニー達の端末に連絡をして助けを求められるではないか。
私は兎も角、スミレがそれに気づけ無いというのが現在置かれている状況が如何に余裕が無いのかおわかりいただけることだろう。なんと言っても油断すればフィアールカと同じ目に合うのだからな……。
「こちらカイザー……こちらカイザー……レニー…聞こえる?」
………
「こちらカイザー……たのむ……レニー……応答してくれ……」
………
『ふぁあ!?か、かいびゃあひゃん?ほうひはんれふか?』
レニーめ、何か食べているな?良いからごっくんしてから喋りなさい……。それくらいの余裕は……多分あるから……。
『ごめんなさい。今グレンシャ焼きを食べてて……それでどうしたんですか?』
「うむ……。緊急事態発生だ。住宅地にある公園、そこに我々は捕らわれている。急ぎ救助に来てくれ……頼む……」
『え?救助?緊急?一体何があったんですか?それに公園といってもいくつかあって……』
「いや、実はな……っとうわあああああやめろおおおおおおおおお」
第3の子供が、今まで相手をしてきた子供よりも更に強敵で話が通じないと思われるより年齢層が低い子供が私を掴み頭から飲み込もうとしている!
傷つけないように、なんとか丁寧に抜け出せたが……よだれでべちょべちょだし、通信は変なところで途切れてしまったし……ああ、ちくしょうスミレが大笑いしている……。
と、笑っているスミレをさらなる子供がムンズとつかみ、私と同じ目に合わせている。ばかめ、その油断が命取りというやつだ。
「はあああああああああ!!!よだれが!よだれが!カイザー!見て下さい!私が!私が!はああああ!」
見事に取り乱してらっしゃる。キャラ崩壊回と言うやつだな。っとあっぶねえ!油断大敵!少し高度を上げて防御に徹しよう。レニー達が来るまで我が身を守りきれれば勝利なのだ。
フィアールカは……ああ、もうすっかり諦めた者の顔をしている……クマだからわかりにくいけど、あの顔は……目からハイライトが消えている……器用な真似をするな……。
スミレもなんとか子供たちの手から抜け出せたようで、よだれを滴らせながらヘロヘロとこちらに飛んできた。
「……今までで一番の難敵ですね……」
「うむ……なんたって反撃不可能属性持ちだからな……。まあ、こうしてここに居る限り被害は」
バサリ
嫌な音が聞こえた。瞬間、スミレとともに地に落とされ、同時に響くは男子の咆哮。
「うおおおおおお!!!珍しい虫を取ったぞおおおお!!!!」
やばいやばい!幼児の中でも危険度が高い虫取り大好き少年だ! しかも見るからにパワー系!パワー系の個体は平気な顔で捉えた虫をバラす傾向にある!やばいぞ!よだれとはわけが違う。ガチのピンチだ。
「わあああああ!綺麗な羽根!」
やばいやばいやばい!
「カイザー!もっとそっちに行ってください!先にあなたから!あなたから先に!」
「酷いぞスミレ!せめて2人で生き残りましょうくらいの事はいってくれえ!」
網の中で残念な仲間割れをする私とスミレ。こうなってしまってはもう破滅である。
……が、ここで事態は好転する。
「こらあああああ!やめなさーーーい!」
「げえ!フィオラだ!」
やってきたのはレニーではなく、フィオラだった。
「大丈夫?ルゥ?スミレさん。わあ、こんなにべちょべちょになって……もう!レンジのやつ、後でお説教しなきゃ!」
網で我々を捉えた悪ガキはレンジという名前らしい。ベチョベチョにしたのはレンジではなく、そこらの幼児達なのだが、まあ、肝を冷やしたのでそれは黙っておいてレンジくんには痛い目にあってもらおう。
「助かったよフィオラ……よくここがわかったね。話の途中で通信が切れてしまったから諦めてたんだよ」
「ふふん。そこがお姉と私の差なのよ。逃げたお姉と違って最近までここに居たでしょう? この時間に子供たちが集まる公園と聞けば一発でわかるわけ」
なるほど、地元民の利というわけか。いやしかし本当に助かった……。
「ぷふっ……しかし……、あれだけ……凄い戦いをしてきたルゥやスミレさんが……村の悪ガキ達相手に手も足も出ないなんて……あは……面白い…あははははは!」
「こ、こら!笑うな!子供達相手に暴れるわけには行かないだろ!」
「それはそうなんだけど……ああ、ごめん、ルゥ……おかしくってあははははは!」
「フィオラ……助けてくれたのは嬉しいのですが、笑うのはその……勘弁してください……」
そして遅れて到着したレニー達が見たものは笑い転げるフィオラと、何かでべちょべちょになり落ち込む私とスミレ、そして現在進行系で子供達に群がられているフィアールカの姿であった……。




