第三百七十四話 白き翼
背中に展開されたフライトユニット―翼は俺の体色に合わせた白色で、何だかやたらと神々しい。ユニコーンより穏やかな見た目になったような気もするが、器用貧乏がそのままスペックアップしたと思えばまあ、気にはならない。
カイザーの特徴である額から伸びる一本角が無くなり、何だか寂しい感じがするが、他の機体と合体した際にはきっとバランスが取れたデザインに変わるはずだ。
見た目的には角が無くなり、フライトユニットが装着され、全体的に体格が良くなった……といった具合では有るのだが、ユニコーンからペガサスに変わったとは言え、元々機体特徴がないに等しいカイザーなので、そのまま出力が上がったとしか言えないな……。
が、そのフライトユニットと出力の上昇こそが今はありがたい。我が物顔で空からの攻撃を繰り返していたバラメシオンに今なら手が届く! それどころか追いつくことさえ可能である。
「見た目はパっとしませんが、単機でシャインカイザーに迫る出力とは……カイザー、立派になりましたね」
「そりゃどうも!」
「でもほんとすごいです! まるで自分の身体が軽くなったかのような感じ……それに今までよりも飛行しやすいというか、シグレちゃんみたいに飛べる感じがして……上手く言えないけれど、強くなりましたね!カイザーさん!」
「う、うむ……!」
こんなことを言えるほど、フワフワとした雑談が出来るほど余裕が生まれている。これこそが機体性能アップの効果であり、新たな力がかつての強敵に勝るという裏付けになっているのだ。
とは言え、特に武器が増えた様子はないため、レニーは力任せの空中戦―カイザブレードを用いた近接戦を挑んでいる。哀れなのはバラメシオンだ。剣を振り回しながら距離を詰めるこちらに戸惑ってるのか、どうも動きがおかしい。
それでもなんとか応戦しようとミサイルで弾幕を張るが……、レニーの出鱈目な反応速度がこの機体とうまく噛み合ってそれをすべて避けきってしまう。
「もー! そんなでっかい弾をどんどん撃ってずっこいぞ! なんでかガントレットは使えないしこっちにはリボルバーしか無いってのに!」
そう。このシミュレーションはキリンとフィアールカが作り出したものであり、現在レニーが操っているこの後継機体の俺もまた、その2機が作り出したデータに過ぎない。
したがって、彼女達が知らないオリジナル武器であるガントレットは召喚不可能なのである。レニーが慣れ親しんでいる飛び道具が潰されているため、ミサイルの弾幕も相まってかなり苛ついているのがわかる。
そしてとうとうそれは限界を超えた。
「あーもう!あったまきた!ガントレットは使えないし、リボルバーは当たらないし!飛び道具が無いなら作っちゃうもんね!うおおおおおりゃあああああ!!」
「「な!?」」
スミレと俺の声がハモる。もしかすればバラメシオンに乗り込む仮想ノワールの声もハモっていたかもしれない……。レニーが雄叫びとともに怒りを込めてカイザーブレードを投擲したのである。
それが当たることはなかったが、バラメシオンはAIながらも驚き戸惑ったようで、動きにスキが生まれた。そしてブレードを追う様に飛翔していたレニーの拳が、カイザーアルティメットの拳がバラメシオンの胴体に突き刺さる。
「うおおおおお!カイザーブレード再召喚!今度は!当ててやるぞおおおおおお!!!」
再度手の中にカイザーブレードを呼び出したレニーはそれを構え、落下中のバラメシオンを追う。バランスを崩し、空気抵抗を受けながら落下するソレに、ブレードを前方に構え落下エネルギーと飛行ユニットの推力を全力で使って追いかける我々が追いつくのは容易い……どころか、ブレードを突き刺し、そのまま地上へと叩き落とすことすら可能であった。
まるで漫画のような……といったらなんだが、現実離れをした機動でそこから退避し、背中でバラメシオンの機体から発せられた爆風を受けるトドメ演出までバッチリと決めてしまった。
「やるじゃないかレニー。今のは中々かっこよかったぞ」
「そんな事考えてる余裕なんてありませんでしたけどね! ああ、もう! お姉ちゃん後で見せてくださいね」
「ええ、キリンに頼んでみましょう」
さて、ユニコーンをモデルとした俺はペガサスとなった。オルトロスはなんとなく想像がつくが、ウロボロスやヤタガラスはどんな姿になっているのだろうな。
恐らく俺同様に近い種類の幻獣モチーフに変化しているのではないかと思うが。
さて、どうやらバラメシオンを撃退するまでがシミュレーション訓練だったようで、取り敢えず暫くの間自由時間となった。とは言っても、これはこれで訓練の時間であり、落ち着いてじっくりと新たな身体を試しなさいというわけなのだが。
「あ!そうだ。 ねね、カイザーさん。お馬の姿もきっと変わってるんだよね」
「そうだな。そのまんま……と言ってしまったら面白みはないか。まあ試してみろ。きっと驚くぞ」
「ええと、ぺがさすっていうんでしたっけ……チェエエエンジカイザァア!モード!ペガサスッッ!!」
わざわざモードチェンジのセリフを言いながら変形ボタンをタップする……が、中に乗ったまま変形してしまうと肉眼で見えないではないか。せっかくなら最初の変形は肉眼で見て欲しい。
なので一度こちらでキャンセルをし、レニーを外に降ろしてから改めて変形をしてみせることにした。
「あーもう、折角決めたのにー!ちぇー!」
「乗ったままだとレニーが見れないではないか」
「そうなんだけどさ!じゃ、お願いねカイザーさん」
レニーからやや距離を取り、変形を始める。感覚というか、どちらにせよ馬モチーフなので体感的にはたいしてかわらんのだが、目をまんまるにしたレニーが両手を上げて歓声を上げている。
「わあ!すごい!すごいよカイザーさん!綺麗な……とっても綺麗な翼が生えてる!前の角が生えたお馬も良かったけど、翼のお馬はもっと素敵!」
外部カメラを使って自分の姿を映してみた。ああ、これは……なかなかに。ロボ形態時には機械的なフライトユニットといった具合だった翼がペガサス形態になるとまさに翼と言った具合の、なんというかガ○ダムに居るような……そんな感じのいかにも翼らしい翼になっている。
これがそのままロボ形態時にも生えていたらモロにそれになってしまうが、成る程そこはロボと馬で形状を変えてきたというわけか。これはこれで中々に好みである。
「これは……。もう少し身体を縮ませて生身の人間を乗せられるようにするとかなりモテるんじゃないでしょうか、カイザー」
「だろうね。まあ、乗り物としてだけれども」
「ふふ、馬で普通にモテてもしょうもないでしょうに」
……わかってるなら言うなよな! はあ、しかし尚更他の皆が気になってきた。さあ、早く俺にも魅せてくれ!そして新たな合体を……! きっと今ならキリンとも合体出来るはずだ。ああ、楽しみで楽しみで仕方がないよ。




