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第三百七十二話 食欲のクマ、そして

 食欲が最大限に達している時には食事の買い物をしてはならない。私は前世で、人間として日本デクラしていた頃つくづくそう思ったものだ。


 単純な話、食欲が思考を支配してしまい、余分なものまで大いに買い込んでしまうのだ。会社を出た瞬間はまだ『疲れているし、シンプルにレトルトカレーにしよう……』と、冷静な思考をしているのだが、ついついアチラコチラへと寄ってしまい、スーパーに着くのが遅くなってしまうと減りに減った腹が脳に緊急指令を出してしまう。


 スーパーで目に入る食材のどれもが魅力的に映り、気づけばレトルトカレーをベースに、トッピングのコロッケにポテトサラダ、生野菜にスープ、そしてデザートのプリンまでカゴに入れてしまっている。


 帰宅をしてそれを盛り付けたところでピークが過ぎ去り(あれ……なんでこんなに買っちゃったんだろう……疲れて食欲が……)と、後悔タイムの始まりだ。



 現在のパイロット達がまさにその状況なのだ。後悔することになるかどうかは別として、儀式だ何だですっかりご飯を忘れてしまっていた彼女達は恐ろしい量の食事を用意していた。


 そう、彼女達の手にはバックパックというストレージ(食料庫)があるのだ。欲望のママ好きなだけ、そこから食料を、しかも熱々の状態で取り出せてしまうわけだ。


 豚汁を作りあげた私とミシェルが鍋を持って食堂に入ったらびっくりだよ。なんのパーティーだというくらい用意された料理の山。


「あの……君たち?」

「いやあ、アレも食べたい、これも食べたいって思ったらこんなになっちゃってよ……へへ……」


 へへじゃないよ、へへじゃ……。まあ、食べ切れない分はストレージにしまえばいいだけなんだけど、冷めちゃうんだからね?その辺は理解しているよね?


「カイザー!私びっくりしたの。 異世界だっていうから、覚悟をしていたけれど、見たことが有る料理がたっぷりなの! 食べていいの? いいの? いいの?」


 フィアールカが短いしっぽをプリプリと振り、私におねだりをしてくる。ちくしょう、めちゃくちゃかわいいな!


「ああ、好きなだけ食べていいよ。この後は忙しくなるんでしょう? たっぷりたべな」


「わあい!」


 と、両手を上げ喜ぶフィアールカ。ちくしょう、愛らしく動くクマは反則だな……。ああ、ラムレットとミシェルが慈しむような目でフィアールカに食事をとってあげている……。


 3歳児くらいの体格だからね。体内がどういう仕組かは知らないけれど、私やスミレと違って皆と同じペースで食べられるんだろうなあ。それだけはちょっと羨ましいや。


 暫くの間、食事を楽しみ……しっかりとデザート?のパンケーキも平らげた一同は膨れた腹を辛そうに擦りながらそのままこの後の説明を聞くことになった。


 説明役のフィアールカもお腹を辛そうにしている……。どれだけの量を食べたのだろう……。


「ふうふう……。それじゃあこの後の説明をするのよ!まず、キリン以外のパイロット達と、機体達!よく聞くといいの!貴方達はこの後色々忙しくなるの!」


 そりゃそうだ。キリンは換装の必要が無いだろうから、メインは私達になるのは当たり前。それは良いけど何をさせるつもりなんだろう。


「私のかわいい子グマ達がカイザーたちを換装するの。システムもちょっぴり弄るから、そこはキリンに協力してほしいの」


『ああ、そうだろうと思って用意をしているところだよ』


「……突然喋らないでほしいの。居ない声が聞こえると心臓に悪いの……」

『ほう、君は心臓を実装しているのかい? 興味深いな、どうだい君も一度オーバーホールをしてみては』

「物の例えなの!キリンは黙るの!話が進まないの!」


 それについては同意だ。


「こほん。それで、各機体とそのパイロット達には新機体を上手く操縦出来るよう、シミュレーションをしてほしいの。作業時間は凡そ2時間。シミュレーション内の時間の流れを調節するから大体20時間くらいは練習できるの」


「それだけ時間を引き伸ばして体調に影響が出ないだろうか」

「ん、大丈夫なの。バイタルはチェックするし、安全面を最大限に考慮した上限でやるから平気なの」


 ……と、そんな具合にフィアールカの説明は淡々と進められていった。これより我々はハンガーに移動をして、各パイロットはそれぞれ機体に乗り込む。現在キリンが各機体にインストール作業を進めているシミュレーションプログラムをそれぞれ実行し、新機能に慣れてもらう……ということだ。


「なるほど、巫女長が言っていた『試練を乗り越え新たな力を手に入れる』とはこの事だったんだ。てっきりキリンと出会ったのがそうかなって思ってたよ」


『私は力と言うよりは智慧と言ったほうが的確だからねえ。ああ、フィオラ君にラムレット君。カイザー達の仕込みが終わったら君たちも訓練に入るからね』


「おお、それは助かるよ!まだちょっとお前の力を出しきれてないなって思ってたからね!」


『ううん、ラムレット君が思い描いているような内容ではないかもしれないが……まあ、お楽しみに、だ』


 広く感じたハンガー内が狭く見えるほどパーツの山が積まれている……これは換装というレベルではなく、ほぼ作り直されてしまうのでは?


「大丈夫なの、カイザー。私のこぐま達は優秀なの! 修行が終わったら生まれ変わった気分になるの!」


 ……それを聞くと完全に別物になる予感しかしないのだが……しかし、楽しみは楽しみだ。


「カイザーさん、お姉ちゃん、がんばろうね」

「ああ、一体どんな事になるのかわからんが、楽しみだな!」

「今回ばかりは私にもわかりませんからね。皆で協力して乗り越えましょう」


『じゃ、シミュレーションを開始するよ。……ふふ、幸運を祈っておくよ』


 キリンの思わせぶりな一言と共に強制的にシミュレーションプログラムが実行された。意図せず始まったため、なんというか、強烈な貧血を起こして目の前が暗くブラック・アウトしたかのような感覚である。


 やがて暗闇に光が差し込む。どうやらシミュレーションが始まったらしい。なるほどこれは……。


「周囲の情報から推測するに……ここを太陽系第三惑星地球と推測。カイザー、レニー。私達は仮想空間上ではありますが……どうやら地球の町外れに降り立ったようですよ」


 何処か懐かしいが、ちょっと様子がおかしいこの景色。なるほどなるほど。どうやら我々はアニメの世界の日本に降り立ったようだな。

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