第三百七十一話 腹時計
宇宙に漂うこの無人基地は私が知るポーラとはちょっと設備が異なっていた。極大光輝剣、恐らくスペースを取りまくっていただろうこれがその保守設備ごと存在せず、代わりに私達の予備パーツを保管するスペースが設けられていたのだ。
私達の身体は謎パワー……(キリンいわくナノマシンの力らしいのだが)によってどれだけダメージを受けても輝力炉が破壊されない限りは自動的に修復されていく。
しかし、あまりにも重篤なダメージを受けると修復に時間がかかり戦線を長く開けることになるため、予備として換装パーツは絶えず用意されていて、いざという時は手っ取り早く交換してしまうのです。
ただ、流石に『シャインカイザーを再現できるようなるべく便宜を図る』と、言っていた神様も基地だけは送ってくれなかったため今日まで怪我をしたらじっと直るまで休む、といった野生動物のような治療に頼らざるえなかったわけだ。
グランシャイナーやポーラをこちらに転移させておいて基地を転移させなかったのは何故か?それは恐らく直接的すぎる技術の伝来を防ぎたかったのではなかろうか。
グランシャイナーのクルー達だってそれなりに知識は持っていたはずだが、隔離された土地へ降ろされ、時が来るまで外部に漏らすなと念を押され、さらには長く年を重ねるうちに多くの知識が失われてしまっているわけで、結果としてこちらの世界に直接的な知識をもたらすことにはならなかった。
神様としてはあくまでも俺たちからジワジワと技術が伝えられ、ロボット文化が広まっていく形にしたかったのかもしれない。
そしてそれが広まりきった今、世界の敵が活動を始め、部隊が整った今こそ時は来たとグランシャイナーとポーラを目覚めさせ、全ての能力のアンロックが許可されたのだろう、私は勝手にそう推測しているけど、ほとんど正解なのではなかろうか。
さて、機体のカスタムだけれども、どうやらグランシャイナーにパーツを持ち込んで組み込むみたい。そりゃそうだ、ロボたちはどう考えてもポーラに乗り込むことは出来ない。あちらの作りは人間向けだからね。
「なんだー、てっきり子グマ達がせっせと運ぶんだと思ったのに違うのかよ」
「ふはっ……なんてことを言うんだよマシューは……それは流石に……可愛すぎるだろう?」
マシューとラムレットが次々と格納庫に転移してくるパーツ達を見ながら面白い話をしている。確かに私もちょっと考えたよ?あのタラップをえっちらおっちらと子グマ達が列をなしてパーツを運ぶ様子を。ああ、可愛いなあって思ったけどパーツはめちゃくちゃ大きいからね。いくら子グマ達が力持ちだとしても、通路を通らなければ持ってこられないのだ。
そこでストレージ経由の移動だ。あちら側でレニーがせっせとカイザーのバックパックにパーツをしまい、こちらでスミレがせっせと取り出している。ちょっとした転移みたいなもんだ。
届けられたパーツはキリンがせっせと整頓し、後に作業をしやすいように頑張っている。幸いなのが運ばれているパーツを見ても完成図が想像できない事だ。ああ、劇場版のネタバレはもうどうでも良いんだ。 ただ、それはそれとして、自分や皆がどんな姿に変わるのか、それだけは実際に見て驚きたいなっていうのは有る。
パーツの移動は打ち止めのようで、レニーがフィアールカと手をつないでこちらに戻ってきた。
「ただいまー。ねえ、カイザーさん、フィアールカも御飯食べれるんだって! 作業の前におやつにしようよ!」
村に来てから慌ただしく事が進んだため、今の時間すらあやふやになっていたけれど……そう言われるとお腹が空いてきた気が……する。そもそも私やスミレは腹が減るということはない。食料から輝力を得なくてもパイロット達や周囲から発生する輝力で賄うことが出来るからなんだけど……。
「うおおー! もう夕方じゃないか!レニー、おやつって時間じゃねえぞ!」
「あら、もう18時を過ぎてますわよ! 言われてみればお腹が空いてきましたわね……」
皆気が張っていたというか、状況についていけなくなっていたと言うか。ましてソラにいると時間の感覚がおかしくなっちゃうもんね。
「よーし、じゃあ食事をするものは食堂へ移動! まずは腹ごしらえだ!」
「「「おー!」」」
グランシャイナーの食堂は……ムダに広い。いや、そもそも10人にも満たない我々だけで使うものではないわけなので、決して無駄な広さというわけではないのだけれども。
今回は突然のことで我々だけ乗り込み発進し、それっきりになっているわけだけれども、レニー母の口ぶりからすると、この後地上に帰還した後は村の人々がクルーとして乗り込むことになるはずだ。そうなるとこの食堂もこの広さの意味を発揮できることだろうね。
「カイザーさーん!ちょっといらしてー!」
厨房からミシェルが呼ぶ声がする。 スープくらいは作ると張り切って飛び込んでいったけれど、なにかあったのだろうか。
「あの……お鍋をかけようとおもったのですが……その、コンロが見つからなくって……」
ああ、なるほどね。グランシャイナーの設備は異世界のものだ。ミシェル達に馴染みがないのは当たり前の話だよね。
とは言っても、魔力を電気のように使った魔導具というものが存在しているし、その使い方も家電とよく似ている……そもそも元はウロボロスが地球の技術を転用して産まれたモノたちだから、そこまで悩むようなものではないんだけど……と、来てみればなるほどこれは。
「ああ、なるほどな。この台がそっくり魔導コンロみたいになっているんだよ」
「これ全部ですの!?」
ミシェルに見せているのは大型のIHコンロだ。テーブルのようになっている天板に鍋底サイズの二重丸が5つ、番号とともに描かれている。
「これは……うん、流石に翻訳されてないな。この『1』という文字は数字の1だよ。で、こっちが2で……」
「ああ、なるほど。そこの数字とこちらの数字が対応してますのね」
「そうそう、ってわざわざ読み方を教える必要はなかったね」
「いえいえ、異世界言語に触れる機会なんてそうありませんわ。教えてもらえたほうが嬉しいです」
そうかい、と。 目をキラキラさせて張り切るミシェルにコンロの使い方を説明していく。基本的には魔導コンロと仕様は似ているんだけど、細やかな温度調整やタイマー機能に防火機能と、やたらと高機能なこのコンロにすっかり興味が湧いたようだ。ああ、そうか……この娘、商人だったね……。
このキッチンにはまだまだ電子レンジやオーブンと言った魅惑の道具があるんだけど……ミシェルが聞いてくるまで知らんぷりをしておこう。それの説明を始めてしまったら何時になっても食事が始まらないからね……。




