第三百七十話 提案
神様による壮大な仕込み……と思われる永年にわたり封印されていたポーラの輝力炉は停止寸前にまで追い込まれていた。完全に輝力炉が停止してしまえばポーラは姿勢維持ができなくなり、宇宙の彼方へ吹き飛んでしまうか、最悪の場合地上に落下してしまう。
「デブリが殆ど無い美しいソラなのが幸いだったの」
と、後にフィアールカがため息混じりに語っていたが、細かいデブリが当たる度に姿勢制御をしていたらとっくに輝力は尽きていただろうね……。そこまできちんと計算してのことだろうけど、全く無茶なことをしてくれたもんだよ……。
グランシャイナーからポーラへの輝力補給はキリンの操作によりつつがなく終わり、各機能が復活した基地内にはパイロット達が見学に訪れていた。
「ほえー、これ空に浮いてるんだよねえ? 凄いなあ、こんなに大きな建物が空に浮いてるなんて」
間が抜けた声を出して感動しているのはレニーだ。厳密には浮いているのとは少し違うのだけれども、私自身、きちんと説明出来る自身が無いため敢えてそれには触れずニコニコと誤魔化すことにした。
その様子をスミレに見られなかったのは本当に助かった。スミレが見ていたら『ふふ、カイザーならおわかりですよね。レニーに真実を教えて上げなさい』と無茶振りをしてくるはずだからね……勘弁して欲しい。
「まあ!まあまあまあ!なんて愛らしいんですの!」
「うわあ……うわあ! こっちにも、あっちにも!働き者だなあ!お前達!うわあ!」
「ああ、ガアスケにもこんな愛らしい時期があったのでしょうか? ああ……可愛いなあ」
基地内を忙しくチョロチョロと動き回る子グマ達にぞっこんなのが3名。ミシェル、ラムレット、そしてシグレである。マシューやレニー、フィオラもそれなりに子グマ達に目を細めてはいたのだけれども、特にこの3人はすっかりやられてしまい、見学の間もほとんど子グマたちにばかり構っていた。
「もー! そんなにかわいがってもあげられないんだからね!この子達はここのクルーなの!連れて帰らないでね!」
「あらあら、フィアールカ? ヤキモチですの? ふふ、フィアールカが一番賢くて可愛いのはわかってますわよ! さあ、私のお膝にいらして? 毛並みを整えてあげますわ!」
「い、いらないの! 別にヤキモチじゃないの! もー!カイザー助けてなの!」
ミシェルに捕まりジタバタと手足を動かし抵抗をするフィアールカ。その気持は痛いほどわかるぞ、フィアールカ……。だが、すまない……今の私は無力だ……君を助けることは叶いそうにない。
やがて基地内の見学が終わってしまった。基地とは言え、あくまでも地上の補助を役割とする施設なので、特に面白みがないというか、説明のしようがないと言うか、見どころというものはなく、あっさりと終わってしまった。
ただ、各機能は万全に可動しているのが確認でき、各種通信範囲の制限が解除され、テストとしてではあったが、ようやく地上の基地に詰めるアズベルトやトリバのレインズ、そしてリーンバイルのゲンリュウにそれぞれ現況報告をすることが叶った。
突然の通信、しかも今までにないほどクッキリとした映像通信に皆驚きの声をあげていたが、何より我々が遠く高い天の上に居るというのはにわかには信じられない様子だった。
「そのうち船で皆の顔を見に行くからね」
なんとなく言ったその言葉にゲンリュウとレインズは島や街に港が有るため少々不思議な顔をしただけだったが、アズベルトはとっても変な顔をして首を傾げていたよ。
ここでネタバラシをするのも面白くはないので、どうやって天に上ったのかを含めての報告は後でということにしたけれどね。ふふ、グランシャイナーを見たら腰を抜かすだろうな……。
ただ、残念な報告もあった。本来ならばこの基地に装備されているはずの必殺武器、極大光輝剣は未実装……というか、そもそもその存在が無かった。
フィアールカは勿論、キリンもそれを知らないということは、終盤のシナリオが大幅に変更されているらしい劇場版にてオミットされてしまったのだろう……。確かに空から落とす意味とは!って思ったけど、ロマン溢れていて好きだったし、この現実世界で使った場合どうなるのかちょっぴり興味があったんだけどな……。
しかし、それを上回る嬉しいことがあった。それはフィアールカを連れ、グランシャイナーを案内していたときのことである。
「おお!おお!フィアールカ!ああ、フィアールカを直に愛でられる日が来るとは!いやあ、嬉しいなあ!嬉しいなあ!もっとこちらに来たまえよ!手のひらに乗り給え!じっくりとスキャンをしてあげようじゃないか!」
「うわあん! カイザー助けてなの! キリンはミシェル以上にくどいの!」
「わ、私をキリンと一緒にするのはやめてくださいません?」
フィアールカを格納庫に案内すると、まずは予想通りキリンの洗礼を受けることとなったのだが、それをなんとかくぐり抜けた彼女は私達の機体を一通り眺めつつ、挨拶をし合った後、キリンと興味深い話を始めた。
「ふうん、私やキリンが居ない世界から来た別のカイザー達……でも、こっちのカイザー達とあまりかわらないのね」
「そうなのだよ。とは言ってもこちらの彼らと違って未換装というだけで、中身は全く同じだと思うけどね」
「そっかー。じゃあ、換装しちゃお? 基地に予備パーツは残っているし、それに必要なシミュレーションデータもグランシャイナーなら使えると思うの」
「それは良い!それは良いよ!なあ、カイザー!君達、新しくなる気は有るかい!?」
「新しく……?それってまさか……」
「ああ、君風に言う所の『後継機体』になろう!」
厳密に言えば最新型のものにパーツを換装し機体性能を上げるという話だったが、機体によってはかなり手が加わり別機体となるとのことだった。
僚機の皆の意見を聞いたが、1機としてそれを否定する者は無く、皆同様にその話に首を縦に振った。
「うむうむ!それでこそブレイブシャインだよ! よし、フィアールカ!早速ですまないが支度を始めてくれたまえ!私はカイザーやパイロット達に説明をしないといけないからね!」
「まったく目覚めてそうそうに忙しいの!」
そして慌ただしく事が進んでいくのだった。




