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第三百六十六話 神星

 場の雰囲気と言うか、急かされるような状況というか……言ってしまえば火がついたロケット花火を持たされ『はい!投げて!』と言われたかのような選択肢が無い状況だったし、正直な所言ってみたかったセリフの上位に入る「発進コール」を言えと言われて断れるわけがなかろうよ!というところがありまして……。


 特に深く考えないまま艦を発進させてしまった私、ルゥなわけですが……。


「ちょっとまって!待って!? 発進って言ったのは私だけど、状況に追いつけない! え?発進しちゃったんだよね? なんで?っていうかどこに行くの?」


 超大型輝力炉の出力がグングン上がり、現在当艦はグングンと高度を上げています。私以外の皆も―フィオラですらこの状況に驚いているわけなんですが……。


「えっと、私もその……母さん……いえ、巫女長から渡されたメモを読んでるだけで事前の説明は一切なくてわかんないんだよお!」


「ええい、そのメモをちゃんと見なさい。この後の事が書いてあるんじゃないの?」

「あ!そうか!」


 そしてメモ……と言うにはしっかりと製本され、最早マニュアルだろうと思わせるそれをじっと読んでいたフィオラだったが、ホッとした顔で今後すべきことを教えてくれた……のだが。


「ええと……こほん。神機グランシャイナーはこのまま暫く上昇を続けます。その際、ルクルゥシアに感知されるかもしれませんが、奴にはまだ手出しができないだろうし、村の位置がバレてしまうのも今となっては問題ない……ってバレちゃうの?」


「レーダーや通信を扱う私達が言えたことじゃないけど、ルクルゥシアって体外チートだよね……。何処に居るかわからないけど、私達の動きを感知できちゃうんだもんなあ。ずりー」


「続けるね。えっと、このまま高度400kmまで上昇し……神星を掴み上陸せよ……って書いてるけど……ルゥ、わかる?」


「神星……? 大神のせいなのか巫女達のノリなのかはわからないけど、私が知ってる呼び名と違う書き方してるからピンとこないとこがあるんだけど……でも、該当するのは1つしか無いよねえ、スミレ」


「ええ。恐らくは無人宇宙基地【ポーラ】がそれに該当すると思われます……しかし、ポーラとは何度か接続を試みましたが応答はなく、てっきり居ないものと思っていたのですが……」


「……あの神様のやることだ。グランシャイナーがあった以上、ポーラもまた存在してる事は間違いないだろうよ。何らかの事情があって休眠しているのを我々が起こしに行く……そんな感じじゃないかな」


 無人宇宙基地【ポーラ】それはシャインカイザーにおいてそこそこ重要な役割を担っていた。衛星軌道上に存在するポーラは我々の通信範囲を大きく拡げる役割がある他、特殊兵装―所謂トドメ専用の超大型装備を格納しており、使用時には上空からシャインカイザーの元へ投下するという派手な役割もあった。


 アニメだからなんとも思わずにみていたけれど、こうしてリアルな世界になった今それを考えちゃうとちょっと首を傾げてしまう部分もある。


 まず、こんな高いところから投げつけられた超大型武器の落下エネルギーがどれだけ有ることか。カイザーに渡さず、そのまま敵に当てたほうが効果的なのではなかろうか? そもそもそれが落ちてきた事による周囲へのダメージのほうが敵の攻撃より酷いことになるんじゃあなかろうか……。

 

 そもそも使い終わった後、また律儀に空まで帰っていく……のだろうか?


 最も、そういった『考えるだけ無駄』な『アニメなんだから良いだろ』という理屈では証明できない謎は全て『アニメ特有の謎パワーでどうにかなっているのだ』で片付けられてしまうのだろうから私もいちいち気にしないほうが良いのだろうな。それを言ってしまえばそもそも、このグランシャイナーがどうやって……輝力を利用しているのだろうが、それでどうやって浮上したのかも証明できないわけだから。


 かなりの速度で上昇している筈なのにパイロット達はケロりとしている。Gを感じていないのだ。恐らくはこれも謎パワーでどうにかしている部分なんだろうな。


「カイザー、指定高度に到達しました。対象……、推定『ポーラ』を探査開始……補足完了。ドッキングに備え艦を前進させます。許可を」


「ああ、グランシャイナー前進」

「前進開始。凡そ327秒後に対象が目視可能となります」

「うん、任せたよ。ドッキング可能になったら教えてね」


 頼りになるよなスミレは。一応一通りのナビ知識は備えてるんだもんな。そりゃポーラとの接続マニュアルも頭に入ってるってわけか。


 ……と、静かすぎてパイロット達のことを忘れかけていた。


「どうした君達。フィオラやマシューまで大人しいじゃないか。何処か調子でもわるいのかい?」


 ブリッジの全面を覆うモニタには我々が住んでいる星が青く輝いている。そうだろうなとは思っていたが、流石にあの大陸以外にも大きな大陸が存在しているようだ。人が住んでいるかどうかはわからないが……全てが終わったらみんなで旅に出るのも面白いかもしれないな。


「……カイザーしゃあん? あの、下に見える青いのってもしかして……?」

「ああ、君達が住んでいる星だな」

「私達が住んでいる場所もまた天に光る星と同様に宙に浮いている大きな物質であると提唱する学者は居ますが……まさか本当だったんですのね……」


 むう。あれだけの技術力がありながら、まさか……。


「もしかして住んでいる星が球状ということや、他に大陸が有るってことも知らなかったり……?」


「あたい達が玉の上に立ってたってのは……置いとく……。他に大陸……?リーンバイル以外に島があるとは誰もしらないんじゃないか?」 


「リーンバイルに来られる船が多くは居ないということから分かる通り、安全に航海が出来る船というのはあまりないのでござる。それに……外海には昔から魔物が、今の魔獣以前から棲む魔物が居ます故、人が住める環境ではないだろうと言われています」


「なるほどね……。ま、いつかみんなで様子を見に行ってみようよ。このグランシャイナーなら魔物がいる海も関係ないしね」


「……なんでルゥはそんなに落ち着いてられるの? 住んでるところがおっきな丸い玉だったんだよ?」

「全くだよ。アタイなんてもうずっと心臓が飛び出しそうだ……」


「なんでって、私が住んでいた地球では子供でも知っている知識だったし、この惑星(ほし)でも他に大陸有るんだろうなあとは考えていたからね」


「そんな凄い世界なのになんで機兵が実現してないのか不思議で仕方がありませんわ……」

「それは私も同感だけど、ま、色々な事情があるんだよ。」


 推測するに大陸から出られる船を開発するリソースが機兵に全て向かっていった結果、大航海時代が訪れず、大戦により更にそれが有耶無耶になったのではなかろうか。一部の学者は天動説を提唱してみたり、地球も星であると研究してみたりしてはいるのだろうけど、やはりそれも『どうでもいい情報』として処理されているのかもしれないな。


 そしてこれは予想だけれども、私達の世界からもたらされた影響が無いエリアには未だ旧世代の魔物が数多く生き残っていて、それらが他の大陸からの航海も阻害し、未だに大陸間の交流が実現していないのでは……?


 地球のペースで行けばもうとっくに宇宙進出可能な文明が起きるくらい時が経ってるからそれはちょっと適当すぎる推測だけれども……。魔物が居る世界だから何か事情があるのかもしれんなあ。神様が退屈がって私を呼んだくらいだものな。


 と、気づけばどうやらそろそろドッキング可能な頃合いらしい。話に夢中になっていて気づかなかったが……ああ、これはまた大きな基地だ……。


「やはり神星とはポーラだったか」

「カイザー、もうずっと視界に入っていましたからね。思考に入り込みすぎるのはよくありませんよ」


「ごめんごめん。えっと、ごほん。では【ポーラ】へのアクセス開始」

「了解、ポーラへ接続開始……無線接続を試行しましたが応答は得られませんでした」

「ん、地上からアクセス出来なかったから予想はしてたよ。では有線接続を試してくれ」

「了解。有線通信ユニット射出……対象に到達。ケーブル接続完了……アクセス開始……なるほどこれは」


「なにかわかったかい?」

「輝力炉がほぼ停止状態です。こちらから輝力を提供することにより最低限のドッキングは可能となりますが……」


「よし、ドッキングの後、私とスミレで様子を見に行こう」

「なるほど、我々ならば周囲環境に関係なく行動できますからね」

「うん、元々無人機なのも有るし、何よりこの状況で生体維持装置が働いているとは思えないからね」


となると……この艦の権限は……と。


「キリン、今までの会話聞こえていたよね?」

『ん?ああ、勿論だとも。いやあ、何を言っても君のネタバレになってしまうからね? 口を開かないようにじっとしてるのがもう、大変で大変で』

「キリンストップ。……ええとというわけで、私とスミレはポーラの様子を見に行ってくるから……、キリンはこの艦を頼むね」


『了解だとも。大船に乗ったつもりで行ってきた前よ。ああ、これより私はグランシャイナーにメインシステムを回すから、文字通り私が大船になるわけだけれどもね!はっはっは』


 なんだか良くわからないジョークのようなことを言っているが、そこは面倒だから無視をしよう……。


「……カイザー、キリンと遊ぶのは終わりにしてください。これよりドッキングを開始します」

「遊んでたわけじゃないんだが……。いいよ、カウントダウンどうぞ」

「接続開始……10秒前……3……2……1……接続作業に入ります……各種コネクタ接続完了……輝力放出開始……ポーラへの輝力供給成功。ポーラの一部機能が使用可能になりました」


「ありがとう。うん、問題ないようだね。じゃあ、みんな。私とスミレはちょっとあっちの様子を見てくるから、君達はここでキリンの指示を聞きながらモニタリングしててね」


「気をつけてくださいね、カイザーさん、お姉ちゃん」

「ああ、お土産は……期待出来ないが、行ってくるよ」


 フィオラのマニュアルは「上陸せよ」「現地にて神託をうけよ」で大まかな指示は終わっているらしいし、後はどうなるかわからない。悪いようにはならないだろうけど、さあ、何が待っているのかわくわくするね!

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