第三百六十話 おきがえ
「これは…… まるで格納庫じゃないか……」
パイロット達と別れ、それぞれ自立機動で建物に足を踏み入れた我々ロボ軍団は驚きを隠せないでいる。巨大な蔵にしか見えない建物の中に入ってみれば、そこは何処かで見たような格納庫。
何も格納されていないその場所はホコリ一つなく、清浄に保たれている。その様子に感心していると後ろから男性の声が聞こえてきた。
「改めまして、ようこそいらっしゃいました。カイザー様、オルトロス様、ウロボロス様、ヤタガラス様……それと、貴方がキリン様ですね」
我々の名を呼ぶのはレニーの父親だった。我々はまだ自己紹介をしていないのに名前を知っているのは何か神主的な力なのだろうか?
「ああ、あなた方のお名前は娘から聞きました。いやあ、妻から追い出されてしまいましてね。レニーちゃん達のお着替えが終わるまでカイザー様を持て成してきなさいと。ははは」
残念そうに笑うレニー父。そりゃそうだろう。娘たちが着替えるってなら追い出されるのは当然の事。天然なのか残念なのかはわからないが、しかし嫌な感じはしないな。
「ああ、様々な疑問が有るでしょうが、それはレニーちゃん達が来てから改めて。取り敢えず自己紹介をさせてください。私はレニーちゃんとフィオラちゃんの父親で、ジーン・ヴァイオレットと申します」
「ご丁寧にどうも。ご存知かもしれませんが、俺はカイザー、そしてこの妖精のようなのが戦術サポートAIスミレです」
「どうも、スミレです。カイザーのお守りを担当させて頂いています。どうぞよしなに」
ふよふよとジーンさんの元に移動をして恭しく礼をするスミレ。中々貴重なシーンだ。録画したい。
「……驚きました。レニーちゃんが随分と可愛らしい人形を抱いていると思ってましたが、貴方も機神様だったのですね」
「機神が何かは存じませんが、私はあくまでもカイザーの付属物です。この体はこういったやり取りをしやすいよう、自前で作ったものですよ。ああ、そうだカイザー、後々誤解を招かないようここであっちの紹介もしておきましょう」
「あっち……?」
首をかしげるジーンさん。俺も一瞬何を言っているのか解らなかったが……ああ、成る程『私』にも自己紹介をしておけ、というわけだな。
「失礼。少しかがませていただきます」
ジーンさんに声をかけ、カイザーの身体を動かして降りやすくする。そしてコクピットの隅に腰掛けていた『ルゥ』に身体を移し、ついでに馬のカイザーも連れて外に出た。
「ええと、なんというか。スミレ同様に人との交流を円滑にするため用意した身体で……、この私もまたカイザーです。フィオラからは『ルゥ』と呼ばれていますが、中身はあのデカい奴と同一と思っていただきたい」
「なんとも……愛らしくなってしまいましたが……その体もまたカイザー様なのですね。ということは、そちらの小さな馬も?」
「はい。これは少々事情が異なりますが……。例えるならば、私からわずかに分離をした魂が入った別個体。ある程度情報の共有はできますが、『カイザー』と『ルゥ』のように私が中身を入れ替えて動かすわけではなく、あくまでも独立した存在です」
「ふむう。アイリちゃんならピント来るのかも知れませんが……ああ、アイリちゃんというのは私の妻で、レニーちゃん達の母親です。後ほどアイリちゃんから説明があると思いますが、私はこんな格好をしては居ても特別な力はなにもないものでして……」
アイリちゃん……。なんと言うか、甘々な家族だな……。子供達は別にそんな感じはしないのに……っと、呼び名が強烈過ぎて引っ張られるところだった。『特別な力』って言ったよね。『巫女』という単語『神社』そしてこの格納庫……。円盤目当てでやってきたけれども其れ以上の何かが得られそうな予感しかしない。
「詳しいお話は祭りの際にアイリちゃんから聞けることでしょう。さて!ここに来ていただいたのはお休みいただくためだけではありません! ハナ、ミケ、こちらに」
「「はい」」
ジーンさんの呼びかけに返事をしながら現れたのは二人の少女。どちらもコスプレのような巫女装束に身を包んでいる。コスプレのようなと思ってしまったのはどう見ても日本人ではない、白人の美少女のような娘さんがたが巫女服に身を包んでいるというその見慣れない光景が……、先入観がそうさせたんだろうな。
名前もまた、和風というか、ペット的と言うかなんというか……。
そんな余計なことを考えている間に彼女達はどんどん何やら布を運んできていた。何処か綺羅びやかなその大きな布を何に使うのだろうと観察していると……。
「はい、では機神の皆様方もカイザー様同様に身体を低くしてください!おめかしの時間です」
『ええ?おめかしと言ったかい?』
『もしかしてその布、私達に……?』
「はい!ウロボロス様! これから神事が始まりますので、皆様にも正装を着ていただくのです」
『おきがえだって~!』
『僕たちもお着替えだってー!』
『拙者……服を着たことなど無いのですが……』
『ははは、私はあるぞ!毛皮をね!我々には不要な服という存在だが、あれは悪いものではない。そもそも服というのはだね……』
「はい!キリンストップ! 皆さんが作業出来ないでしょ!」
『おおっとすまない!いやあ、今まで静かにしていた反動がね……』
「わかったから身体を屈めて……」
「ありがとうございます!カイザー様! さあ、二人共!」
「「はい!」」
そして私達ロボ軍団は二人の巫女達によって新たなフォームに変身を遂げるのであった……。




