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第三百五十二話 VR訓練

 日に平均80mの速度で作られていくトンネルだけど、この作業は実質キリン1機で、パイロットすら乗せずに完全に単体で行われている。


 単純計算で5日目に開通することとなるわけだが、その間ただただダラダラと過ごすわけにも行かず、かと言って手伝えることは皆無とあって急遽VRを使ったパイロット訓練を実施することになったのだけれども……。


『ちくしょう!何だよそのデカいスミレは!反則だぞ!』

『お姉ちゃんの姿はズルいよ!攻撃しにくい!』

『全くですわ! ちょっとカイザーさん? もう少し戦いやすい姿に出来ないんですの!?』

『いやはや、実際目にすると戦いにくくて仕方がないです』


「それはスミレに言って欲しい」

「ルクルゥシアは狡猾。どんなあくどい手を使うかわかりません。ほら、訓練を再開しますよ」


 現在彼女達が居るのはVR空間、カイザーシステムのOS内である。本来の用途としては、何らかの理由でカイザーやスミレが動けない際にパイロット達が自らの手でシステムの修復ができるよう実装されている機能なんだけど、それを都合よく訓練に使ってしまっているわけだ。


『あはははは!あた、あたしはお腹が痛くて……戦いにくいよ……おっきなスミレさんって!あははは』

『アタイには……アタイには……スミレを攻撃するなんてできないよ……』


 シャインカイザーのコクピット内にはパイロット用以外にもメンテナンス用に予備の接続システムが搭載されているため、フィオラとラムレットもこの場に招待することができたんだけど……、彼女達もまた、巨大なスミレを見てきちんと戦うことが出来ないようだ。


「まったく……。これじゃ訓練にならないな。しょうが無い、スミレ」

「はい、ではフォームチェンジしましょう。MODE:KAISER UNLIMITED」

 

 スミレの声と共に私とスミレが乗り込んでいる巨大なスミレ、カイザーの外装を纏った【スミレカイザー】が姿を変えていく。何か別の姿に変形をしていくというよりも、外装となっているカイザーがその割合を増やしていっているというか……いや、鎧が身体を覆う範囲が増えていくと言うべきか。


 フォームチェンジが終わると、メカメカしい姫騎士といった風貌になった。口元まですっぽりと覆うように変形した頭部パーツは目だけが露出していて、よりメカ少女らしさが増している。腕部パーツや脚部パーツは通常モードよりも肌に密着するかのようなスマートな見た目に変わっているが、その分腕周りの装甲は増し、まるでガントレットを装備しているかのようになっている。


 腰を覆うスカートのようなパーツは鎧らしくなり、足元は西洋甲冑の脚部パーツのような具合になっている。


 背中にはフライトユニットが展開されており、飛行可能な他、地上戦であってもそれをスラスター代わりに高機動を実現。パイロット達の要望に答えた結果、見た目的には戦いやすくなったが、相手として非常に戦いにくい存在になったというわけだ……まあ、一度彼女達(カイザー組)をこてんぱんにする必要があるのでこれはこれで好都合なのだけれども。


『これならやれる!』


 やる気に満ち溢れたマシューの声を合図にシャインカイザーとキリンが即席フォーメーションを組んでこちらに向かってくる。


 カイザーの攻撃は予想可能だが……、キリンの攻撃は未知。まずはお手並み拝見といこう。


 まずはカイザーが我々のもとに到達した。シャインカイザーもまた、飛行パーツが搭載されているため、スミレカイザー同様に地を滑るようにスイスイと動いて左右に撹乱しながらカイザーブレードで斬りかかってくる。


『甘いですよ』


 それをヒラヒラと木の葉のように躱し、すかさずガントレットで反撃を加えるスミレ。中々に容赦がない。


『今まではレニーをメインに置き、他のパイロットは基本的に各部位の制御に回っていましたね』


 反撃から転じ、拳や蹴りを繰り出しながら淡々とスミレが語る。AIとは言えなんて器用な奴だ。


『しかし、それだけでは何かあった時に大幅な戦力ダウンに繋がりますし、何より勿体無いのです』


『勿体無い……? っく!どういうことなの、おねえ、ちゃん!』


 レニーも負けじと反撃を試みるが、スミレが腰から抜いたナイフで剣を叩き落とされバランスを崩す。そこに足払いをかけ、カイザーを地に転がしてスミレが厳しい声を出す。


『剣が苦手な貴方が何故剣を振るのでしょう? 剣ならもっと向いたパイロットが居るのでは? と言ってるのです』


「私が……私が役に立たないといってるの? お姉ちゃん!」


『そうは言ってませんよ、レニー。得手不得手があるのだというお話です。そうですね、例えば剣ならリーン刀の鍛錬をしていたミシェルが達者でしょう? マシューはレニー同様にインファイトが得意ですが、近接格闘術を使うレニーと違って、ナイフやトンファーと言った近接武器に向いています。

 シグレはミシェル同様、リーン刀が達者ですが、それよりもクナイやシュリケンと言った投擲武器や銃を使った遠隔攻撃に向いています』


『それはそうだけど……つまり、どういうことなの?』


『これまでと操縦方法を変えるだけでいいのです。今までも稀にメインコントロールを変えていましたよね。 例えば飛行時にはシグレに任せたり、ここぞという時にマシューに預けてみたり。それを普段から細やかにスムーズに出来るようになれば強くなれると思います』


『なるほど、例えば雪月花を使う時は私がメインを担当し、ナイフやトンファーブレードならマシュー、リボルバーならシグレ……、ナックルならレニーとメインを切り替えるというわけですのね?』


「その通りです。考えてみてください。機体が合体したところでレニーはレニー、ミシェルはミシェルです。合体したからと言ってレニーがミシェルになるわけではないのですから」



 なるほどね。これは面白い。何が面白いってスミレの口からそんな案が飛び出したのが面白い。なんでって、これは原作―アニメのカイザーにはない運用方法だからね。原作ではあくまでもメインパイロットは竜也で、他のパイロット達はその補助をするように各部位の制御に心血を注いでいた。


 極稀に何らかのピンチ等でその操縦を変わることはあったけど『やっぱメインは竜也だよな』と言う方向に落ち着いて、メインパイロットを状況で変えるような運用方法はしていなかった。


 いやあ、これは私には思いつけなかっただろうな。普通に考えれば当たり前の話なんだけどこれは思いつけない。なんたって私は原作の大ファンで、設定資料集もきっちり読み込んでいる。だからカイザーとはこうであるとある程度ガチガチに固まってしまっているんだよね。


 でもスミレはちょっと事情が違う。どういうわけかスミレだけはアニメの世界から転移してきた存在という扱いではなく、私がこの世界に転生した際に産まれた『アニメのスミレとは異なる』別のスミレだ。


 私と接続されているため、ある程度シャインカイザーの知識を持っては居るけれど、作中で語られることがなかった、設定資料にすら書かれることもなかった『暗黙の了解』、誰もわざわざ言うことはない当たり前だと思っているお約束の事情に関して知ったこっちゃないのだ。


 なので『シャインカイザーというアニメはメインパイロットを状況に応じて変える作品ではない』という常識から逸脱し『シャインカイザーという機体は状況に応じてメインを変えても問題ない』とこれまでの経験から判断し、新たな戦術として『有効である』と訓練することにしたわけだ。


 ただ、いきなり実戦で試すのは危険だ。かと言って実戦形式でなければ訓練がしにくい。ならばVRでやろうと、丁度空いてしまったこの時間を利用してスミレが提案してきたというわけだ。


『武器ごとに……パイロットを変えるかあ……』

『おもしれえ!あたいとレニーはレンジが近いから忙しそうだな……ミシェルもか!』

『うーむ、もっと色々な武器があればよかったでござるなあ』

『同盟軍の方々も探索してくださってますし、そのうち増えますわよ』


 どうやらパイロット達も前向きに考えてくれるようだね。なによりなにより。


『こらあ!ルゥ!スミレさあん!』

『ようやく追いついたぞ!お前達……速すぎるんだよお……』


 ああ……ごめん、忘れてた……わけじゃあないんだけど、そうか、この子達の問題もあったな。


 フライトユニットがないキリンは我々の戦闘速度に追いつけなかった。我々が訓練を中断し、停止したため漸く追いつくことが出来た……というわけだ。

 

 ……このキリンという機体は……、もしかして基本的には戦闘に向いていないのか……?

 改めてキリンのスペックを調べて見る必要がありそうだな。


 別作品が累計20万突破と同時にこちらも累計10万突破できました。

 読んでくださっているみなさま、ありがとーございますです。

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