第三百四十六話 目覚めし麒麟
翌朝、まだパイロット達が目を覚まさない早い時間帯にキリンの修復が完了したようだ。
僚機登録をしていない……、厳密に言えばOSの問題で出来ていないため、彼女の起動に気づけなかったが、ゆっくりと立ち上がりカイザーに向かって歩いていくのが見えたため、近くまで行って声を掛ける。
「おはようキリン。修復は完了したみたいだね」
「ああ、お陰様でね……っと、君は……？スミレとは少し違うようだが……？」
どうやらキリンもスミレの事は知っている様だな。簡単に自分もまたカイザーであり、現在は妖精型のぎ体に入っていることと、その経緯について説明をした。
「あっはっは。なるほどね。スミレらしいことをするものだな。ああ、改めて礼を言わせてくれないか。ありがとう、カイザー。昨日までの記憶データはぼんやりとしたものだが、君たちに助けられたことはよく覚えているよ」
びっくりした。そりゃ緊急モードでコミュニケーション能力に制限が課されてたのは知っていたけれど、まさかここまでよく喋る機体だったとは。
「いや、其れには及ばないさ。ああ、スミレこっちに来てくれ。キリンが目を覚ましたぞ」
パイロット達が普段起きる時間まで後１時間は余裕である。流石に起こすのは気の毒なので、スミレと私、僚機達で先にキリンから話を聞くことにした。
「それで……、ちょっと込み入った事情があるためそこから聞いてほしいんだけど……」
まずはこちらから情報を提供する。自分は本来のカイザーではなく、人間がこの世界に転生する際この身体を得てカイザーとなった存在であること。同じく僚機達も私の仲間としてこの世界に召喚された存在であること。そして、一番肝心な話、『自分たちが居た世界』と『キリンが居た世界』はまた少シナリオ展開が異なり、結果として自分はキリンの存在を知らなかったという事を説明した。
「何ということだ……。つまり君達が戦ったルクルゥシアと私達が戦ったルクルゥシアは別物だということかい？」
「ああ、それに関してはこれを見てもらうとわかりやすいね」
シャインカイザー最終話付近の映像からピックアップして再生をしてみせる。最終戦前の前哨戦、ルクルゥシアの眷属との戦いだ。４機にバラけて戦う俺達の姿を見てキリンが驚いた声を上げる。
「ちょっと止めてくれないか。ああ、ありがとう。薄々そうなのではないかと思っていたのだが……、君たちはやはり『改良』がされていないのだな……。それでよくぞあの眷属を討滅したものだ。流石は私の兄や姉というべきだな」
「ちょっとまってくれ。改良だって？」
「ああ、カイザーが説明してくれたとおり、やはりこの映像は私の記憶とは異なっている。なんといってもこの場には私もいたはずなのだから。そしてカイザー達の姿も私の記憶とは若干異なっている。例えば……なあ、ケルベロス、サブヘッドが装着されていないが、それは外しているわけではないのだよね？」
『え？ケルベロス？違うよー』
『僕達は～オルトロスだよ～』
……朝から最高の爆弾が落とされた気分だ。ちょっとまってくれ、それって確実に後継機じゃないか！テレビアニメ版で結局最後まで登場しなかった後継機！お約束だろうと最後まで期待したのに出なかった。それがまさか……劇場版で出ているというのか？
「待て待て、待ってくれキリン。ちょっとまって。ケルベロスっていうのはアレかい？オルトロスの後継機かい？」
「ああそうだね。やっぱり知らなかったようだ。後継機……というよりも、追加パーツを装着し強化された新たな姿ってところだね。ちなみにウロボロスはヤ……」
「うわああ！待って待って！後生だから！言わないでくれ！」
「不思議なことを言うな、カイザーは。情報交換をしたいのではないのかい？」
「先に言ったよね？私は元人間で、娯楽として楽しんでいたシャインカイザーの映像に憧れ、カイザーとなってこの世界に転生したと。そしてキリン、君が登場するシャインカイザーは私の死後に作られた映像でしか見られない。そしてもしかしたら、その映像が納められた光学ディスクが山の向こうにあるんだよ。私としてはそれを見てからでも込み入った話は遅くはないと思うんだよね！」
「どうどう、カイザー落ち着いてほしい。わかったよ。理解した。カイザー、君はつまり『ネタバレ』されるのが嫌だ、そういうことだね」
「キリン……君は話が早くて助かるよ……。そう、端的に言えばそういうことです」
「カイザー……あまりにも必死になって喚くからキリンが引いてしまったではありませんか」
「あはは、大丈夫だよスミレ。私はこんなカイザーを見たことがないからね。面白くて仕方がない」
くう……。しかしキリンの性格がつかめない。口調からして賢そうな気配はするんだが、如何せんデータが０だ。なんだろうなこの不思議な気分。好きな作品の新キャラとアニメより先にリアルで会ってるんだぞ？改めて考えると頭がどうにかなりそうだよ。
「で、まあ色々とあってこの世界にもルクルゥシアが現れてしまった。ホントはデータを送信して共有できれば早いんだけど、キリンのOSは我々のカイザーOSよりバージョンが上でね……こちらからアップロードできないんだよ」
「それは済まなかった。まあ、スミレとヤマ……ウロボロス、そして私が居ればカイザー達のOSを改良出来ると思うし、詳細なデータ共有はそれからでもいいね」
「そうか、それは心強い。後くれぐれも私の前で後継機体の名前を出さないように」
「あはは……努力するよ」
そして散々脱線した挙げ句、こちらの要望を伝える。
「それで、お願いというか、要望なんだが……、良かったらうちのパイロットを二人乗せてもらえないか？」
「それは構わないというか、大歓迎だけれども、余ってる適格者が居るのかい？」
「ああ、都合がいいことにね。精密チェックはしていないけれど、輝力持ちが一緒に来ているんだ」
「それはなんとも……。まさに私に会いに来たかのようではないか！素晴らしいね、運命とは！」
「会いに来た……か。そうだ、ところでキリン、君は何故こんなところであんな状態になっていたんだ？そもそもいつ頃この世界に転移してきたんだい？」
私が思い出したかのように質問をすると、大げさなリアクションをとって……大きな機体でやるものだから中々に大迫力な動きを見せてから語り始めた。
「ああ、そうだよ。聞いてくれよカイザー、皆。聞くも涙、語るも涙とはこの事だね」
あまりにもキリンがノリノリになってしまったため、とうとう耐えきれなくなったパイロット達も目を覚まし起きてきてしまった。
「うるせえぞ！カイザー！何時だと……って、キリン、お前目を覚ましたのか！」
「おはよう、パイロット諸君。今から私の冒険譚を語ろうと思っていたんだ。良かったら座って共に聞いてくれないか」
「カイザーさん？キリン……という方は少々変わってらっしゃいますわね？」
「ああ……、驚いたろう？意外と口が達者なんだよ……」
昨日までの野性味に溢れたキリンと打って変わってのこの性格。パイロット達は口々に驚きを顕にしていた。そして、パイロット達が皆集まったのを確認すると、満足そうにキリンは頷き、今日までの苦労話を始めたのだった。
