第三百三十四話 食い倒れ
レニーとフィオラから食の波状攻撃を受け、すっかりパンパンになってしまったお腹を擦る。この身体は言ってしまえば機械の身体であるわけだけれども、食べたものは一体どうなるのだろう？
前にそんな質問をスミレにしてみたけれど……。
『体内の分解炉で分子レベルまで分解後、輝力転換炉に送られて輝力に転換後、輝力タンクに送られてエネルギーとして貯蔵されるんですよ。分解から転換までのプロセスには若干の時間がかかりますので、パーツの破損を防ぐために擬似的な『満腹感』を感じるように設計してあります』
みたいなことを言われてびっくりした。よくよく考えればこの身体やお馬の身体を造る際、我々の動力炉である『輝力炉』は必ず必要となるわけで、ソレを作れている時点でまずおかしな話である。
逆に言えばそこまでの知識があるのだから、そんな出鱈目な設計が出来るのかもしれないな。
……考えたくはないけれど、神様から何かチートを授けられている線もあるか。
ナイナイ。
そんなわけで、ロボながらも満腹感にすっかりやられて広場のベンチで平べったくなっているわけです。
フィギュアサイズの身体なわけなので、胃袋の限界量はすぐにやってくる。なので、外で食べる時は誰かからほんのちょっと、小指の爪くらいの量を分けてもらって食べることになるんだけど、あの姉妹ときたら、私を取り合うように張り合ってせっせと親鳥のごとく私におすそ分けをするもんだからもう、このざまですよ。
これでフルスケールの男性型義体であればどっからどうみても『異世界ハーレム主人公』なんだろうけど、私は可愛い妖精ちゃんだからな……。ペットを取り合う仲良し姉妹にしか見えぬことだろう。
そんな仲良し姉妹は寝不足が効いたのか、ベンチで身体を寄せ合うようにぐっすりと寝落ちしている。さっきまで賑やかに喧嘩をしていたというのに、こういうところも似ているんだなあ。
こんな所に女の子二人無防備な……って思わんでもないけど、お馬のカイザーがレニーたちの前に勇ましく仁王立ちをして周囲を睨みつけてるもんだから、なんだか微笑ましい視線ばかり飛んでくる。
広場には見知ったリム族防衛隊……今はリムール？彼ら彼女らの姿がチラチラ見えるので、こうしていてもひどい目には合わないだろう。
とか思ってたら、リシューが手を振りながらこちらにやってきた。片手にホットドッグのような物を持っているあたり、彼も昼休憩なのだろう。
「やあ、リシューお昼かい？」
「ええ、カイザーさん達はもう済ませちゃった感じですか」
寝ている二人に気を遣っているのか小声で話してくれている。彼もすっかり見違えたもんだなあ。
「うん、二人に付き合って食べたら私もお腹いっぱいでね。休憩してるうちに二人はぐっすりさ」
「なるほど……っていうか、びっくりしましたよ。レニーさんが増えてるんだから……これ、またなにかやったんですか？」
「また何かってなんだよ。違う違う！これは妹！レニーの妹だよ。それレニーには言うなよ？めっちゃキツい実戦訓練をやらされちゃうぞ」
「うええ……怖い怖い。しかし妹居たんだなあ。そんなこと話さないから知りませんでしたよ」
そして暫くの間リシューと二人雑談をし、緩やかな午後を過ごす。そのうち二人が目を覚ましたタイミングでリシューのお昼休憩はおしまいになったようだ。
レニーたちに軽く挨拶をし、『じゃあ』と立ち去るリシューにお礼を言う。
「ありがとね、リシュー。女の子しか居ないのに無防備に寝てたでしょう？何よりのガードマンになったよ」
それを聞いたリシューは一瞬難しい顔をしたあと、ぷっと吹き出してこんな事を言う。
「あはは、今やレニーさんやカイザーさんを知らない人は居ませんよ。下手に手を出そうものならどんな目に合うかわからないのに襲うやつなんて……あ、ああっと！じゃ、仕事に戻りますね！じゃ、今度また！」
「こらー！リシュー！私が何をするですってー！？あ、こらまてって！……もう……」
それをみていたフィオラがケラケラと笑っているが、レニーはなんだかバツが悪そうな顔をして怒る輝力もなくしていた。
「まあまあ。でもみてよほら。お馬のカイザー、君たちをずっと守ってくれてたんだぞ」
「あれっ！？いつの間に広場に来てたの？危ないから一人であるかないでっていったでしょうに……。でも、ありがとね、お馬のカイザーさん」
レニーにお礼を言われ、嬉しそうにお馬がくるくると回る。非常に愛らしいのだが、私の分身みたいなものだと思うとちょっと複雑な気持ちになるな。
「ありゃ、あたいたちが一番だと思ったのにもう来てら」
「まあ、アタイ達は他の皆とは胃袋の出来が違うからね。みんなより時間がかかるのさ」
『あたいコンビ』が腹を擦りつつも片手に大きな串焼きを持って現れた。呆れた……まだ食べているよ。
お昼に食べたものの感想を皆で話してると、ミシェル達も戻って……片手にお団子を持っている……君たちもか……。
「あら、皆さんお早いですわね」
「まさか甘味だけでこんな時間になるとは思わなかったでござる」
「二人が『全店制覇する』と言うからですよ」
どうやら彼女達はお昼休み、３時間をまるまる使って甘味を食べ歩いて来たようだ。何という恐ろしい事をしているのだろう。私も甘いものはそれなりに好きだけれども、それなりに、だ。
３時間そっくり甘味に費やすのはちょっときつい。見ればレニーもフィオラも軽く苦笑いをしている。今回ばかりは二人の喧嘩が良い方向に動いたってことだね……。
「さ、リフレッシュしたところで今日の目的地リムールに向かうよ」
「ええー！あたい、まだ腹がパンパンできついんだけど」
「ギリギリまで食べているからだよ……。機体を停めてる場所まで歩くんだし、それでなんとか腹ごなしすればいいさ」
「全然たらねえよ！」
リエッタ出発後、フィオラとレニーは元気そうにしていたが、それ以外のメンバーはかなりキツそうな顔をしてコクピットや座席に収まっていた。
「……たのむ、カイザー……次の休憩は３０分後に……してくれ……」
「まったく、こうなるのを想定して動かないといかんぞ。この後敵機に襲われんとも限らんのだ。次からは気をつけることだな」
「うう……ただでさえ気持ち悪いのに……お説教はされたくねえ……せめてルゥになってから叱ってくれよ……」
「ルゥになってるときの俺はお前達に軽く思われている節があるからな！そうは問屋が卸さないぞ」
とは言え、レニーとフィオラ以外はすっかり戦力にならない状態になっていたため、結局30分後には早めの着陸となってしまった……。
慰労目的もあるため、あまり厳しいことは言いたくはないが、全く困った奴らだ。
