第三百二十五話 爆弾
上映会、つまりはアニメシャインカイザーの上映会である。流石に会談であるこの場でダラダラと全話一興放映と言うわけには行かないので、重要箇所のみをピックアップし、うまく編集した所謂総集編をこしらえ、それを見て貰っているわけだ。
会談に参加しているメンバーは各国の代表が4人、そして私とスミレ。この6人が会談で主に発言をする立場にある。
そして、その他にステラの3名、ブレイブシャインの6名。技術班からリックとジン、ザックの3名。流通部門からアルバート、マリエーラの2名。この15名は基本的にアドバイザーとして傍聴して貰うためにこの場に呼んでいるのだが、専門的な話になった際に直ぐ解答を得られる他、後で情報共有の手間が省けるという理由でも居て貰っている。
ちなみにジンとマシュー、ウロボロスには伝承や地質についても意見を貰うことになっている。先ほど龍脈の話をした際に声をかけたのはそのためだ。
というわけで、下手をすればひとクラス分有ろうかというこの人数で総集編を見ているわけだが、初見のナルやステラの元帝国の面々は兎も角として、ちょいちょい見ている筈の連中までキラキラとした目で楽しんでいるのは微笑ましい。
まあ、ことある毎に見せろ見せろとうるさく強請るほどハマっているわけなので、さもありなんという所なのだが。
さて、この会談は前回までとは大きく違う所がある。とうとう念願の超長距離間データ送信システムが確立し、遠きリーンバイルの地であってもほぼリアルタイムで映像付きの通話が可能となったのだ。
これによって送信された資料データを見るという事が可能になったほか、顔を見て相手の表情と共に話せるようになり、そしてなによりこれはゲンリュウにとって嬉しいことだと思うのだが、あちらでも々映像、シャインカイザーの総集編が流れている。
もし、前回同様音声オンリーの参加であったとすれば、暫くの間拗ねられて非常に面倒だったに違いない。
ちなみにあちら側にはいつの間にか妻のタマキと息子のシグレもちゃっかり現れたようで、共に総集編を楽しんでいるようだ。まあ、彼女たちも関係者なので問題は無い……よね……。
この映像を流すのは何も皆を楽しませるためではない。放映開始から1時間が経過し、これより本題となる最終話付近にさしかかる。
このあたりで初めてその存在を明らかにするのが【深淵より訪れし者 ルクルァシァ】この、邪気眼溢れる者こそ、この物語のラスボスで有り、この世界にちょっかいをかけている黒龍の正体だ。
神様がわざわざ、いやほんとにわざわざ用意して下さった要らん世話こと、私に敵対する存在。神は多少世界が壊れるくらいは問題無い、直す楽しみが出来るくらいに思って居た。
なんて酷い神だ、と思わなくはないけれど、神にとってこの世界はシミュレーションゲームの育成データひとつに過ぎないのかもしれない。
思えば、あの神との会話からは『安定しきった世界に波乱を起こし、それによってさらなる変化をするのを求めている』なんだかそんな感じがした。
実際にそれは叶い、機兵文明が産まれた。しかしそれは一度滅びることとなり、現在蘇ったその文明が再度この世界を変化させようとしている。
前回は人間同士の戦争で衰退した文明だが、今回はルクルァシアの介入で滅びが起きようとしている。わざわざそんな物騒なものを投入したのは間違いなく私の目覚めが原因だ。
そのルクルァシアの情報をわかり易く皆に伝えると共に、アニメから奴の目的を探ることが出来ないか、それが現在皆で仲良く鑑賞会をしている理由なのだが……ひとつ問題が有るとすればルクルァシアの行動が作中と若干異なっているということだ。
それに関して思い当たることは有る。悔しいかな私が未だ見ることが出来ていない劇場版は終盤の展開が大幅に変更され、ぽっと出て、それなりに活躍はしたものの少々物足りない形で決着がついたルクルァシア周りが大きく改善されているらしいのだ。
神は私が知らない劇場版を見ている。腹立たしいことに劇場版を見ているのだ！そしていつぞやの夜、自慢げに最終決戦にテコ入れがされたと話していたわけだが、今思えばそれがダメな方向のフラグだったのだろう。
眷属を使い、私の身体を奪うという作戦は確かに渡しが知るルクルァシアの行動そのものだ。しかし、組織を乗っ取り、影で操りながら何やら実験をしたり、龍脈にちょっかいを出したりと私が知らない行動をチョイチョイやっている。
私の僚機やスミレ同様にこちらの世界にやってきて自我が芽生え、独自に侵略活動を始めたのかとも考えたが、神の言葉を信じれば純粋に私の敵役としてシナリオの用意をしているようにも思える。
……となれば、悔しいのが劇場版を見れなかったこと。私の死後公開された劇場版。そこにヒントがあるというのに……。おのれ神よ！
「はあ……せめて劇場版の円盤でもありゃな……」
未だ熱い戦いを繰り広げる作中の俺達を横目に、ついついボヤきが口に出てしまった。そしてそれはしっかりとフィオラに聞かれていたようで、なんだかちょっと頬が赤く染まった感覚がしたのだが、不思議そうな顔でされた質問のおかげで誤魔化すことが出来た。
「ルゥ、『ゲキジョウバン ノ エンバン』ってなに？それがあればアイツに勝てるの！？」
なんとも可愛らしい質問だ。ちょっと和んでしまった。確かに私の言葉はまるでそれを打開する武器みたいだったもんね。まあ、あながち間違いではないんだけど。
「円盤っていうのは情報を記録する媒体……そうだね。例えば紙に文字を書き込めばそれを他の人にも見せることが出来るでしょう？円盤はそれを発展させた技術でね、映像や絵をはじめとした様々なものを書き込むことが出来るもので……」
「ううん？うん？」
ああああ！私は説明が下手くそか！
「ルゥちゃんは説明が下手くそですね……。ほら、フィオラ御覧なさい。これが円盤ですよ」
手のひらからホログラムでディスクの映像を表示させ、次いでプレイヤー、モニタと表示を変えていく。っく、その手があったか。
「これにシャインカイザーのアニメが納められていて、この道具に入れるとこの様に写して見ることが出来るのです。カイザーは円盤の中身だけ持っていて、それを皆に見せているのですよ」
「なるほどね！スミレは説明が上手いなー。ルゥも見習いなよ……ってこのエンバン……見たことが有るような？」
「な、なんだって……？鏡とかそういう落ちじゃないよね？」
「違うよ！お姉ちゃんじゃあるまいし。いや、正直言えば私は儀式用の鏡だと思ってたんだけど……、あれは多分エンバンだよ。村の祭壇に納められているんだよ」
「……ちょっとこれは……ここに来て特大の爆弾が落っこちたようだな……」
