第三百二十四話 報告会
「これより、4カ国首脳会談を始める」
私の声で始まった首脳会談。恒例ながらも淡々と出欠代わりに参加者の紹介をしていると、どうも一箇所から視線が突き刺さる。
……まあ、そういう目を向けてくるのは覚悟していたさ。
「……リーンバイルのゲンリュウは現地から通信で参加となるが、本日から新たにもう1人仲間が加わることとなった。先程から私に熱い視線を送っている彼こそが、シュヴァルツヴァルト帝国皇太子……いや、そうではなかったね。帝国領を最早邪龍と化した皇帝より奪回し、新たな国を起こそうとしているナルスレイン・シュヴァルツヴァルトだ」
「いやいや、すまぬ。噂に違わぬ男だとカイザー殿との対面を済ませた直後なのだ。まさかその様な可愛らしい姿にまでなるとは思わなかったのだ」
申し訳なさそうに頭を下げると、何だかバツが悪そうな顔で言葉を続けた。
「いやしかし、カイザー殿に全て言われてしまって俺が言うことが無くなってしまったな。紹介された通り、俺はナルスレインだ。今も帝国には事情を知らぬ罪なき国民が多数暮らしている。奴の牙が向く前になんとかすべく、貴方方に協力を仰ぎに参った。まずは話だけでも聞いてもらいたく思う」
「はいはい、ほっとくと順番すっとばしてそっちの話になっちゃうからね。悪いけどその話はひとまずおいて、各地からの現状報告に入るよ」
容赦なくナルスレインの話をぶった切り、報告タイムに入る。突然軽いノリに変わった私に動揺するナルスレインと、それを見て面白げに笑う一同。うむ、なんとか仲良くやれそうじゃないか。
「ではまず、レイから頼む。レイは第7部隊に調査をしてもらってたんだったね」
「うむ。トリバ防衛軍第7部隊に命じてトリバ各地の狩場を探ってもらった。というのも、以前から帝国が行っていた怪しい生体実験があれで終わりだとは思えなかったからな」
「ここのところ鳴りを潜めていたみたいだけど、何か新たな情報は見つかったかい」
「いや、残念ながらその件に関しては情報は得られなかった……が、グレートフィールドで妙な痕跡が見つかってな」
「妙な……？」
「ああ、何の目的かは不明だが、明らかに人工的に掘られた深い穴が数箇所で発見された。念の為内部調査を試みた所、深さは４０ｍ。内部には残留物はおろか、特に目立ったものは見つからなかった」
「紅き尻尾がこちらにいる今、あの辺りの発掘許可を得ているギルドは無いはずだよね？」
「ああ、その通りだ。許可制なのが功を成したな。あんだけの穴は盗掘目当てのごろつきにはとてもじゃないが掘ることはできん。採掘機兵を備えたギルドでもない限りはな。で、紅き尻尾が休業中の今、きな臭え匂いしかしねえってわけだ」
「ううむ……、地質調査……？この件はまた改めて調査しよう。スミレ、グレートフィールド周辺でサンプル採ってたよね？念のために調べといて」
「まさか訓練で立ち寄ったのが役立つ日が来るとは思いもしませんでしたよ。了解です、カイザー」
グレートフィールドはマシューとレニーに操縦と輝力制御の訓練をした場所だ。かつて大戦があった場所だということで、興味本位で幾つか周辺の土や石、遺物をサンプルとして入手してたんだけど、謎の穴が地質調査目的であれば、サンプルが何かヒントになるかも知れない。
ほんとどこで役に立つかわからないもんだな。
「ありがとう、レイ。では次にアズだけど、アズはルナーサの動向を探っていたんだったね。どうだい、何か変化はあったかい？」
「そうだね、誰かさんが大暴れをして以来、以前より護りは固くなったみたいだけど、依然としてルナーサより西に動く様子はないね。不気味なほど静かなもんだよ」
「うーん……？奴が手に入れたかったのはルナーサであり、ルナーサ領ではないということかな」
「推測でしか無いけど、ルナーサに何か特別な物があるんだろう、いや、カイザーも知ってるだろう？あの大空洞だ。ただ便利だなと思って使っていたけれど、君を隠すためとは言え、よくまあピンポイントで彼処を見つけたもんだなって。まるでそこに大空洞が有るのを知っていたかのようじゃないか」
「たしかにね。うーん、ちょっとまってね。『ねえ、ウロボロス。あの大空洞に君の身体を隠してた理由ってさ、ただ単にサイズや場所的にちょうど良かっただけなの？』」
『君は突然だな……。いや、そうか話してなかったね。彼処はどうもパワースポットみたいになってるんだよね』
『ええ、龍脈といったほうが分かりやすいかしら？魔力も輝力も安定して存在していて、身体を安置するのに都合がよかったの』
『……その話はもっと速く聞きたかった』
「アズ、聞いていたね？」
「ああ、と言うことは……もしかしてグレートフィールドの穴も？」
『あいや割り込み御免！我らの同胞からの報告に関連する話があるのでござる』
「構わないよゲンリュウ、続けてちょうだい」
『有難き。どうやら帝国は地に眠りし力を得るために各地の封印を探しているらしいのでござる』
「封印を……探している？」
『左様。先程ウロボロス殿がおっしゃった『龍脈』という言葉がしっくり来るのでそう呼ばせていただくが、伝えられている伝承によれば、猛る山を抑えるべく、かつて龍脈に封印がなされたらしいのでござる』
「スミレ、封印について何か知っているかい？」
「いえ……、しかし猛る山というのは所謂火山の事でしょう。そしてそれを抑えたとすれば私達が眠りについた後の事。ウロボロス達は何か知っていますか？」
『龍脈の封印かい？そういう話を聞いたことはあったけれど、それくらいだね』
『まことしやかに囁かれている、という感じよ。いつの間にかそういう噂があった、くらい』
「なるほど、伝承レベルですか……。ジンとマシュー、トレジャーハンターとして何か情報はありますか？」
アドバイザーとして呼ばれている人材の中から二人に声が掛かる。遺物発掘が主な収入源のトレジャーハンターだが、掘って売るだけが仕事ではない。掘った物を調べ歴史を紐解くという大切な役割もあるからね。なるほど、これは適役だ。
「そう言われてもな……。あたいは大昔に山が火を噴いたって事しかしらないぞ」
「はあ……頭領ともあろう者が勉強不足だな。確かに、荒れ狂う何かを封印したという話しは聞いたことがあるし、実際にその手の話しが書かれた古文書が出たこともある。ただまあ、史実を伝えてるって言うより、過去に災害を伝えるための本、俺にはそんな風に見えたね」
「なるほどね。ありがとう、二人とも。火山災害を後世に伝えるための伝承がいつしか脚色され、何かが封印されているという物語に生まれ変わった……と、普通ならば考えるのだが、帝国が真面目にそれを探しているとなると……やっぱり封印は真実。となれば誰がやったのか……ていう謎が残るな」
『うむう、それを解こうとしているとの事でござるが、目的はさておき、伝承通りに山が猛るのは困りますな……』
「そもそもその猛る山ってのはこの基地がある場所だからね……それはそれで辞めてほしいけど、奴の目的はそれとは別のところにあると思うんだ。そう、改めて奴の正体……というか元となった存在の話をしようか」
そして私はスミレに合図をすると部屋の証明を落とし、上映会を開始した。
