第三十一話 紫色の機体
そこに立っている機兵は明らかに今まで見かけたものとはクオリティが違う。
まさか、どこかの国家所有の軍機だろうか?そこらに居るキメラロボとは違う洗練された外装。
コスト度外視で生産されたのであろうその姿は……
「か…かっこいい…ッ!」
『カイザー?帰ってきて下さい!カイザー!』
うお!危ない危ない!見とれてしまった……。ゲテモノロボも好きだけどやっぱこれだよこれ!ううん、触りたい!調べたい!なるべく壊さないよう努力して戦って貰おう!!!
「レニー、出来る範囲で良い、なるべく壊さないように倒してくれ」
「無茶なことを言いますね……、あいつのっ…!攻撃…!速いんですよ!?」
暢気に会話をしているようだが、かなり激しい戦闘が始まっている。
相手の装備はナイフ、こちらもナイフ(のようなもの)なので互角、と言いたいところだがあちらさんは2刀流だ。対人戦に慣れていないレニーには不利な相手だろう。
左、右、左、左、右、絶え間なく斬りかかる紫色、避けきれずガードするとすかさず逆側から斬られてしまう。こいつはなかなかの手練れ、壊さないようにってのは難しいか……。
「っもう!ずるいぞ!こっちの武器は1本だってーのに!」
不幸中の幸いなのは相手の攻撃がさほど重くなく、致命傷には至らないところだ。手加減をしているのか、出力差があるのか……。
「スミレ、相手のデータ取れるかい?」
『先ほどからチェックしていますが、どうも…妙な感じが…』
「妙な感じ?」
『あくまでも推測ですが、本来の出力を出し切れていない、そんな感じがします』
やはり軍機を鹵獲して使っている線が濃厚だな。軍機とやらを見たことが無いのでこれまた推測だが、恐らく通常の機兵より出力が高く、パイロットに負担がかかりやすいのだろう。
カイザーの場合はパイロットが輝力を消費する仕組みだが、通常の機兵は魔力を消費して動作しているらしい。
魔石を持つ動物や魔獣とは違い、人間は魔力を多くはため込むことが出来ない。なので機兵に備えたタンクにエーテリンなる魔石由来の燃料を注ぎ込み、自分の魔力を増幅させ動かしているらしい。
ということはだ、相手はエーテリンかパイロット自身かそのどちらかがガス欠間際なのかもしれない。
対するレニーは1ヶ月に及ぶ強化訓練の成果も有り、まだまだ余裕の顔をしている。
ならばここは!
「レニー、相手は息切れを始めている!無駄振りをさせて疲れさせる作戦でいこう!」
「ええー!!なんかずるいですよそれ!!」
「やかましい!正面から打ち合って勝てる相手じゃ無いぞ!やられてしまったら元も子もないだろ!」
俺の指示に渋々と言った感じで頷くと、挑発するように手のひらをヒラヒラと振った。
ずるい、とか言いつつもなんだかノリノリじゃ無いか。
見事に挑発に乗った紫色がレニーに飛びかかる。しかし、振りが大きく当たらない。挑発に乗るだけあって頭に血が上りやすいパイロットなのだろう。盗賊らしい性格でなによりだ。
「いいぞレニー!相手の動きが鈍くなってきた!」
このまま息切れを待ち、動けなくなるのを待てば良い。なんてイージーな作戦だろう。
体力馬鹿のレニーならではの作戦だな。
と、思っていたが、レニーがとうとう我慢できなくなったらしい。
「もおー我慢できない!逃げるだけってのもめっちゃストレス溜まるんだから!」
「ちょ、レニー!?」
間合いを取っていたはずのレニーが飛び込んでいく。紫色も頭にきているのかやたらとナイフを振り回すが最初の精度は何処へやら。レニーが器用に避けている。
「左、右、左、左、右、左、左…」
ブツブツとレニーが何か呟いている。これは…パターンを読んでいるのか?スミレのデータによるとやはり紫色のパイロットはナイフの振りにクセがあるらしい。レニーはそれを見て隙を伺っているのか。
「右、左、左…ここだ!!!!」
カっと目を見開いたレニーが両手にグッと力を込めコクピットから身を乗り出すようにして咆哮を上げた。
「喰らえ!!!ムーンスラッシュキィイイイイイイイイイックゥウウウウ!!!!!!」
隙だらけの足下に水面蹴りが炸裂する。足下がお留守とかそういう奴だな。
まさか足下を蹴られるとは思っていなかったのか綺麗に決まり、紫色が後ろに倒れる。
すかさず駆けよりコクピットにナイフを突きつけ、相手に選択肢を与えた。
投降するなら生かして逃がす、抵抗するならこのまま貫く、相手に伝わっていればよほど命知らずで無い限り出てくるだろう。増して盗賊だ。例え奴隷送りになろうとも命乞いをしてくるに決まっている。
『敵機コクピット開きます』
「レニー、警戒はそのままね。スミレ、パイロットのサーチを頼む。武装やわかれば所属に…」
開いたコクピットから現れた姿に言葉を失った。
両手を挙げて出てきたその姿は……。
『カイザー、パイロットのデータ出ました。ケモい具合の女の子です』




