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第三百十八話 オペレーション:ダイソン

 私達の動きを阻害し、ヤツの魔力を回復する忌々しい霧。これは眷属と共にルクルァシアが送り込んだ奴の悪しき魔力とも言える存在だ。


 濃密なその魔力は本来ならカイザーの動力源となる輝力を変質させ、それを毒とする眷属やそれが使役する侵蝕性ウイルスの身を守り、かつ、それらのエネルギーとして使用されているようだ。


 つまりは、白い輝力の中に落とされた一滴の黒い魔力がジワジワと侵蝕し、眷属が動きやすいように環境を作り変えているというわけだ。


 『ダイソン作戦』というのは単純な話で、水着回の際に登場したホバーユニットに付属していた巨大なファンを使い、街を覆う謎の煙を吸い出すという物だった。


 アニメを見ながら『あんだけ派手に吸い込んだら街の被害も相当だろうに』とちょっぴり思ったけど、そこはそれ、アニメだから平気なのだった。


 つまり、その『アニメだから平気』の理屈はこの仮想空間の特性にマッチする。私達がいくら無理をした所で街の施設には何ら影響が出ない。そもそも、見た目的な演出として、そこに有るかのように振る舞っているだけの仮想オブジェクトなので、壊そうと思っても壊せない。


 もし壊そうと思えば、システムに干渉し「壊れているオブジェクトに変えろ」と命令を出す必要があるわけだ。勿論、それも見た目だけのお話で、見た目は壊れていても本体は何か悪い影響が出ることはない。


 さて、ダイソン作戦だけども、そのまま再現してしまうと問題が発生する。


 アニメでは、吸収した煙は海に逃し、アニメ特有の投げっぱなし展開で『煙は海に消えた!さあ、覚悟しろ!』と、煙の発生源である敵機を撃破し、めでたしめでたしとなったわけだけれども……


「ねえスミレ。ダイソンした後、結局霧は後ろに流れていくだけだよね……?ただの霧なら良いけど、この魔力、少なからず何らかの意志を持って動いているよ。霧散させてもまた戻ってくるんじゃないかな」


「カイザー、少し賢くなりましたか?ええ、その通りです。あのままあれを再現してしまっては意味がありません。室外機を部屋においてエアコンをつけるようなものです」


「微妙に毒を挟まなくて結構。まあそうだよね。でも、『室外機』を外に置くことは難しいし、何よりこれを外にだすのは反対だ。どうにか封じられないか?」


「カイザー、この空間内は想像力が物を言います。それにより我々は巨大化したり、合体したり、様々な装備品を得たり出来ています。ここまではわかりますね?」


「ああ。ダイソンだってこれから召喚してつかうわけだからね」


「そう、召喚です。この空間内に置いてそれは想像力で補い、仮想的に再現している状態ですが……、実はこの空間内においても使用可能な装備、仮想的ではない実物として使用可能なものがあるのです」


「む……?まさかそんな……この空間内でも……使用できる……?つまり、中からアクセスすることが出来る……?」


「はい。今までは抑え込むので精一杯な上、リソース不足で使用不可能でしたが今なら使えます」


「降参だ。一体何を使おうっていうんだい?」


「ふふ、それはストレージですよ。ストレージからお帰り願いましょう」


「なるほど……そうきたか」


 ストレージ、それはバックパック内に有るということになっている無限収納空間だ。事故を防ぐため、生命体は入れられない事になっているが、エネルギー体なら別である。中に入れられたものはその時点で時が止まる。つまり何も出来なくなるということだ。


 何らかの意思を持ち蠢いている霧だけれども、生体反応は感じられないため、おそらくは入れることが出来る。ストレージの内側から侵蝕するのでは?というのもNOだ。アレに入ったらその瞬間で時間が止まるため悪さをすることは敵わない。


 そしてアレには恐ろしい機能がある。そう、『DELETE』だ。パソコンでゴミ箱に入れるかのごとく、不要になったアイテムは中でそのまま削除することが出来る。


 設定資料によれば、削除したアイテムはそのまま輝力へと変換されカイザーの糧となるとのことなので、無駄がない。


「なるほど……つまりホバーユニットにストレージ機能を直結させて魔力霧をストレージに入れてしまうというわけだな」


「ええ、勿論その後はDELETEで美味しく召し上がっていただきますからね、カイザー」


「……嫌なこと言うなよなあ。意識しちゃっただろ……」


 デロデロの霧を飲み込む自分を想像してちょっとイヤな気分になった。


 ええい、切り替えていこう。さっそくホバーユニットを召喚し、原作同様に手を加える。本来ならば背部の追加パーツであるホバーユニットを『強引に』変形させ、手持ち装備に改造する。ここまでは原作通りなんだけど、ここでスミレが一工夫、『ストレージ直行タンク』を後部に装着した。


 要するにバックパックのコピーをつけただけなんだけれども、コピーとは言え、つながる先は私、カイザーのストレージだ。


 ストレージ内にはレニーの私物やみんなのオヤツがたっぷりはいっているはずだが、収納した者同士は干渉することはない……筈……なので、彼女たちには黙っておこう。


「ではスミレ用意はよいな」

「はい、いつでもいけます」

「うむ、ならばゆくぞ!オペレーション:ダイソン!始動!」



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