第三百六話 光点
先行するレニー達に続き飛び出していったブレイブシャイン達を見送り、私達が乗るシュトラールはゆっくりとエレベーターから動き始めた。
破損した足を直したとは言え、あくまでも応急処置。決して無理は出来ないというのはフィオラ達もわかっているため、悔しげな顔で仲間達の戦いを見守っている。
今私達に出来ることは簡単な援護だ。欲をかいて無茶をすれば足手まといになっちゃうだろう。
5機の機兵が飛び出して激しい戦いが始まった地下大空洞。帝国の研究者であろう人達はそれに抗うことはなく、命を優先して逃げ惑っている。
「フィオラ、ラムレット。可愛そうだけど、あの人達は逃がす訳にはいかない。出入口はエレベーターだけだろうから、ここを死守するよ」
「わかったよ!といっても……私達に出来るこたぁあんましねえんだけどなあ」
「うーん、これから降りて白兵戦しちゃだめかな?」
「だめに決まってるでしょ!やりにくいだろうけど、何がおきるかわからないし、このまま牽制するよ」
フィオラが言うことも分かる。相手が非戦闘員の研究者達となれば、生身のほうがやりやすいだろう。そもそも、殲滅を目的とするわけじゃなくって、拘束するのが目的なのだからそれはなおさらだ。
レニー達が1機、また1機と落としていくのを見ていると、恐る恐るといった感じで研究者達がこちらに近づいているのが目に入った。
あまりにもじっとしていたから故障機と思っているのだろうか……?
「フィオラ、来たよ」
「うーん……じゃあ、えい!」
なんとも緊張感がない掛け声とともに腕を動かし、ソードを軽く振り回す。勿論、これは相手を狙ったわけではないので、当たることは無かったけど、十分に脅しにはなったみたいで蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
……ううん、何処に逃げても安全なところはないからね……ちょっと気の毒。
中には果敢にも銃か何かで攻撃をする人達も居たけど、流石にそれでは威力が足らない。何だか本当に弱い者いじめをしている気分だ。
最も、戦ってる敵機達がこちらに目を向けてしまえば、それは逆転するんだろうけど、どうも彼らは協調性が無いと言うか、味方を護るという事を考えないというか。
いや、私達どころか、黒騎士にすら反応は薄く、どうもブレイブシャインの機体達を狙って動いているようだ。
これも恐らくは黒龍が何かをやった結果なんだろうけど、今は逆にありがたい。
……と、言っていられない状況になった。
レーダーに新たな光点が見えた。地下空洞の最奥部からこちらに向かってフラフラと向かってくる光点、その色は赤……、敵機反応だ。
しかし、様子がおかしい。ふらりふらりと決してまともな動きだとは言えない動作でこちらに向かってきている。
『おい!まて!アレは!』
『ええ?どうして動いてますの?』
『まさか……お姉ちゃんが!?』
『しかし、レーダーの反応は赤いでござる……』
通路を抜け、目視可能になったそれを見てブレイブシャイン達が驚きの声を上げる。そして私も……。
「……私だ……」
こちらに向かい、近づいてきているのは紛れもなくカイザー。しかし、あれは誰にでも動かせる物ではないし、AIである私はここに居る。じゃあ、誰が?スミレが?
いや、それならこの敵対反応はなんだろう。このレーダーに浮かび上がる反応は味方は青、敵は赤で表示される様になっている。仕組みはよくわからなかったけど、ウロボロス曰く
『パイロットが敵意を持っていれば例え僚機に乗っていれば赤く反応が出るよ』
『無いとは思うけど、敵対パイロットに乗っ取られたら例え私達でもそんな反応になるわ』
とのことだった。つまり、あれを動かしているのは帝国のパイロット?
ありえない。カイザーをはじめとしたブレイブシャイン達の機体を動かすには魔力とは違う『輝力』というエネルギーの素質がないとダメだ。
……記憶が戻りつつ有る。
そうだ、何度か実験した。レニー以外のパイロットを乗せるのは嫌だったが、私が無力化され、機体を乗っ取られる事態を考慮して、基地に居たパイロットやエンジニア等を乗せて起動実験をしたんだ。
結果は全滅。どんなに魔力を持っていても動かすことは出来なかった。魔力と輝力は似て非なる物、輝力を持つパイロットは希少な存在であり、私達がレニー達パイロットとそれぞれ出会うことが出来たのは……神がかり的な偶然……ううん、違う。
そうだ、私は……神様の力であの身体を手に入れたんだ。
神様が私達をレニー達を引き合わせた、そう考えれば納得できる。
ということは、私の身体……、カイザーには現在未知の異常が発生している。
考えられるのは黒龍。
研究者達がここに集い何を研究していたか、それは当然わざわざ運び込んだ私の身体だろう。恐らくパイロットを乗せ、起動実験もためしたんじゃないかな?動かなかったんだろうな。
そうなると次に考えるのは多分、例の黒いタマゴ。それその物は中の魔力を吸い出され役目を終えていたけれど、弐式達に積まれていたあの黒いコアは恐らくそれを量産したものだろう。
でも、あんなもんで簡単に私の身体を乗っ取れるとは思えない。
だって、カイザーには強力なプロテクトが掛かっているし、それを管理しているのはスミレだ。
……そのスミレに問題が発生したらどうなるんだろう?
「不味い!ちょっと行ってくる!」
「え!ちょ、ルウ?行くってどこに!?」
コクピットから飛び出し、外に出る。あの動き……もしかしたらスミレが抵抗して居るおかげかも知れない。で有れば時間はあまりない。なんとかコクピットに潜り込んで手助けをしなくっちゃ!
レニーが乗るシュヴァルツの脇を通った瞬間、コクピットから何かがすり抜けて来たのが見えた。
馬だ……。ボンヤリとした馬は私に重なるとその姿を消す。
……!
ここに来てから記憶がどんどん戻っていたが……、今のはガツンと効いたぞ……!
スミレ!今行くからな!俺が行くまで持ちこたえてくれ!




