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第二百八十九話 リリイのおてほん

 コクピットを2つ搭載する『シュトラール』は2名のパイロットが心をひとつにして動かす必要があるという、なんだか何処かで聞いたような仕様だった。


 コンソールから各パーツに送ることが出来る命令は特に制限がかかっていない、とのことで、その気になれば臨機応変に担当部位を切り替えてより緻密で巧みな制御が可能になるらしい。


 けど……そんな高度はお話は夢のまた夢。今の2人にはまともに動くことすら難しい。


「くそー!こんなの絶対ムリだって!どう考えてもおかしいって!」

「そうだよそうだよ!これ絶対肉親でも……お姉ちゃんと一緒に乗ってもダメだって!」


 コクピットハッチを開け、不満を爆発させる2人。そんな声にリリイが大きなため息をつく。


「あのねえ、そんなこと言ったら私とアランはどうするのよ……他人も他人、しかも男と女よ?貴方達よりよっぽど不利な状況なのよ?……まあいいわ。そんなに言うなら……アラン、乗って」


「はあ……まあ、手本でも見せてやらなきゃ信じねえか……っと」


 ヒラリとシュトラールに乗り込んだ2人は声を出すでもなく、目で合図をしたかと思ったらハッチを閉め、ゆっくりと立ち上がって機体を動かし始める。


『いい?基本の動きからいくわよ』


 機内の受信機からリリイの声が聞こえる。あー、こういうのあるんだ。便利だな。


 なんて関心してると、リリイ達が操るシュトラールが滑らかな動きで演習場を動き始めた。


 演習場には的となる人形……、といってもかなり大きな機兵サイズのものが点在していて、シュトラールはそれらの間を縫うように動き、合間合間にソードで斬撃を加えている。


『じゃ、次!ちょっと激しくいくわよー!』


 ぐるりと一周してきたかと思ったら、即座に次の型。


 明らかに先程より速度を上げ、一気に的まで駆け寄って……斬撃!返す刃で再度一撃、そしてバックステップしたかと思えば再度踏み込んでとどめの激しい一撃。


 それを6セット繰り返し、戻ってきた。


『どう?今のが簡単な型ね』


『凄い……真似できるきがしねえ……』

『流石リリイさん……アランドラさんにうまく合わせてあげてるんですね』


『おいこらテメエ!どういう意味だ!こら!』


 失礼なことをサラッと言うフィオラにアランドラが怒ってる……。気持ちはわかるけど、それを言っちゃいけないよ。


 リリイは見るからに気配り上手で頭も良い。アランドラと付き合いも長いみたいだし、彼が何をしたいかを察して動きを補助するなんてお手の物なんだろう……と、思っていたら。


『あはは。間違いじゃないけど、でも貴方アランを馬鹿にしすぎよ。これでもこの子、結構やるのよ?』


『おいこら!リリイ!どういう意味だよ!』


『怒らないの。褒めてあげるんだから!ちなみに、今の型はアランが私に合わせるように制御したのよ?凄いでしょ!』


『『ええー!?』


 私もびっくりした。アランドラがリリイに合わせた?気配り感ゼロのあの男が?見るからに戦闘狂で制御不能みたいなアランドラが?


『逆に言えばそのせいでアレくらいの動きしか出来ないってわけ。ふふ、凄いわよ?アランメインで動いたらあんなもんじゃ済まないわ』


『……そ、そんなに……』

『ふわあ……想像も出来ないよ……』


『ふふ……そうね、今の動きを出来るようになったら……、次の特訓前に見せてあげても良いわね』


『よし、がんばるぞ!フィオラ!』

『うん!怖いもの見たさ……ってあるよね……!』


 そして2人はやる気を取り戻し、再度訓練に励む。しかし、やっぱりどうにもこうにも上手く操ることが出来ない。ダメだなこの2人、さっきの話をキチンと聞いていないよ。


「はいはい、ストップストップ」


「どうしたのルゥ?おしっこ?」


「違うよ……ていうか私がトイレ行ったの見たことないでしょ?」


「確かに……。お前の身体どうなってんだよ」

 

「それはいいから。そうじゃなくて、君達さっきリリイが行ってた話しちゃんときいてた?」


「聞いてたよ!本気じゃなかったんでしょ?」

「なんかアランドラが合わせてたって言ってたな……まじか……」


「そう、そのアランドラが合わせてたってのが大事なんだよ。君達は2人がそれぞれやりたいように動こうとしてるからだめなんだ。だから最初のうちはメインを決めて、サブはそれを補うように動けばいい」


「それはわかってるんだけど……つい狩りで弓を射る時の癖がでちゃって……」


「うん、そうだね。間合いを上手く取れない、そりゃそうだ。フィオラとラムレットはスタイルが違うんだから当たり前の話だよ」


「じゃあどうしろってんだ?アタイもう頭がパンクしそうだよ……」


「いいかい、まずは互いの間合いを知ることから始めよう。今ってフィオラタイプの攻撃をするときにはフィオラが上、ラムレットタイプの時はラムレットが上だろう?それを逆にするんだ」


「え?つまり私が剣で殴って、ラムレットさんが弓を射るの?」


「自慢じゃないがアタイじゃまともに弓を射れないぞ?」


「だから考え方をかえるんだって。ラムレットが下になれば間合いの位置は自然と剣を使う時のものになるだろう?」


「「あー!」」


「わかったかな?つまり、互いの間合いを知ることが出来る。まずはそれから始めたら良いんじゃないかな」


「ルゥ……貴方意外と賢いよね……」

「まさかルゥから戦闘指南を受けるとは……」


「君達、私はこれでもブレイブシャインの司令官なんだよ?何あたりまえのこと言ってるのさ!」


「記憶が無いくせに!」

「褒めると調子に乗るのがルゥの悪いとこだな!」


「ぐ……ぐぐ……」


「「あっはっはっはっは」」


 くそう……なんだって私がいじられなきゃないんだ……。

 

 ともあれ、2人の緊張がとけたようで何より。こんな簡単な事に気づけないほどガチガチになってたんだから覚えられるものも覚えられないよ。


 しかし、この機体のコンソールって最初は起動すら難しいって聞いたのにこの2人はさっくりと動かしちゃったよなあ……。


 なんだかんだ言って才能はあるんだよね、この子達……。

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