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第二百六十一話 パインウィードの夜

 どうやら私は『カイザー』とか言う偉そうに喋る妖精?なんだかわからないけど、男みたいな口調の良くわからない存在だったらしい。


 スーや周りの人々の反応を見るからに、正確の割には人格者だったようで、会う人会う人がにこやかに挨拶をしてくれた。


 ヒッグ・ホッグはまるごとの持ち込みで、解体もお願いしちゃったのでその分引かれたけど金貨2枚の値をつけてフィオラを大喜びさせていた。なんでもこの村から北に抜ける街道を作った影響で魔獣素材の需要が上がっているそうで、以前より値が上がっているらしかった。


 私達が取り敢えずの目的地にしているのは『フォレム』だ。パインウィードから西に行ったところにあるハンターの街で、辺境にある割には大きく栄えているらしい。


 フォレムは初夏になると付近にある『王家の森』に住まう魔獣達が繁殖期を迎え、ハンターたちの稼ぎ時となる。ラムレットはそれに合わせてフォレムを目指す途中私達と合流して共に旅をしてきたわけだけど、フィオラもフォレムを目指してたので、取り敢えずフォレムまで一緒に行ってそこでお別れだ。


 短い間だったけど、なんだか寂しくなるね。


 今日はもう日が暮れるということで、流石にパインウィードで宿をとった……んだけど……。


「よう、カイザー飲んでるか?って、今はルゥだったか。ややこしいな!」


 街の広場で歓迎会の様な物を催されてしまっている。ノリが良いフィオラは楽しそうに飲み食いをしているが、案外シャイなところがあるフィオラは、ハニカミながら遠慮がちにお酒をちびりちびりと飲んでいる。


 そして私の周りには様々な人達が入れ替わり立ち替わりやってくる。


「つかよお、カイザーさんが記憶ねーってやべえぞこれえ!」


「だよなあ、レニーも見つかってねえんだろ?ってかカイザーさん……いや、ルゥさん、あの子、ほんとにレニーじゃねえんですよねえ?」


 カイザーもレニーもこの村の人々に好かれ、敬意を抱かれ、心配されていた。ブレイブシャインのメンバー達は合流後この村に来て『カイザー』と『レニー』が行方不明であることを告げ、情報が入り次第連絡をするよう言い残していったようで、そのうち一人?である私が現れたことでこの盛り上がりらしい。


「レニーの事を覚えてないのでわからないけど、会う人は皆同じ事言ってたよ。『レニーならもう少し間が抜けた顔をしてるか』とか『こんな賢そうな顔をしていないよな』とか」


 私がそう言うと、取り囲んでた男達は顔を見合わせて黙ったかと思えば、大声でゲラゲラと笑い始めた。


「なるほどなるほど!確かに!あの子は腕も肝っ玉もすげえが、なんつうかタヌキみてえな面してるもんな」


「ああ、レニーをシャッキリさせたらあの妹ちゃんみてえな顔になるかもしんねえ」


「「「あっはっはっはっは」」」


 レニーという少女は皆に好かれているようだが、やはり会う人会う人から「間抜けな顔」という烙印を押されている……。貴方のことは覚えてないけど、ごめん!レニー!私にはどうすることも出来ない!


 と、ギルドのスーがフラリとした足取りでこちらに向かってやってきた。なんだか目が座っていて危険なオーラを纏っている……。


「カイザアさあん、こんなところにいたんでしゅねえ……」


「えっと、スー?貴方ちょっと飲み過ぎですよ?」


 既にろれつが回らなくなっているスー。しかし、私の言葉は思いがけない情報を拾い出す。


「もお!本当に記憶がないんですかあ?なんですかそのスミレさんみたいな口調わあ。スミレさんのマネをしてからかってるんじゃないんですか!もう!もう!もう!」


 私をむんずと掴んで頬ずりをするスー。この子はだめだな……と、周りの男達に尋ねる。


「ねえ、スミレ……っていう名前……、何か引っかかるんだけど誰なの?ブレイブシャインのメンバーにはそんな名前がなかったみたいだけど」


 すると、皆悲しそうな顔をした。一体どんな人なのか?スミレという名前はここではじめて聞いた。でも、ブレイブシャインの名前が出ることは会っても彼女?の名前が出たことは一度もない。


 しかし、引っかかる。私の心に引っかかるんだ。私の大切な記憶のカケラ、何かそんな感じが……。


「スミレさんは……」


 男の一人が話し始める。


「スミレさんはさ、今のカイザーさんみてえな妖精でさ、紫色の髪の毛に紫色の瞳。そりゃもうキツい性格で、俺達もよくチクりとやられたもんだけど、皆スミレさんが大好きだったよ。勿論、カイザーさん、アンタだってスミレさんのことを何より頼りにしていたし、レニーたちだってそうだ」


「……スミレという存在は私にとって無くてはならならないものだったんだね……」


「なあ、カイザーさん、あんたスミレさんと一緒じゃなかったのか?目が覚めた時近くに居なかったのか?」


 すがるような目で言われるが、残念ながら私には何もわからない。起きた時はゲンベーラ大森林の中で、運良くフィオラに拾われたようだったが、周りには他に何もなかったらしいということを伝えると、男達はガックリと肩を落とす。


 しかし、何故だかわからないが、わからないけど私には確信めいたものがあった。


「これは私にもわからないのだけど、そのスミレは恐らくは無事よ。証拠もなにもないんだけど、スミレという存在が私の中にあるというか……繋がっていると言うか……、貴方達から名前を聞いて気づいたというか、わかったと言うか。上手く言えないけど、スミレとの繋がりを今はっきりと感じるわ」


「おお……やっぱりあんたはカイザーなんだな……」


「聞き慣れない、声、こんな声で……『カイザー基本システム LV1修復完了…… 【周辺マップ参照】アンロック』なんて言葉が頭の中で聞こえたんだ」


「「「うっわ、スミレさんだそれ」」」


 どうやら私のものまねはソックリだったようで、おかげで私の頭の中に響いた声が噂のスミレだということが判明したよ。


 私と同族?のスミレ。一体どんな人なんだろう。はやく会えると良いな。


「しっかし、カイザーさんよお……前から兆しはあったが、記憶なくしてすっかり女の子になっちまったな!!」


「「それな!」」


 ここでもそれを言うんだ!


 いやホント勘弁してほしいよ……。これからかつての知り合いと会うたびに同じやり取りをするかと思うと頭がいたいよ。


 ……今思えば目覚めた直後は確かに『俺』とか言ってたし、口調ももう少し男らしかったようなきがするんだよな。フィオラに矯正されてこうなっちゃったけど、今更戻すのも大変だし、またフィオラが怒るからなあ。


 気づけばスーは私を握ったままスヤスヤと寝息を立てていた。


「はは、寝ちまったか。なあ、カイザー……いや、今はルゥだったか」


「いいよ、カイザーで」


「ん、カイザーさんよ。スーもな、アンタのことをずっと探してたんだ。窮屈だろうがもう少しそのままでいてやってくんねえかな……」


 どういう関係だったのか覚えてないけど、私を案じて居てくれたんだね。


 自由になっている右手でスーの頭を撫でてやるとなんだか嬉しそうな顔をしている。

 

 知らない所で色々な人に迷惑や心配をかけてたんだな、私は。


 今は記憶が無いけど、戻ったら必ず皆の所に挨拶とお礼に行かなくっちゃいけないね。

 

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