第二百五十三話 その頃ブレイブシャインは
第三者視点のブレイブシャインサイドのお話です
◆◇◆ブレイブシャイン◆◇◆
フィオラ達がトリバに入ってから2週間が経った。彼女達はリバウッドに暫く滞在し、レニーの情報収集と旅の用意を済ませ、パインウィードに向けて旅立ったところであった。
そしてその頃ブレイブシャイン、マシュー達は西端の街『ザイーク』に来ていた。
ザイークは大陸西部にあり、ケルベラックやグレートフィールドから二日の距離にある街である。
この街はグレートフィールドが近いという事もあり、トレジャーハンターギルド『赤き尻尾』の様にグレートフィールド周辺での遺跡調査に訪れる学者やトレジャーハンターが集う街として有名である。
トレジャーハンターにおける『ギルド』は冒険者ギルドや商業ギルドとはまた違う存在である。
冒険者ギルドは冒険者の互助組合的な組織として各国の協力の下で運営されていて、ライセンスやランクを設定する事により様々な面で貴重な冒険者や機兵の身を護っている。
冒険者ギルドはトリバの本部が中心となって運営していて、ルナーサのギルドもそこに属する事により、情報の共有化がされている。
冒険者たちはソロ、又はパーティー、人数が増えればクランとして冒険者ギルドから依頼を受け活動をしている。
さて、トレジャーハンターギルドはどうなのかといえば、そもそもの起源は帝国にある。当時はまだ「シュヴァルツヴァルト帝国」という国はなく、旧ガンガレア国民が住んでいるとはいえ、既に国家として崩壊し、空白地帯として扱われていたヘビラド半島には多くのトレジャーハンターが集い機兵の発掘に勤しむことになる。
そのうち旧ガンガレア国民とトラブルを起こすトレジャーハンターが現れ始め、このままではいけないと『トレジャーハンター組合』を設立し、規律を作ってトラブルを抑制することになった。
これがトレジャーハンターギルドの成り立ちである。
後年、旧ガンガレア国民のトレジャーハンターが画期的な発見をし、現在の帝国を築くわけだが、やがて帝国は国内での採掘に制限をかけるようになる。
それに我慢がならなかったトレジャーハンター達はトリバやルナーサに散り、それぞれ各地で思い思いに小規模のギルドを作り、助け合って遺物への探求を続けてきたわけである。
つまりは、トリバ・ルナーサにおけるトレジャーハンターギルドとは一種のクランの様なものであった。
「赤き尻尾」は流浪のギルドである。各地に拠点を持っては居るが、長期の定住はせず、長くても数年滞在すればまた別の地域に移動し調査をする、そんなギルドだ。
イザークにもトレジャーハンターギルドがある。トレジャーハンターギルド『アースガ』はかつてイザーク西部にあった村の名前から取られていて、腰を据えてこの周辺の土地を調査するトレジャーハンター達が登録する大きめのギルドである。
今回マシュー達がこの街を訪れていたのはやはり情報収集のためであった。学者やトレジャーハンターが集うこの街には各地から様々な情報が流れ込んでくるため、どうにも手がかりをつかめないでいたマシュー達はすがるようにこの土地を訪れた。
現在彼女達が居るのは『アースガ』のギルドハウスだ。アットホームな赤き尻尾とは違い、ソロのトレジャーハンターの集まりといった具合のこのギルドにはきちんとした受付がある。
受付の女性にマシューが声をかけた。
「赤き尻尾、頭領のマシュー・リエッタ・リムだ。頭領のカーンさんはいるかい?」
受付の女性は少し驚いた顔をしたが、『少々お待ち下さい』と言って奥に引っ込んでいった。
「ははは、そうだよな。あたいが頭領になったって話は結局報告出来ないままでいたし、まさかあたいがなってるだなんて夢にも思わないだろうからな」
面白そうに笑うマシューにミシェルとシグレは困った顔をする。
「笑ってますけど、信じてもらえますの?私でしたら絶対に嘘だと思いますわよ?」
「申し訳ないが私だってそうだぞ。こんなちっこい女の子が頭領だなんて……今でも信じられぬ」
「全く失礼な奴らだな!あたいが一番信じられねえんだよ!じっちゃんに言え!じっちゃんに!」
ワイワイとしながら受付前で待つこと数分、受付の女性が戻ってきて奥に行くよう伝えた。
通された先には扉があり、どうやらここが頭領の部屋のようだった。
ガンガンと、大きな音を立ててマシューがノックをすると中から無愛想な声が聞こえてくる。
「おう、居るからさっさと入れ!」
マシューが扉を開け中に入ると灰色の髪をした大柄な猫族の男、カーンが椅子に座ってこちらを見ていた。
「うわ、マルの冗談かと思ったらマジでマシューが来やがった。なんだ?ジンのやつくたばっちまったのか?」
「残念ながらピンピンとしてるよ。久しぶりだな、カーンのおっさん!略してカッサン!」
「誰がカッサンだ!今日はどうした?頭領就任の挨拶ってわけでもないだろ?ジンやおめえがそんな気が効いたことするわけねえからな」
腕組みをしてジロジロと3人を眺めるカーン。猫というより虎のようなカーンにミシェルとシグレは少々怯えた顔をしているが、マシューは慣れているのか負けずに悪態をつく。
「はん。本来ならカッサンがさっさと来てるべきなんだよ。普通あたい達がわざわざ報告しなくたって気づいて挨拶にきてるはずだよ」
「ったく、相変わらず口が減らねえガキだぜ。まあいい、座れよ。長い話があるんだろ?」
カーンはマシュー達に椅子を進めると、マルと呼ばれた受付の女性に飲み物を用意するよう伝えた。
そしてマシューはミシェルやシグレの声も借りながら今日までの出来事をざっくりと説明する。
ブレイブシャインを結成したこと、色々あって帝国とのいざこざに巻き込まれたこと。その際に大切な仲間と散り散りになったこと。
そして、最後の一人が未だ見つからず、情報を探していること。
真面目に話を聞いていたカーンだったが、マシューが話し終わったのを確認すると今度は俺の番だと言わんばかりに口を開いた。
「まず、ここがイザークだってのを忘れてないよな。マシューに言われるまでもなく、おめえ達の活躍は知ってたさ。何処までが本当なのかは別としてな」
遺物の情報に飢えし者が集う街、イザーク。ここでは遺物に関係あろうと無かろうとかき集められた情報は全てこのギルドに集約されている。その中に知った名前があれば目につくのは当然のことだった。
「まあ、それでもマシューが頭領になったってのは嘘だろうと思ってたんだが……まあ、それはいいや。当然ブレイブシャインが散り散りになっているらしいという噂は掴んでいた。
……あんま言いたくねえけど、マシュー、おめえは知らねえ仲じゃねえからな。一応心配して情報を集めてたんだよな」
「まあ、あたいの事好きだもんな、カッサンはさ」
「うるせえぞ?このちんちくりんが!で、だ。各地でおめえ達を見かけたって話は良く入ってくるんだよ。おめえ達は目立つ機兵にのってやがるからな」
ただでさえ目立つ人型の機兵なのに加えて、方々で活躍をしているブレイブシャインの機兵達は見るものが見れば直ぐにそれとわかり、見かけただけで良い話の種になる事から噂となって駆け巡っていたのだ。
「で、お前達が探しているレニー・ヴァイオレットだが……妙な噂を聞いた」
「妙な……噂?」
「ああ、残念ながら不確定な情報だが、白い髪で紫色の瞳をした少女がルナーサからトリバに入ったらしい」
「白い髪に紫色……?レニーと同じ色ですわ!」
「しかし、それだけでは確かに不確定ですね……」
「で、これは本当か嘘なのかわかんねえけどよ、その少女は胸元に妙に出来が良い人形をつっこんでいるらしい」
「……どんな人形なんだ?」
「いや、そこまではわからねえ。ただ、時折その人形と話してるように見えるって言ってたぞ。ああ、そういやブレイブシャインには妖精がついてるって噂もあったな。なあ、そりゃ本当なの……」
そこまで聞いた3人は居ても経っても居られなかった。まだ何か喋っているカーンに挨拶もせず、勢いよく椅子から立ち上がって部屋を出ようとする。
「ちょ、ちょっと待てよ!馬鹿だなおめえら!最後に何処で見かけたのか聞かなくて良いのか?」
既に部屋から半分身体を出していた3人はピタリと動きを止め、慌てて部屋に戻る。
「ったく、カッサンが早く言わねえからだろ!どこだ!どこに居るんだ!?」
「お願いしますカーンさん!情報を下さい!」
「レニーは!レニーは何処に居るんですか?」
「何度も言うが、その少女がレニーだとは限らねえからな?情報をくれた商人はフロッガイからリバウッドに向かう馬車で見かけたらしい。少女は女ハンターとパインウィードに行くような話をしていたらしいぞ」
「パインウィード……!」
それを聞いた3人はお礼もそこそこに今度こそ勢いよく飛び出していってしまった。
「ったく、相変わらずひでえクソガキだぜ……。いや、クソガキ達だな!」
口ではそう言いつつも、カーンはなんだか嬉しそうに笑い彼女達が探しびとと出会えるよう祈るのだった。




