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第二百四十四話 目覚めし妖精

 ここは何処なのだろう?どうやら建物の中にいるみたいだが……いや、その前に自分は一体なんなんだ?


 眠る前のことは覚えていないが、目を開ければ紫色の瞳をした少女が覗き込んでいて、それがまたとてつもなく大きな体をしている。彼女が言うには森に落ちていた俺を拾ってきてくれたらしい。


「すまない、世話をかけたようだ。俺は名前を思い出せんが……、良かったら君の名を教えてほしい、巨人族の少女よ」


 すると大きな少女はワナワナと震え、どうやら怒らせてしまったようなのだが、


「私が大きいんじゃなくて貴方が小さいの!あと女の子が『俺』とか言わないの!」


 なんて怒られてしまった。ううむ、自分が何者なのかは覚えていないが、自分のことを『俺』と呼ぶのはなんだか自然……いや、無理をしていた?ううん、それでも俺と呼ぶのは自然だった気がするんだ。


 しかし、少女が持ってきた姿見……少女からすればただの鏡らしいが、それを見て驚いた。鏡に映っているのは妖精ではないか。そうか、俺……いいや、私は妖精、記憶を失った妖精のようだ。


 自分やそれに関わる記憶はまったく思い出せないが、一般的な知識や何故知っているのかわからない知識が何かのたびにポロりと顔を出す。もしかすると色々とやっている内に記憶が戻るかも知れないな。


 そして、自分の姿を見せられ、状況を理解した私は少女に謝り、改めて自己紹介をする。


「私は誰だかわからないが、どうやら妖精らしいな。感謝する。改めて君の名を教えてほしい」


「ううん……まだ口調がおかしいわね。まあいいわ。私は……そうね、フィオラ。そう呼んでくれたらいいわ」


 色々と話しを聞くと、フィオラは12歳で旅をしている途中なのだとわかった。現在居る小屋は旅の途中に見つけた山小屋なのだそうで、ここを拠点として素材集めをしていたところなのだという。


 見れば様々な植物や干し肉などが並べられていて、これらは全てフィオラが集めてきたものらしい。


「他に誰か居るのかと思ったが、まさか一人で旅をしているとはな」


 野営スキルが高いのはわかるが、それでも危険な魔獣と遭遇することはあるだろう。こんな少女一人では危険極まりないのではなかろうか。


「あー……。まあ、ほら。村の人連れてきたとしても魔獣と遭ったらひとたまりもないしね」


「そんな事は無いだろう?私だって魔獣の1匹や2匹殴り飛ばしてやったことがあるしな」


 私がそんな事を言うとフィオラが腹を抱えて笑っている。そんなに変なことを言ったのだろうか。なんだか少々ムカっとしたが、直ぐに自分の記憶が少々おかしな事を思い知らされる。


「あー、おかし。貴方真面目な顔で冗談言うのはやめてよね。あんなでっかいの大人の男が何人居ても敵わないわよ。うちの村には機兵もないんだし」


 機兵……どういうものだったか思い出せないけど、何か大きくて強いものだった、そんな事はぼんやりと覚えている。でもな、私が魔獣を殴り飛ばした記憶は確かにあるんだよな……。ううん、小さな魔獣も居るのかも知れないな。


 それはそれとして、そんな恐ろしい魔獣が居るというのによくもまあ一人旅をしようと思ったものだ。大人たちは止めなかったのだろうか?そんな質問をしてみると、フィオラは少し考えた顔をしてから話し始める。


「ううん、貴方ならいいか……。とある事情で人を探す必要ができてね……、面倒だけどしょうがないなって。で、私が行くって言っても誰か大人がついてくるのは目に見えてるでしょう?だからこっそり抜け出してきたのよ。あ、勿論置き手紙はしてきたわ」


 いやいや、いやいやいや。わざわざ大人の同行を避けて一人旅をする理由になっていないじゃないか、そう言いかけたが、口元に指をたて、黙るように言われた。どうやらまだ続きがあるようだね。


「私達……いえ、私にはね、ちょっと特別な力があるんだ。生存本能が高いって言えば良いのかな。死ぬような目に遭いにくいというか、危険察知能力が高いと言うか……」


「カンがいいってやつかい?」


「そこまで雑なモノではないけど……まあ、そんな感じね。だから下手に大人に着いてこられると逆に危険なんだ」


 納得はできなかったが、不思議と腑に落ちた。


 それから日が落ちるまで2人で色々な話をした。と言っても、記憶がない私が語れることなんてあまりないから、フィオラの事を色々と聞いた感じだけれども。


 フィオラが村を出たのは半年以上も前の事らしい。彼女の村は凄まじく山奥にあるらしく、街という物まででるまで5ヶ月を要したらしい。いくら生存本能が高いとは言え、その間よく生き残ったものだ。


「狩りの腕前はお姉ちゃんよりあるからね。お姉ちゃん弓がヘッタクソでさあ」


 どうやらフィオラには姉が居るらしい。まあ、話を聞く限りでは足手まといにしかならなそうなので、置いてきて正解だったのかもしれないね。


 山を抜け、砂漠を抜けようやく小さな村に辿り着いた時、目的地の街が大変なことになっているのを聞いた。


「ルナーサに行こうと思ってたんだけどね?知ってる?商人の街でさ、すっごくでっかいの。お金持ちの土地だけでうちの村くらいあるんじゃないかな?」


「ルナーサか……ぼんやりと記憶にあるような……気がするな。海辺の街だったか」


「そうそう。なんとルナーサが帝国に落とされたんだって」


 フィオラが聞いた話によれば、一度ルナーサが勝利をし、街は勝利の声に酔いしれたが、それから間もなく多数の軍勢を率いた帝国軍が押し寄せ、二度目の勝利は無かったとのことだ。


 不幸中の幸いだったのが落とされたのがルナーサだけであるということ。その隣りにあるらしい、サウザンという街まではどういう訳か兵を出さず、そのままにしてあるらしい。


「びっくりしたわよ。まさか帝国に負けちゃうなんて。……旅に出る羽目になったのは恐らくそのせいだけどさ」


 後半何を言ったのか聞き取れなかったけど、ルナーサが帝国に負けるというのはフィオラも驚くことのようだね。


「フィオラは田舎の村にいたわりには事情通なんだね」


「……そうね。色々と情報のツテはあるからね。色々とね」


 その後フィオラはルナーサへ行くことを諦め、サウザンを拠点にして暫く探し人の情報を集めたらしい。そして、漸く取っ掛かりとなる情報を見つけた。


 探し人と行動を共にしていた人間が西の国、トリバへ向かったという情報だ。トリバ……これもやはり聞いたことがある名前だ。何か懐かしい感覚すら覚えるな。


「で、トリバに向かおうと思ったけど、流石にここまで来てまた歩くのは私も嫌でね。馬車台を稼ぐため冒険者登録をしてさ、生身で受けられる依頼を受けてたってわけなの」


 新米冒険者フィオラは5級(フィフス)のハンターで、植物採集は苦手だが、狩りの腕は良いとギルドでちょっとした評判らしい。


「そうか機兵が無いから4級(フォース)に上がるのが難しいんだね」


「うん、そうね。まあ私は昇級には興味が無いからどうでもいいんだけど……って貴方、機兵の事知らない顔してたのになんでそんな事知ってるの?」


「むー?そう言われてみればそうだね。おかしいな、今……スッと自然にギルドの昇級条件が頭に浮かんだんだよ」


「貴方が記憶を失う前に何者だったのか凄く興味があるなあ……」


 そしてとうとう太陽が顔を隠し、森に夜が訪れた。


どうやらここは『ゲンベーラ大森林』という森のなかに作られた狩猟小屋で、本当は昨日のうちに街まで戻る予定だったらしい。


「そうか、私を拾ったから余計な手間をかけさせたようだな……すまん」


「口調!まあいいよ。その分素材も増えたしさ。それに……トリバまで寂しい思いをせずに済みそうだしね」


 そして半ば強制的に彼女の従者として旅の仲間に加えられた私はフィオラの胸に抱かれ眠りに落ちるのだった。

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