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第二百四十一話 共闘

 女パイロット、リリィと呼ばれていた者は、突然戻ってきたかと思えば皇帝の説得に当たっていた。


 ……この世界のえらい人達はあまり畏まらなくて良いような相手なのか?いや、そんなわけではあるまい。アズやレイがおかしいだけなのだ。


 おかしいと言えば皇帝の様子だ。味方である黒騎士を斬り捨て、どうやら生身のリリィにまでその刃を向けようとしていたようだ。そしてそれを止めようとジルコニスタなる男が皇帝に剣を向けている。


 剣を抜くと言う事、そしてそれを向けると言う事は何を意味するか。


 ましてやそれが自国の皇帝ともなれば不敬どころか謀反である。恐らく黒騎士というのは所謂近衛騎士のような組織なのではなかろうか。


 皇帝直属の特殊部隊で、国家の技術の粋を集めた最新鋭の装備に身を固めるプロフェッショナル、それが黒騎士なのではなかろうか。


 その黒騎士が皇帝に剣を向け、今まさに斬り合っている。


 普通に考えれば黒騎士が国を裏切り牙を剥いたとしか思えないが、状況が状況である。


 正直な所、展開が速すぎてついていけないが……、何かの力……、考えたくはないが、恐らくは黒龍絡みの何かによって皇帝が妙な事になっているのだろう。


 奴が言っていた言葉……


『贄により我が依代はついに呪に染まった。忌々しき輝の力……忌々しき白銀を喰らい尽くすほどにな』


 この『我が依代』というのは恐らく……黒龍の卵。


 そしてそれがあるのは……。


「スミレ、あの2機が戦っているスキにアラン機をこっそり盗み出せたりしないか?」


「……流石にそれは無理です。ただ、理由はわかりますよ。あの機体には未知の高エネルギー反応が未だ感じられます。敵の狙いは恐らくそれなのでしょう」


「ああ、アラン機の"(コア)"に使われているのは恐らく黒龍の卵だ。そしてこの様子は……」


「孵化が近い……ということですね」


 奴は『依代』と呼んでいた。つまりはあの卵から今孵らんとしている小龍自体の脅威度はそこまで高いものではないと思う。


 龍というものと戦ったことがあるわけでもなく、リアルの生き物としての知識もまた無いため、あくまでも希望が籠もった推測でしか無いが、いくら龍とはいえ生まれたてであればどうとでも手が打てそうな気がするのだ。


 であれば、だ。


 それを成すために障害となるものは。成すためにすべき事は唯一つである。

 


「急ぎ、それを阻止する必要がある。奪取できないのであれば……」


「撃破しかないよね、カイザーさん」

「正直、あたい達では敵う相手じゃないってわかるよ……でもさ」

「ええ、あの勇ましく我が主に牙を剥く黒騎士と共に剣を取り合えば……」

「カイザー殿!"第26話 決着"の名シーンですよ!」


 ああ、そうだな!シャインカイザー第26話『決着』 組織のやり方に嫌気がさしていた敵幹部はカイザーに敗北することで己の未熟さを悟る。

 その後、将軍と戦うカイザーの元へ駆けつけ……共に剣を取り戦う熱いシーンがあるのだ。


 所謂、人気敵キャラとの共闘回なわけだが、元々人気があったその幹部はアニメ雑誌の表紙にまでなっていた。どういう層に需要があったかは言わずもがな。


 っと、こうしている場合ではないな。


「よし、それでは我々も参戦するとしよう。ゆくぞ皆!」


「「「「はい!」」」」


 ステルスは解除せず、ブレードを構えて上空から飛び降りる。


 落下エネルギーを利用した不意打ちは、皇帝機の背中に当たると思われたが……、直前で振り向かれ、剣で受けられてしまう。


「なんて馬鹿力だ」


 気づかれたのも想定外だが、片手で受けられるような剣撃ではないぞ。通常の設計ではありえない強度……いや、一体どんな設計をすればその様な真似ができるというのか?


 そして突如現れたというのに、動揺することもなく、初めから居ることがわかっていたかのように立ち回る。


 寧ろ驚いていたのは黒騎士の方だ。突然の増援に驚き攻撃の手を止めてしまっている。が、流石は黒騎士。直ぐに状況を把握し、再び剣を握ると皇帝機に向かって剣を振り下ろす。


 前と後、左と右。挟撃をするような形で俺と黒騎士の剣撃が皇帝機に降り注ぐ。


 器用なことに2本の剣を巧みに操り、それを全て受け流している。流石ラスボス、その機体は伊達ではない。


 ならばこの手ならどうだ。


 両手で持っていた剣を片手に持ち替え、重い剣から速い剣に型を変更する。片手であっても皇帝の剣は重く、まともに受ければ競り負けてしまうが、出力を制御し、何とか乗り切っている。


 エードラムとの訓練は我々にとっても無駄ではなかった。パイロットを育てる過程でブレイブシャインのメンバーたちも基礎訓練をじっくりやり直すことが出来、効率的な出力制御を学ぶことが出来た。


 また、各国からやってきたパイロット達の存在も大きい。彼らは戦闘のプロである。訓練の一環で武術や剣術等、様々な戦闘術を学んでいたため、逆にレニー達の良き師となってくれた。


 それは生身での訓練であったが、機体に登場している今も大いに役立っている。


 出力制御に加え、絶妙な動きで皇帝の攻撃を受け流す。


 しかし、皇帝の戦闘センスは異常だ。2本の剣を同時に振るい、恐ろしい反応速度で俺と黒騎士の剣を正確にさばき、反撃を加えてくる。


 だが、攻撃が3箇所となればどうだ?


 悟られぬよう、すばやく左手にリボルバーを取り出し、足を狙って連射する。


 リボルバーの銃弾は急所に当てない限りはそこまで効果的な攻撃ではない。しかし、この状況下で、突然脚を撃ち抜けばどうなるか?


 来るはずのない場所に突如として訪れた攻撃。感知する間もなく機体に伝わる衝撃、そしてダメージ。


 大打撃というわけではなかった。しかし、目的はダメージを与えることではない。


 どうやら妙な状態であるらしい皇帝陛下も予期できぬトラブルには反応してしまうらしい。一瞬、ほんの一瞬だが意識が足元に移る。


 その瞬間を見逃す俺と黒騎士ではなかった。


 左右から同時に放たれた一閃、それは胸部装甲を切り裂いてコクピットを顕にする。


 膝を付き崩れ落ちる皇帝機。コクピット内では皇帝と思われる男が頭をかきむしって何かを喚いていた。


 黒騎士がコクピットハッチを開け、ジルコニスタが皇帝に何か話しかけている。おいおい、このパターンはまだ油断できないやつだろうに……。


 何か必死に説得をしているようだが、音声は拾わない。とっさの判断が鈍りそうだからな。

 こういう時、敵の親玉の中には改心したふりをして襲いかかってくるやつも居る。故に俺達だけはこうして臨戦態勢で待機を……!


「ジルコニスタ!離れろ!皇帝から距離を取るんだ!」


 構わず音声を外に回し、ジルコニスタに警告をする。彼は一瞬此方を見たが、直ぐに何かを悟りコクピットハッチを閉めた。


 一体どうなっているのかわからぬが、皇帝機の背中から例の『杖』が現れたのが見えた。


 皇帝に操縦している様子は見られず、ただ正気を失って喚いているだけだが背中から『サブアーム』に握られた『杖』が姿を現したのだ。


 かつて俺のフォトンランチャーだった物の先端、銃口部には見慣れない紫色の鉱石、恐らくは魔石が煌めいている。ロボ視点で見ているためスケール感が狂っているが、あれはかなり巨大な魔石である。


 その魔石が、禍々しい輝きを増していく。



「来るぞ!回避行動!」


 この攻撃は厄介である。数の暴力と言わんばかりの連撃は此方のペースを完全に狂わせる。


 そして、目の前が白く染まり轟音が鳴り響く。眼の前に落ちたか?


 いや、落ちた先は黒騎士、ジルコニスタ機であった。反応を見るに彼はまだ生存しているようだったが、避けきれず直撃した影響で気を失っているようだ。


 そして油断した我々の頭上には既に紫電が迫っていた。


 眼の前を染める閃光、衝撃、轟音。


 コクピット内に鳴り響くパイロット達の叫び声、鳴り響くアラート、緊迫したスミレの声。


 直撃である。


「っく、すまない……俺も完全に油断していた……」

「私がちゃんと……見ていれば……」

「皆無事か……?」

「いきてますわよお……」

「うう……しくじったでござる……」


 スキャンによれば致命的な損傷は無かったが、流石に無傷とは言えず急速回復が済むまで満足に動くことが出来ない。ここでもう一撃喰らえば不味い……な……。


「状況はもっと不味いです。回復を急ぎます」


 スミレの声で状況を思い出す。


 何故我々はここに居るのか。何故我々は皇帝機と戦っているのか。


 フラりと立ち上がり、顔を上げた先に見えたのは皇帝がアランドラ機を両手で掴み上げ、天に掲げる姿だった。


 

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