第二百二十話 共同作業
初めての実戦訓練から一ヶ月が経つ。1軍はほぼ完全に操作を身につけ、予備隊員達も機兵に空きがある時と言う限定的な条件の下ではあるが、少しずつ訓練を重ね機体の追加が来れば直ぐにでも使えそうな具合に育っている。
ここ最近はハンター隊との連携も上達し、伐採の合間に行っている魔獣の駆除もより大型の魔獣を仕留められるようになった。
この森に棲む魔獣達は大型で素早い物が多く、最初のうちは上手く距離を詰められず攻めあぐね居ていた。相談を受けた俺は採集と食料調達のために同行していたハンター達との連携を薦め、具体的な方法を提案したのだ。
「いいか、グッガ・ダッツは鳥型の魔獣ではあるが飛行することが出来ない。しかし、その代わりに強靱な足腰を持ち、そこから繰り出される蹴りは機兵の装甲とて破壊されることもある。これは以前座学で説明したな」
ライダー隊とハンター隊を見渡し、復習させるかのように説明するとハンター隊の若者がそれに続けるように口を開く。
「はい!そしてその脚は移動速度にも貢献していて、森の中でもかなりの速度で俊敏な動きを見せるんですよね!」
「うむ、その通りだ。故にライダー隊の諸君は上手く対処できずに困っているわけだ」
俺がそう言うと、ライダー達がなんともばつが悪そうな顔をして居るが、別に責めたわけでは無い。
「まあ、そう言う顔をするな。なあ、レニー、お前でもあれはキツいよなあ」
話を振ると、オヤツを食べていたらしいレニーが慌てて反応し、お菓子を胸に詰まらせたのかドンドンと拳で叩いている。不味いことにコクピットハッチを開いていたため、周囲からその様子が丸見えで在り、隊員達に恥ずかしい姿を見せる羽目になった。
そのおかげでやや空気が柔らかくなったのは手柄だと思うが。
「んっ、ぐ!はあ……失礼しました。そうですね、同様に脚が速いストレイゴートを狩った時を思い出しますね」
「レニーさんはどうやって狩ったんですか?」
「マシューと協力したんですよ。私は高台で待機していて、そこに追い立てて貰ったんです。良い位置に来た所で石を投擲!頭を撃ち抜いて一撃でした」
それを聞いた隊員達は微妙な顔をして黙ってしまった。だよなあ、参考にならないよな……。
なんたってそう言う訓練はして居ないわけで、投擲スキルは磨かれていない。した所でレニー達のセンスはちょっと規格外な所があるので、あそこまで緻密な狙撃は不可能なのでは無かろうか。
なんとも言えない空気なので助け船を入れるべく補足する事にした。
「その後戦った魔獣に『キランビ』という奴が居てな、蜂型の魔獣で飛行するんだ。そのため、レニー達の投擲でも貫くことが出来なかったんだが、当たらないなら囮にしようとマシューが石を投げている間、レニーがワイヤーを射出して絡め取ったんだよ」
実際あの時はワイヤードロケットパンチ的な物が出るとは思わなかったため、ある意味賭けだったのだが、そこまでバラした所で誰も得をしないのでそれは伏せる。
「問題なのは何を使うかでは無く、協力し合うことだ。そこで作戦だが……」
ブリーフィングが終わり、全隊員が森に入る。ライダー隊が周囲の警戒にあたり、その間ハンター隊がトラップを仕掛けていく。
トラップと言っても何も用意をして居ないため簡単なものだ。木の間に張ったワイヤーの中間に何カ所か輪を作った物を数カ所に仕掛け、目立たぬように草で隠しただけの物である。
罠自体は大きなものでは有るが、その加工は流石に機兵でする事は難しいため、設置はハンター隊の仕事である。彼らはシグレによる狩猟罠の講習を受けているため、大きな罠であろうとも要領よく設置していた。
今回の作戦には新兵器を使用している。スミレ先生お手製のドローン、ミニヤタガラスだ。
そのままヤタガラスを小さくしたような見た目で、普段ヤタガラスが使っているぬいぐるみ体とは違い、金属を用いた頑丈な外装をしている。
そして特筆すべきがその能力で、ヤタガラス同様に光学迷彩で姿を隠すことが出来、潜入先から隠れて映像を送ることが出来る。
そのパイロット……というか、遠隔操縦をしているのがスミレで、コクピットを模した小さな操縦席にちょこんと座り、器用に操縦している。
そこから送られる映像とレーダーを元に今回の作戦は進められているというわけだ。
罠の設置が完了したようなのでハンター隊を退去させ、ターゲットの背後に回り込んでいた隊員にミッションスタートを告げる。
ストレイゴートとグッガ・ダッツが決定的に違う所は攻撃性の高さだ。人を見れば逃げることが多いストレイゴートと違い、グッガ・ダッツは容赦なく襲いかかってくる。恐らくは縄張り意識の高さがそうさせるのだろうが、これからここで活動をするに当たって危険極まりない存在である。
今回はそれを逆手に取り、機動力に自信がある隊員が囮役をし、罠まで誘導する手筈になっている。
囮役の隊員はラッシュという青年で、どういうわけか機兵で走るのに長けている。
「脚部の駆動に効率よく魔力を流しているので、それが理由なのはわかるのですが、本人はそれを意識してやっているわけでは無いらしいのが謎を呼びますね」
と、あのスミレ先生も悩ませる面白い若者だ。
勢いよくターゲットの前に躍り出たラッシュが挑発するように怪しげな動きをしている。
何をやっているのだと言うように首をかしげていたグッガ・ダッツだったが、ラッシュが突如駆けだしたのを見るとたまらず土を蹴り後を追って走り出した。
野生動物と遭遇した際の鉄則として、急な動きを避けるというのがある。変に刺激をすると防衛本能で襲いかかってくるからだ、等と言われている。
グッガ・ダッツが防衛本能で後を追ったのか、ただ単にノリで追ったのかはわからないが兎に角最高の条件で成功したと言えよう。先に走り出したことによりターゲットと程よく距離が離せている。
余り近すぎるとあっさり追いつかれてしまったり、何かの拍子に攻撃を食らうことも考えられるからな。
俊足のラッシュとは言え、森の中は走りにくく、ジワジワと距離を詰められている。しかし、罠の位置までもう少し。この分なら上手く逃げ切れることだろう。
さて、もうすぐポイントに到着する。手筈通りであればそろそろラッシュが速度を落とし、ターゲットとの距離を近くし、直前で罠を飛び越える事になっているが……おいおいどうした速度が落ちてないぞ。
「ラッシュ!速度を落とせ!このままだと罠に気づかれてしまうぞ」
「ああ!いっけねえ!すいません!走るのに夢中で……ああっ!」
完全に俺も悪かった。ラッシュの速度が思った以上に速かったのもあり、言うのが遅かったのである。
俺の通信に気を取られたラッシュは速度を落とせなかったばかりか、直前で飛ぶことも忘れそのまま罠に脚をかけて転んでしまった。
しかし、怪我の功名とはこの事だろう。突如転んだラッシュに驚いたグッガ・ダッツは咄嗟に避けようと左に逸れた。が、そこにも罠はあるわけでワイヤーに脚を絡ませラッシュと並んで地に伏せた。
「……あ! い、今だ!仕留めろ!」
一瞬呆けてしまったが、なんとか指令を出してミッションコンプリートである。
なんとも締まらぬ結果となったが、仕留められたのだから良かろう。見ろ、隊員達も勝鬨を上げているでは無いか。
「……終わりよければ全て良し!」
「……一歩間違えばグッガ・ダッツに踏まれて大変なことになったかもしれませんね……」
「カイザー……、間抜けなのは今更ですが、大切な隊員を危険な目に遭わせるのは見逃せません」
「うっ……」
冷静な声でレニーとスミレに言われ反省した俺はその後の反省会で隊員達に大いに謝ることとなった。




