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第二百十四話 妖精さん

 レイに拐かされるように彼の自宅へ向う途中、しっかりと本体のセキュリティシステムを起動した。コクピットは簡単には開けられないし、乗り込めたとしても素質が無ければ起動する事も出来ないためほったらかしにしても良かったのだが、あまり維持繰り回されるのも嫌なのでな。


 場合によっては多少大げさな防御行動をオートで実行することになるわけだが、その件についてレイに尋ねると少し考えた後、


「めんどくせえからそのままで良いかとも思ったが、カイザーだからなあ……。一応うちにもってくか」


 と、結局レイをコクピットに納め、彼の案内で俺が歩いて移動する事になった。

 ……後で「なんかおじさんの匂いがする!」とか言っても俺は知らんからな。逃げたレニーが悪いんだからな。


 ギルドから俺の足で数分、どうやら到着したようでレイが停めて降ろすように言った。


「むう、結構な建物で」


 流石に大統領だけあって、背が高い3階建ての中々に立派な建物だ。


 聞くところによれば一階の半分が機兵のガレージになっているそうで、そのため建物全体が高めに設計されているらしい。


「いやあ、恥ずかしい話、機兵が好きでこの仕事やってるようなもんでな。買い戻した駆け出し時代の機兵から始まって、今メインで乗ってるのまでそっくり置いてあるのさ。まあ、流石に大統領機を置く許可は下りなかったがな」


「お前もそこに停めておくと良い」とレイに言われ、ガレージに入ると成程、見事なものだ。

 カエルのような頭をした機兵に、狼頭、何か角が生えた機体に、軍機のようなカスタム機と様々な機兵が並んでいて、レニーやザックを連れてきたら半日は、いや、泊ると言って聞かなくなりそうだな。


 レイに言われるままにガレージに停め、妖精体になってレイの後に続いて家に入った。


「お帰りなさい!お父様!」


 レイに飛びついたのは6才くらいの可愛らしい女の子だった。イカツイ顔つきのレイの子供だとは夢にも思わないような、フワフワとした金色の髪を揺らしながら優しげな顔つきをしている。


「おう、ただいま。マリー。お客さんを連れてきたとエミリーに伝えてきてくれないか」


「わかったわ!お父様!」


 言うやいなや、元気よく二階に向って駆け上がっていってしまった。成程、勢いで生きてそうな所はレイそっくりだな。


 メイドに何か伝えたレイは「ついてこい」と広い部屋に俺を案内した。


「カイザーを連れてきたのは飲みたかったのもあるんだが、一つ頼みたいことがあってな」


 部屋の扉を閉めたレイが突然真剣な顔になる。他のギルド職員には聞かせられないような緊急性がある依頼でもあるのだろうか……。であればこうして無理矢理連れてきたのも頷ける。


「我々に出来ることなら協力しよう。それで、頼みとは?」


「ああ、いや、お前かスミレにしか出来ねえことなんだが……スミレにはまず頼めねえ」


 より深刻な顔になったレイが頭を下げた。


「たのむ!マリーが来たら妖精の振りをして話をしてやって欲しい!多少尊大な口調のままでも構わんから!」


「ええ……」


 何かと思えば子供への点数稼ぎかよ……。

 

 少しレイについて下方修正しようかと思ったが、理由を聞いて悩んでしまった。


 聞けば、最近家で飼っていた犬が大往生したのだという。娘のマリーにとって産まれた頃から居た姉のような存在で、それからずっと元気が無かったらしい。


「それがさ、ある日マリーが珍しく元気に俺の所に駆けよってきてな、こう言うんだよ。『お父様!妖精さんを連れたハンターがいるって本当?』ってな」


 マリーが大好きな絵本に妖精が出てくる物があって、それはそれは妖精に大して憧れを持っているのだという。そんなマリーの元に飛び込んだ妖精の噂。久々に見たマリーの元気な顔に思わずレイは約束してしまったらしい。


「任せろ!俺が妖精さんを呼んできてやるからな!って言っちゃったんだよ……なあ、頼むよカイザー、借りは必ず返すからさ……」



 くそう、この手の話に俺は弱いんだよな……。個人的に恩を売っておくのも悪くは無い……か。


「しょうが無いな……。わかったよ。ボロが出そうだからそう長くは出来んが、可愛い娘さんのために一肌脱いでやるよ」


「助かる!本当に助かる!いやあ、持つべき者はブレイブシャインだな!」


 変な持ち上げられ方をされても困る……。


 と、ノック音が聞こえ、レイの応答と共に扉が開かれマリーとレイの奥さん、エミリーが入ってきた。


「マリー、エミリー、今日は凄いお客さんを連れてきたぞ」


「え?お客さん?どこに居るの?」


「それはな……」


 レイが俺に目配せをして出るよう合図をする。さて、緊急依頼のはじまりだ。


「始めまして、エミリー。私は……貴方達人間が妖精と呼ぶ者です」


「ふぁ……よ、よ、妖精しゃまあああああああああ!!!!!!」


 凄い勢いで駆けよってきたマリーがガッ!と凄い力で俺を掴む。


「ググ、マ、マリー?ちょ、力が……あの……つぶ……潰れるから……ね……?」


 レイの娘と言うだけあり、恐ろしい握力。かなり頑丈に造られている筈の身体だが、気のせいかメキメキと音が聞こえる……。


「ああ!ご、ごめんなさい……!あの……私、妖精さんを見て嬉しくて……その……」


 俺を解放したマリーがしょんぼりしながら謝る。いかんいかん、凹ませては依頼失敗になる。


「ふふ、良いのですよ。貴方が元気で良い子なのは知っていますよ。私の絵本をいつも読んでくれてありがとう」


「わああ……やっぱりあの絵本は本当のことだったんだ!」


 その後、小一時間ほどマリーから様々な質問を受けることとなった。

 妖精の国について、とか、他の妖精は居るのか?とか、今までの旅についてとか。


 生前の俺は妖精とか妖怪も結構好きだったので、その手の話はそつなく答えることが出来た。さり気なくスミレを巻き込んでおいたので、後で連れてこようと思う。


「マリー、そろそろお勉強の時間よ。妖精さんはお父様と大事なお話があるみたいだから、そろそろね?」


 母親のエミリーからそう言われたマリーは少々名残惜しそうな顔をしていたが、素直に頷いていた。


「私は何時でも貴方の味方ですよ。マリー、今度会う時までよい子でいてね」


「はい!妖精さん!良い子にしてます!だから……また来て下さいね!」


「ええ、次に会うのを楽しみにしている……わ」


 マリーはとってもご機嫌な顔で部屋を後にした。それに続いたエミリーがこちらを向くと、可憐な笑顔で深々とお辞儀をして去って行った。


「ふう……ありがとうよカイザー。エミリーの奴もあれから元気が無くてよ。母子揃って元気な顔を見られたのは久々だったよ。無茶を言ってしまったが、本当に感謝している!」


「まあ、たまにはこう言う依頼もいいんじゃないか?大きな事を成すのも大切だが、家族を犠牲にしてまでやる様な奴はあまり好きでは無いしな」


 その後、予定通り酒宴がはじまり、結局夕方までレイとサシで飲み続けることとなった。

 どういうわけか、律儀に「体内に過剰なアルコールを検知するとセンサーやAIに影響を及ぼす」プログラムが仕込まれているようで、これまで感じたことが無かった酔いを久々に味わった。


 すっかり気持ちよくなった俺は何だか飲酒運転のようで気が引けたため、レイに言って本体を預け、宿屋へフラフラと妖精体で向った。


 窓からレニー達が居る部屋に入ると、既に3人は帰ってきていて、入ってきた俺に気づくとにこやかに言った。


「おかえりなさい、妖精さん!」


「な、ななな、なんの話だ!」


「ふふ……、カイザーの会話は私に筒抜けだと以前言ったでしょう。途中から皆で聞いてましたよ、素敵な妖精の国のお話しをね」


 そう言えばそうだった……、不覚。


 ただ、レニー達はからかってわけでは無く、純粋に少女の夢を守ったことを褒めてくれているらしいので腹は立たなかったが、ただただ恥ずかしかった……。


 後日、夕方のイーヘイを舞う妖精の噂が飛び交うこととなるのだが、俺は悪くない。

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