第二百十二話 レインズの元へ
フォレム付近のおうちを発ってから3日目、俺達はイーヘイに降り立った。
既に俺達が飛べるというのは噂になっているようなので、直に門前に降り立とうとも思ったのだが、念のためレイに連絡をして聞いてみると「やめろ！確実に騒動になる！」と凄い勢いで止められてしまった。
まあそうだよな、あくまでも噂レベルの話だろうし、そうじゃなくても商人やハンターがひしめく門前に飛べる機兵が現れたらお祭り騒ぎになるのは目に見えている。
そんなわけで前回同様目立たないところに降りてから徒歩でやってきたわけだが、普通に歩いてきただけだというのにワラワラと商人やらハンターやらが集まってきてちょっとした騒ぎになってしまった。
「なあなあ！噂のカイザーってのはお前だろ！」
「本当に喋るのか？」
「飛べるって聞いたが、歩いてきたぞ」
「なあなあ！頼むよ！ちょっとで良いから情報をくれ！」
どうしたものか困っていると、凄い勢いでギルド係員の女性がこちらに駆けよってくるのが見えた。
「こらー！群がるなー！どいたどいた！」
あまりの剣幕に負けた人々がわっと道を空け、俺達はその間を歩いて門へ向うというなんだかパレードの様な状態になってしまった。
「ギルマスからお話しは伺ってます。あなた方の到着を今か今かとお待ちでしたので、どうか真っ先に行って貰えると助かります……」
疲れた顔で話す係員曰く、俺達が連絡を入れた朝からずっとソワソワと落ち着かない様子で、何かを発散させるかのようにギルド内を無駄にウロウロとしては係員にちょいちょい話しかけては仕事の邪魔をして居たという。まったく困ったおじさんだな……。
無論、そうで無くともまずはギルドに行く予定なので、職員の平穏のためにもやや急ぎ足でギルドへ向った。
ギルド前に「本体」を停め、妖精体となってレニーに潜り込んで共にギルドに入る。係員に声をかけ、レイに取り次いで貰おうとした瞬間、視界がぐらりと揺れた。
地震か！？ と、思った瞬間レイの声がガンガンと鳴り響く。
「ようやく来たな！ブレイブシャイン！朝からずっと待ってたんだぞ！ったく！連絡したら直ぐ来るのが常識だろうに！おい！聞いてるのか！レニー！なあ！」
肩を掴まれゆっさゆっさと揺さぶられているレニーは喋ることが出来ない。しばらくの間レニーを揺さぶっていたレイだったが、ようやくそれが原因でレニーが喋れないのに気づくと、ばつが悪そうな顔で謝った。
「……すまねえ、いやあ、お前達が来るって聞いたら居ても発っても居られなくてな……。まあ、部屋に行こうか、積もる話があるんだろ？」
「ううう……少し待って……下さい……目が……」
ぐわんぐわんと頭を動かし、ふらりと壁に手をつくレニー。それを見てレイはまた気まずそうに頭をかいていた。
数分後、ようやく復帰したレニーはレイに連れられて執務室に入る。
ソファに座るよう促され、腰を下ろすと直ぐにお茶が運ばれてきた。
「さっきはすまなかったな。茶くらいしか出せねえが、まずは身体を落ち着けてくれ」
言われるままにお茶を飲むレニー。どうやら美味いようで、表情がパッと明るくなっている。
「聞きたいことや見せたい物が色々あるんだが……、どうすっかな。こう言うときカイザーの身体のデカがネックだよなあ。通信でやるっつうのもなんだかまだるっこしいし……」
「俺なら居るぞ」
レニーのポケットから飛び出した俺を見てレイがひっくり返った。
「うおおおお！なんだ！びっくりした！そういや妖精みたいなのが……確かスミレとか言ったか……」
「スミレは私です」
「うおお！増えた！」
そういやスミレとすらまともに会ったことが無かったのか。スミレは何故か分らんが、稀に息を潜めて出ない時が有るからな。人見知りなのか、何か企んでるのかは分らんが。
「まあなんだ、このスミレに頼んでこう言う場に出席できる身体を作って貰ったんだよ。無論、いつでも本体の方に戻ることも出来るぞ」
「あー、たまげたわ。へえ、随分とまあ可愛らしい姿で……ああ、そうか。リーンバイルからの通信が気持ち悪かったのはこの身体のせいかよ」
「それは忘れてくれ！まあ、とにかく現在の状況を改めて説明するよ……」
ニヤニヤとしたレイを黙らせる勢いで俺はこれまでのことを説明した。概ね予め伝えておいた通りだが、フォレムやパインウィードのギルドにお願いした件については更に詳しく聞かれることとなった。
レイはこれでも全てを束ねるギルドマスターだ。自分に関わりがある組織である以上、直にあって詳しく聞きたかったのだろうな。
「ま、事前に聞いてたとおりだがよ。いやあ、しかし流石カイザーだな。確かにパインウィードの連中程伐採に適したライダーはいねえわな」
レイが特に感心していたのはパインウィードの件だった。あそこのハンターは機兵を使って器用に伐採する。一応土木用の機兵というのも存在するらしいのだが、それでもパインウィードのハンター達には敵わないのだという。
「あそこは昔から林業が盛んだからな。今までは禁忌地に抜けないよう、年毎に伐採箇所を変えたり、植林したりしていたらしいが、今回ばっかりは遠慮が要らねえ。奴ら大喜びで伐採するだろうさ」
なんだか俺が想像しているより早く作業が終わりそうな気がするな……。フォレムからやってくるハンター達からも伐採を手伝ってくれる者が多く居るようで期待が出来そうだ。
「ルナーサ経由でお嬢ちゃんの方の事も聞いたが、順調のようで何よりだ。リム族の事もそうだし、例の赤い土もな……っと、その件で見せたい物があったんだよ。ちょっとついてきて貰えるか？」
レイに言われるまま後をついて行くと、どうやら目的地は以前も入った演習場のようだった。
「さあ、驚きやがれ」
レイが扉を開けると中には沢山の機兵が並んでいた。
