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第二百十一話 マシューチーム

 ◇◆マシュー◆◇


 レニー達がトリバへ向かってもう3日になるのか。あたいとミシェルは集落の連中と協力して採掘作業に励んでいる。


 あたいとミシェルが護衛兼、土木機兵役として動き、男たちが採掘をしているんだけど、護衛をしてるのが女のあたい達だってのが何だかおかしくて仕方がない。


 それもこれもこの集落に動ける機兵が無いってのが大きな理由なんだけどさ。

 じっちゃん達が次世代機を完成させたら、動作テストをするためにカイザーがここに持ってくることになってる。

 

 そうなれば、この辺りも大分平和になるかもしれないなあ。


「マシュー、あの少年また来てますわよ」


 ミシェルが通信で教えてくれた少年は、以前リエッタを探しに来ていたリシューだ。

 大人の男たちに混じってリシューも採掘作業に毎日やってくる。


「もしかしてあの子、マシューのことが好きなのではなくて?」


 妙に嬉しそうにミシェルが囃し立ててくるが、あたいにはそんな事はないとわかっている。リシューから漂う臭いはそんな甘ったるいお菓子のようなものではなく、レニーやザックから漂う機械油の香りだ。


「ミシェルって若干恋愛脳な所あるよなあ。だめだぞ、判断を鈍らせちゃ。あいつは……」


 作業員を下がらせ、硬い岩盤を掘削するあたい(オルトロス)の姿を熱っぽく見つめるリシュー。

 ああ、あれは間違いなくレニー達と同類、機兵に憧れる少年の視線だよ……。


 

 作業をまとめるオッチャンから昼休みの号令がかかった。

 今日のメニューはミシェルが集落の女たちと作ったスープにパインウィードの鹿肉を焼いたものだ。


 ミシェルがバックパックから一式取り出し、作業員達に配っていく。あたい達はすっかりなれてしまったけど、熱々の状態で出されるスープ鍋や焼き肉に男たちは毎食驚きの顔をして興奮する。


「すげえなあ、今の機兵ってそこまで出来るようになってるのか。うちの機兵様は古かったからなあ」


「勇者にゃ感謝してるが、結局どうすることも出来なかったからな……」


 なぜかはわからないけど、自分が馬鹿にされたような気がしてちょっとムっとしてしまう。


「違うぞ。あたい達の機兵はちょっと特別なんだ。いくら外の技術がここより進んでると言ってもリム族の機兵に敵わないものは沢山あるし、あの機兵は外では失われた技術で動いてたんだ。もっと誇ってほしいなあ」


「ぐ、そうなのか……すまねえ……」


 あたいに謝ることじゃないし、謝られたところでどうしようもないっつーの。


 なんだかムカムカが収まらず、肉をワシワシと口に運んでいると、オッチャンがあたいの隣にドカっと座ってお茶を手渡してくれた。


「お、ありがとーな!オッチャン!」


 オッチャンはニヤリと笑うと、ゴロリと大きく切られた鹿肉にフォークを刺し、ヒラヒラと動かす。


「これはあの森の鹿肉だな?」


「パインウィードで買ってきた奴だけど、そっか、あそこの森はこことの境界にあるんだっけ」


 トリバと禁忌地の間に伸びる森、ルナーサでは「ゲンベーラ大森林」とか呼ばれてる奴だ。

 パインウィードの狩人はそこの森で狩りをしていて、名物のシカを狩ってるんだよね。

 

「俺が若い頃はよ、まだ森で狩りが出来たからな。たまにこうやって鹿を食うのが何よりのご馳走だったのさ」


「ああ、そっか。当時はあの機兵が護衛をしてたんだっけ」


「うむ。マシューは……ああ、お前の父親な。マシューは勇者に選ばれるだけあってな、腕がいい機兵乗りだったのよ。アイツとあの機兵のおかげで村はかなり助かってたんだ」


「へえ、そっかあ。あたいの父ちゃんは本当に強い人だったんだなあ」


「ナナエッタはもっと強かったけどな。あまり頑丈じゃねえ体の癖してよ、お前の親父をよく殴り飛ばしてたよ……。なるほど、お前はナナエッタの若い頃によく似てるな」


 オッチャンがそんな事を言うと、周りのオッサン達からも同意の声が上がっている。母ちゃんはどうやら男たちから人気があったそうで、父ちゃんと結婚が決まった時は集落の男たちが悔し紛れに父ちゃんを泥沼に投げ込んでしまったのだという。

 

 それを見ていた母ちゃんは、男たちを一人づつ殴り飛ばすと、沼から父ちゃんを引き上げようとしたが、父ちゃんの体重に負けて泥沼に落っこちちゃって、三日三晩熱を出して寝込んだのだという。


 熱が下がるまで毎日家の前で頭を下げ続けていたら、後日回復した母ちゃんから

「まったく、暑苦しいのが雁首揃えて毎日来るもんだから熱も逃げちまったよ!もう二度とやるな!」

と、叱り飛ばされたとオッチャンは笑っていた。


 その様子を思い浮かべると、なんだか胸がほっこりと暖かくなってきて、ムカムカはもう何処かへ行ってしまった。


「はあ、しかしほんとお前はナナエッタにそっくりだわ。昨夜酔っ払ったゴンシューに蹴りを入れてる姿、ありゃあまさにナナエッタの蹴りだったよ……」


 妙に儚げな表情でそんな事を言われ微妙な気持ちになる。そっくりってそういう意味かよ!


「見た目はナナエッタでマシューの名を名乗るお前は本当に面白えっつうか、なんつうか……上手くいえねえけど、来てくれてありがとうな!」


 良くわからない感謝をされ、よくわからないまま照れてしまった。視線を感じ振り向くと、遠くからミシェルが尊い物を見るような顔でこちらを眺めている。


 くっ……、何だか余計に恥ずかしくなってきた!


 居ても経っても居られなくなり、残っていたお茶を一気に飲み干してオルトロスに飛び乗った。


「ほらほら!おっちゃん達!お昼休みはしまいだよ!働け働け!働かざるもの飲むべからずだぞ!」


 あたいの号令に文句を言いつつ動き出すおっちゃん達。


 故郷と言われてもいまいちピンと来なかったけど、来てよかったなあ……。

 集落の機兵、父ちゃんの形見も直してやりたいし、頑張って採掘しなきゃな。

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