第二百九話 作戦始動
がシュール達のところへ戻り、トリバやルナーサと交易をし、集落の生活を向上させる用意があると伝えるとリム族の者達が歓声を上げた。
やはり外部との交流は出来ることならしたいとずっと思っていたようで、別に好き好んで引きこもっていたわけではないようだった。
リム族には紅魔石の原料となる赤い土を採掘してもらうこととなるが、周囲の魔獣をある程度片付けた上で護衛を付けなければ安全に仕事をすることは不可能である。
なので俺はブレイブシャインを2つに分けて行動することに決めた。
まず、周囲の魔獣を片付けつつ、少しずつ採掘エリアを広げるチーム。これはミシェルとマシューに任せることにした。
ブレイブシャイン内で戦闘に秀でているのがこの2人というのもあるが、ミシェルの知識は集落の生活を向上させるのに役立つだろうし、現地に残ってアズベルトと密にやり取りをすれば今後必要になるものや人員の調達に役立つと思ったからだ。
マシューははじめての里帰りということで、集落の住人に馴染んで欲しいというのもあった。
お節介なのかも知れないが、同族というものは大切にしたほうがきっと良いだろうからな。
そして俺とシグレはトリバへ向かい様々な用意と根回しをするチームだ。
まず、明日試掘をして得るであろうクレルを持って基地へ向かう。ブレイブシャイン総出で土木作業を行えば4機分くらいは入手出来るだろうとスミレが試算してくれたので、それを運搬し次世代機の開発を急いでもらうためだ。
完成した次世代機のうち8機はこちらに回してもらい、当面の間、魔獣討伐と採掘の護衛をしてもらう。
黒竜奪還作戦までには新造された次世代機の増産も進んでいるであろうからその位は誤差であって欲しい。
その他にも我々には用事がたくさんあるわけで、あちこち回る必要がある。そのためにシグレに同行してもらうことに決めたわけだが、ヤタガラスとカイザーが2機合体すると飛行が可能となる。
白い身体に黒い翼が生えるため、「堕天使モード」等と恥ずかしいあだ名で呼ばれることが多いあの形態である。俺自身もそう呼んで掲示板やSNSに書き込みをしていたわけだが、実際自分がカイザーになってしまえば恥ずかしくて仕方がない。
作戦がまとまり、俺達は集落と世界の未来に向けて動き始めた
◆◇◇
会議から3日後、予想通りクレルの採掘が完了したため俺とシグレはトリバへ向けて飛び立った。
当面の食料として俺が格納していた分から殆どをオルトロスに譲渡し、集落を賄うよう任せてきた。行く先々であれやこれやと買い求めていたため、かなりの量の食料があり、恐らく20日前後は賄うことが出来るのではなかろうか……。
帰りもまた、沢山の食料を購入して帰ることになっているが、領収書を貰っておくようアズベルトから言われている。まさかこちらの世界でその単語を聞くことになるとは思わなかったが、お金のことはきちんとしておかないと後でミシェルに怒られるのでキッチリ従っておこうと心に決めた。
2機合体と言っても速度が落ちるということはなく、むしろスマートな分移動速度が上がり早々に基地に到着した。
事前に連絡を入れておいたため、基地前にジンやリック、アルバートが出て待っていて、クレルを渡すと凄まじく興奮して喜んでいた。
「これが紅魔石の原料か!カー!こいつが無いがために今まであいつらを動かせなかったと思うと感慨深いな!」
リックが愛おしそうに袋を撫でながら苦労を語っている。いくら立派に組み上げたとしても動力源である紅魔石が無ければ動かすことは出来ないからな。
「ああ……ウロボロスから貰ったレシピを見ながらよ、リックと二人今か今かと待っていたんだ……。こう見えて俺は錬金術にも長けているんだ、魔石の製造はまかせてくれよな」
アルバートは錬金術も使えるようだ……。ここに来て随分とファンタジーなスキルが出てきたものだなと思っていると、スミレが補完してくれた。
「錬金術と言っても持ってかれるようなアレとはまた違くて、魔術的な要素が無い、所謂化学者的な存在ですね。素材屋をやるにあたって必要な知識や技能なのでしょう」
っく、夢を壊す情報をありがとう……。レシピがあれば誰でも簡単に調合出来るというわけでも無いだろうからな。錬金術師が居るのは大いに有り難いよ。
「……それで、こんな時に聞くのもなんだが……、マシューはどうだった?」
聞きにくそうにジンが俺に尋ねてきた。
「ああ、ジンには報告しておかないとな。通信できればよかったんだが、ジンの分は基地に組み込んじゃったからなあ……」
マシューの件を細やかに説明すると、ジンは優しげな笑顔を浮かべそうかそうかと満足気に頷いていた。
「マシュー・リエッタ・リム、マシューの新しい名前だよ。リエッタと言うのが本当の名前なんだが、マシューはジンに付けてもらった名前を、父の名前をそのまま使うことを選んで残したんだ」
「……そうか……なんだかマシューらしいなちくしょう……」
そのまま後ろを向いて「土が来たんだこうしちゃいらんねえ!」と基地に向かうジンの頬に涙が見えたのは秘密にしておこう……。
リックに機兵が出来たら連絡を頼むと伝え、俺達はそのままフォレムへ飛んだ。
街にほど近い森に降り立ち、ステルスを解除して合体を解く。そのまま素知らぬ顔で門をくぐる。門番がやや不思議そうな顔をしていたがあまり深く考えないでもらいたい。俺達は茂みの中から現れた、それが全てでそれ以上のことはないのだから。
ギルド前に機体を止め、妖精体になってレニーのポケットに潜む。コクピットから見ていても良かったのだが、折角のギルドだし生で見てみたかったんだよね。
「あ!レニー!さん!今まで一体どこへ行っていたんですか!」
受付のシェリーが無理やりさんを付けてレニーとの再会を喜んでいる。
「ちょっとシェリーさん、そんな『レニーさん』とかやめてくださいよ……」
「なにをいってるのやら!1級ともあろう方を呼び捨てにするなんて!今やレニーさんやブレイブシャインはフォレムの宝なんですからね!」
知らない間に大げさな事になっている……。あまりこう、英雄視されるのは望ましくないんだけどな。
「それで今日は噂のカイザーさんも来てるんですよね?もうみんな知ってますよ、レニー、さんの機兵がおしゃべりだって事は」
「もう、そこまで言うならレニーでいいって……。カイザーさんの事、そこまで知れ渡ってるんですか?」
確かにそうなるようにあちこちで仕込んではいたが、随分と展開が早いな……。俺と同様に驚くレニーの反応を見てシェリーがニヤリと笑う。
「最初は商人の噂だとみんな思ってたんですけどね、パインウィードの件から始まってあちこちで実際にカイザーさんが喋っている姿が目撃されているんですよ。そればかりか飛んでいる姿も目撃されてて、まあ、馬に変形する機兵なのだから今更飛んだところで不思議はないとみんな言ってるのよ」
なんてこった……。驚かせてはならないといろいろ考慮していたのが全て無駄だったというわけか……。
であれば、妖精体の事もギルドには公開しておいたほうが今後の作戦がやりやすい……か。
「そこまで話が広まっているのであれば挨拶をしない訳にはいかないな。はじめましてシェリー、俺はブレイブシャイン司令官であり、レニー・ヴァイオレットの機兵、カイザーだ。よろしく頼む」
「んな!カ、カイ、カ、カ、よう……」
レニーのポケットから飛び立ち、挨拶をするとシェリーが立ったまま気を失ってしまった……。




