第二百八話 集落の今後のために
巻末にワールドマップの更新版がありますので良かったらどうぞ。
集会場に人を集めてもらい、まずは話を聞いてみることにした。
集落を囲む過酷な環境、それによって永きに渡り世界から隔離されていた集落。
そしてもたらされている困窮する生活。
魔獣が発生する以前はそれでもなんとか生活が出来ていたようだ。
隊列を組んで森へ挑み、狩や採集を行って食料を得る冒険者たちの存在。
当時は今で言う魔獣は存在しなかったが、ファンタジー的な魔獣が存在していたため、現在の機械的な魔獣が発生する以前でもそういった護衛の存在は必要であったし、森の奥に進むに従って数を増やす魔獣達の存在、日々を暮らすには不足がない食料や素材を入手できていたため、わざわざ危険を冒してまで外へ移住しようとする事は考えなかったらしい。
しかし、機械型の魔獣が現れ始めてからそれは一転する。生身では到底敵わないその存在は大いに驚異となった。しかし、少ないながらも集落やその周辺に存在していた機兵の再起動によりその対処にあたり、なんとか以前の生活を維持していた。
とはいえ、満足にメンテナンスが出来ない集落では徐々に動ける機兵は数を減らし、追い詰められた末に提案された大移住の際に最後の機兵が大破。
以後、貧しい生活を余儀なくされどうすることも出来ないまま今日まで過ごしてきたのだという。
「それでも漁ができているうちはまだなんとかなったんだが、デカブツが現れ始めてからそれもだめだ。なあ、あんたらそんな立派な機兵をもってんだろ?なんとかできねえか?」
集落の若者が縋るように言うと、周りもまたそれに乗じて頭を下げてくる。
「無論、例の魔獣は討伐しようと考えているが、それだけではこの生活は改善しないだろう。まずはこちらの話も聞いてくれないか」
ある程度の情報格差を解消するため、外の情報を彼らに説明する。とはいえ、隠れ里みたいなこの集落ではかなりの期間隔離されていたため、かなり圧縮した内容でだ。
既にかつての国家は存在しない事、旧ボルツの周辺にはルナーサとトリバという国が有り、友好的な国家であること、我々がそこから訪れた冒険者であり、目的は採掘とマシューのルーツを探るためであったこと。
何より、森の向こう側にそれぞれ友好的な国家が有り、それらの国は豊かであること、その説明は彼らの心を揺さぶった。
しかし、かつての大移住の事もあり、彼らはこの土地を離れることには否定的だった。
幸いなことに、話してみてわかったが、この集落の人々は決して閉鎖的ではないため、外部から人を入れることには抵抗がないようだった。
「ちょっとここらで休憩にしようよ!お腹空いたし、みんなも空いたでしょ!」
いいタイミングでレニーが声を上げた。炊き出しの用意をしていたレニーたちが各家庭に声をかけ人を集めている。
会議場には各家の代表だけ来ていたため、全体数は把握できていなかったが、全員集合となるとかなりの人数だった。
大人数であるということで、今日もまたカレーライスであったがそれに文句を言うものは誰も居なかった。
「ちょっと見た目はアレだが、なかなかうまいなコレ…」
「凄いよ!肉だよ!肉がたくさん!」
「これはなんだ…?なにかの植物のようだが……」
皆はじめての味、はじめての食材にワイワイと盛り上がりながら食べている。
さて……、俺もカレーに舌鼓を打ちたいところだが、今のうちに俺の仕事をしておかないとな。
『こちらカイザー、アズベルト応答せよ』
『お、カイザーじゃないか。ふふ、その呼び方嬉しいね。なんならアズって呼んでくれても良いんだよ?』
『む……、君がそう言うなら……。ではアズ、報告がある』
『うんうん、それでいいよ。レインズだけ親しげでちょっと羨ましかったからね。さて、そちらの状況を聞かせてもらおうじゃないか』
まったくこのおじさん達は変なところで対抗心を燃やすから困るよ……。
さておき、周辺の環境、集落の状況等を細やかに説明し、今後どうするのかを相談した。
『なるほどね、彼らは移住を望まず、海の魔獣を討伐してわずかに生活を向上させるだけで満足だと』
『ああ、確かにそれでも現状よりは生活は向上するかもしれないが、長い目で見れば一族の滅亡は明らかだ。お節介なのかも知れないが、マシューの故郷でもあるし、なんとかしてやりたいのだが……』
『そうだね、これはルナーサの代表としてと言うより、商人として提案したいのだけど、彼らと商売をするというのはどうだろう?』
『それはどういう事だ?詳しく聞かせてくれ』
『ああ、僕らが協力して開発している次世代型機兵には紅魔石が必要不可欠だろう?あの次世代型は従来型よりも多くの面で勝っている。帝国の事を考えればルナーサ・トリバ両国で軍機に採用しておきたいし、長い目で見れば民間機にも採用される日が来ると思うんだ』
『余程のことがなければ破損せず、再利用が可能な魔石だからな。機兵だけではなく多方面で活躍することだろう』
『先に聞いておくけど、紅魔石の埋蔵量は見込みどのくらいあるんだい?』
『ざっくりとしか調査していないが、集落近隣だけでも1000機分の原料が埋蔵されているよ。おそらくは砂漠全域に広く分布しているのではなかろうか』
『それは良いね。彼らには新たな仕事として紅魔石の原料を採掘してもらい、こちらからは食料や資材、そして機兵の提供をするというのはどうだろう』
『成程、それは名案だな。集落の位置的にどうにかパインウィードと繋げられればなんとかなると思うのだけど、どうだろうか』
『そうだね……、ちゃんとした街道を作るのには時間がかかるだろうけど、森を切り開いて簡易的な道を作ってしまえば、それこそフォレムで高ランクハンターを護衛に雇えば流通が安定するだろうね』
『森か……ああ、それなら開発は俺たちに任せてくれないか。トリバ側からの開拓にアテがあるんだ』
『ああいいよ。じゃあ、僕からレイに連絡を入れて置くよ。各ギルドにレイの名前で通達が行っていれば禁忌地に関わるクエストだろうとギルドもハンター達も疑うことは無くなるだろうしね』
『ありがとう。では、また進展したら連絡する』
さて、次は住人達への説明と説得か……。納得してくれると助かるがさてさて。




