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第二百六話 リム族

「うまい……こんな美味い飯があったのか……」


 泣きながら食っているのは護衛隊の年長者、リシューである。彼は17才で若い獣人族を纏める存在らしい。

 彼もまた、移住の悲劇の生き残りで、幼かったため当時のことは良く覚えていないが、その時に父親を失ってしまい、集落の大人と協力して母を支えているのだという。


 獣人族……、リム族は生存のため集落皆家族の教えを持って生活していて、何かあれば皆協力するのが普通だと言うことなので、過剰な苦労はして居ないとのことだったが、聞けば聞くほど集落の状況は酷いものであった。


 まず、食料が圧倒的に足りない。砂漠に慎ましく生えている食べられる植物を採集したり、命がけで海に向い貝や甲殻類を捕ったり、後は稀に大人達が動物を狩ってくることもあるらしいのだが、それもまた満足な量では無く、口に入るのは僅かだと言うことだった。

 

 水のことはかつて先祖が掘った井戸がまだ生きているため、その心配は無いとのことだったが、やはりその他の物が圧倒的に足りていない。どうにかしてやりたいが、まずは集落へ送り届けてからだな。



 食事とテントが効いたのか、リム族の若者達とすっかり打ち解けることが出来た。


 早めに打ち解けられたのは不本意ながら妖精体のおかげだろう。


 俺は必ず食事を摂らねばならぬと言うわけでは無いため、何日か我慢しても良かったのだが、やはり習慣という物は恐ろしく「今日は人数が多いのでカレーですわ」と言われ、我慢できなくなって妖精体をお披露目してしまった。


 まあ、どの道この形態を開示して居なければ行動しにくい事この上ないため、結果としては良かったのだが。


 スミレと共に姿を現した時は予想通りの反応だった。


「……よ……妖精様だ……」


 特に神々しくも無い俺とスミレにリム族の若者達が跪く。マリネッタのみ、ニコニコとして、

「あー、妖精さんだ!今まで何処に行ってたの?」なんて言っていて、ラムネッタに無理矢理頭を下げられていた。


「あー、頭を上げてくれ。俺達は君達が言う妖精では無い。これでもれっきとした機兵だよ」


「き、機兵だって?そ、そんな小さい……いや、機兵が喋るわけ無いじゃないですか!」


 予想通りのテンプレ反応。こちらもそれには慣れているため、シャインカイザーを分離してそれぞれ自己紹介をしてみせる。


 これで納得してくれるだろうと思いきや、今度は


「な……機神様だ……」


 これである。リム族の伝承にかつての大戦でルストニアを勝利に導いた機神が居るそうで、戦後ボルツに神罰を落としたのもその機神だと言うことだった。


 犬系獣人族はボルツから奴隷のように扱われていて、徴兵もされていたため少なからず戦地で命を散らすこととなったが、結果的に一族の仇となるボルツを滅ぼしたため、ルストニアには敵では無く一族の仇を取った恩を感じていて、同じくその中心となっている機神の信仰が厚いらしい。


 ボルツの混乱に乗じて散り散りになっていた者達と共に集落を再構築し、今日まで生き延びていたという。その際、ご神体として幾つかの機兵をそれぞれ集落に置いていたが、ある日それが目覚め、集落の勇者足る存在が乗る機兵として集落防衛に活躍していたという話だ。


「その機兵も今はもう動かないんですけどね……」


 寂しげに言うその若者は悔しそうで、どうにか手を貸してやりたいと心から思った。



 そんな事があったため、翌日の移動は楽だった。

 既に隠すことも無いため、馬車モードに変形し、御者台に2人、荷台に6人屋根に2人乗せて集落への速度を上げる。

 屋根の2人を落とすのでは無いかと心配になったが、身体能力が高いらしく寧ろ大喜びではしゃいでいた。


「速い速い!凄いなあ、これさえあればいつでも海に行けるのになあ」


「これなら魔獣も蹴散らせるんじゃ無いか?森にだってきっと行けるよ!」


 はしゃぐ声に和みながら集落への道を急ぐ。予定ではもう一泊必要だったのだが、馬車が使えたことにより夕方前には集落に到着することが出来た。


 通常の街道であれば目立つ音では無いのだが、他に馬車が無いこの地では非常に目立つらしく、俺達が集落に着く頃にはその入口に住人達が集まって不安そうな顔をして居た。


「なんだあれ……」

「あれは……人が乗ってるのか……?」

「おい!ヤニューとケイジーが乗ってるぞ!?」

「前に乗ってるのはラムニッタと……誰だ?」


「いや、それよりお前ら見ないようにしてるだろ……機兵が一緒に居るぞ……」

「3機も……一体何が始まるんだ……」

 

 すまない、4機なんだ。住人達の音声を拾い、かなり驚かしてしまっていることを申し訳なく思う。

 しかし、若者達を上に乗せていたおかげで警戒度はそこまで高くは無いな。


 集落の入口に馬車を停め、若者達を降ろす。


 大人達に取り囲まれた若者達が事情を話している。時折こちらを指しながら何か説明しているが、また面倒な事になりそうな説明をしているな……。ほらみろ、ひれ伏した。


「機神様!マリネッタをお救い頂き有難うございます!」


「あー、だからリシュー達にも言ったが、俺達は機神では無いからな。ちょっとした事情があってこの地にやってきた冒険者だ」


 それでも納得せず崇めることを辞めない住人達をなんとか宥め、取りあえず集落に入れて貰う。

 集落と言っても周囲を囲む壁以外は粗末な物で、これもまたなんとかしてやりたいと思うレベルだったが、取りあえず動きやすいよう入口にロボ軍団を置き、それぞれ義体に乗り換え中に入った。


「機神様方、ようこそおいで下さいました、リム族の地へ」



 もう訂正するのは諦めよう。

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