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第二百三話 浜辺にて

 禁忌地というだけあって、旧ボルツ領に繋がる街道という物は存在しない。

 なので、余計にわざわざ立ち入ろうとする者はあまり多くは無く、その数少ない物好き達は大体がフォレムかパインウィードを北上して入るらしい。

 ルナーサの場合はスガータリワから西に抜けるのが近いが、そのルート自体かなりの難所であるため、やはりわざわざパインウィードまで来てそこから入ることが多いそうだ。


 とは言え、行ったところで殆ど実入りが無いのが分っているため、特に調べる物が無いと判断された現在では立ち入る物好きは本当に僅かなようだった。


 そんな我々が取ったルートは勿論、空である。


 合体したシャインカイザーは(移動に関しては)無敵だ。

 

 どんな悪路だろうが物ともせず、大空は俺の物とばかりに我が物顔で移動中だ。これでドラゴンでも飛んでいるような世界だったらば、敵と見なされ攻撃されるというイベントが起きたのだろうが、生憎そのドラゴンは現在帝国でゆりかごに揺られている最中だ。


 寝る子が起きて飛んでこないとも限らんが、今はそんないらぬ心配はせず空の旅を楽しむのが吉だ。


 何度か休憩や野営を挟み、いよいよ禁忌地へと突入した。

 とは言え、明確にそれを分ける物は無いため、最初のうちは普通に森の上空を飛んでいる気分だったのだが、実は途中から旧ボルツ領へと入っていたらしい。


 それに気づいたのは遠方の確認のため高度を上げた時だった。


 今までは調査も兼ねて低空飛行していたのだが、一度遠くを見ておこうと高度を上げたところ草原が終わり、赤茶けた土壌、砂漠地帯が視界に入ってきたのだ。


 元々はもう少しトリバ・ルナーサ寄りの方までこの砂漠が広がっていたらしいのだが、良いのか悪いのか、植物の繁殖力が何時しか勝るようになり、砂漠の範囲はどんどん減っているのだそうだ。

 もう数千年、早くこの状態になっていればボルツがルストニアに攻め入ることも無かったのかも知れないな。


「通りで気づかないわけだ、砂漠が縮小しているのかこれは」


『恐らくは例の事故が関わっているのでしょう。この辺りは恐ろしく魔素濃度が高いです。恐らく、ゲンベーラ大森林の成り立ちと関係があるのかもしれませんね』


 スミレによれば、周辺の植物から検出される魔力濃度が異常に高いそうで、恐らくはそれによって異常な繁殖力を手に入れ、砂漠の土壌ですら生育出来るようになったのでは無いかとのことだ。


 事実、爆心地である旧ボルツ王都周辺があったであろう方角には広大な森林があり、恐らくあれはそのままゲンベーラ大森林と繋がっている……いや、ゲンベーラ大森林こそがかつてボルツの王都があった場所なのであろう。


 砂漠はそこからやや離れた場所、海側に向って残っている状態である。

 ……ジンがマシューと出会ったのもそっちの方角だったな。まずは海側に向って移動しよう。


 それはマシューの一言が切っ掛けだった。


 ほんの、なんと言うことが無い一言、いつもの食いしん坊気質から発せられた一言だったが、それはきっと運命の導きだったのかも知れない。


「なあ、カイザー!海辺に行ってみないか?あたいじっちゃんから釣り具借りてきたんだよ」


「おっ、中々良い思いつきだな。そうだな、どの道目的地は海に近い所にある。今日はもう海辺で野営する事にして釣り大会でもしてみるか」


「そうこなくっちゃ!」


 そして海辺に向って飛行すること30分、丁度よさげな砂浜を見つけ、そこに着陸した。スミレの観測により、満潮でも水が届かない所に「おうち」をそれぞれ取り出して、後は釣りの時間である。


 面白い事にこの世界にもリール竿が存在していた。ラインもまた、どう言う素材かは分らないが、ナイロンに近いような物で、良く家族と釣りをしていたというシグレがその使い方をレクチャーしていた。


「なるほどなあ。いやあ、やろう!って張り切って言ったけどさ、あたいは川釣りくらいしか経験がないからなあ。助かったよシグレ」


「いえいえ。しかし、トリバにも中々良い釣り具があるのですなあ」


「良いか悪いかはわからんが、じっちゃん達はイーヘイやザイーク方面に行った時釣りをしてたらしいからなあ。あたいは何時も留守番だったからさ、投げ釣り?は初めてで嬉しいよ」


 シグレが皆に教えているのは砂浜サーフからの投げ釣りのようだ。俺も前世ではたまに行っていたからちょっと身体がうずいてしまう。


『へえ、君釣りなんてするんだ。意外だねえ。て言うかその体格で仕掛け飛ばせるの?』なんて自称プロ釣り師(アングラー)だという同僚に言われた時は腹が立ったものだが、俺だって実はソコソコ釣りは出来るのだ。

 釣り好きの父とアウトドア好きの母が居る家庭の宿命のようなものだと思って欲しい。


 ……その二人から学んだ知識が微塵も役立たないこの身体に転生してしまって色んな意味で申し訳ないが、そこは許して欲しい……。


 と、俺が余計な郷愁に浸っている間に乙女軍団はとっくに釣りを始めていたようだ。


「きゃ!何かが引っ張ってますわ!」


「む!ミシェル!それは魚ですよ!さあ!巻いて!巻いて!」


 シグレのアドバイスに従い、竿を操作し、見事ミシェルは魚を釣り上げていた。

 そこそこ大きな、およそ30cmのカサゴのような魚である。煮たら美味そうだな……。


「あ!あたしにもきたよ!うわ!凄い!凄い引いてる!」


「レ、レニー!ここは慎重に!ああ!ダメですレニー!切れますから!そうそう、今は魚のやりたいようにさせて……!ここです!」


「うおおおおおおお!」

「そうです!そのまま一気に!波の力を利用して!」


 レニーが釣り上げたのは50cmはあるであろう、スズキのような魚であった。これはムニエルかな……?

 新鮮だから刺身も良いかもしれないが、迷うところだ。


 と、言ってると今度はマシューの竿がしなる。


「きたぞおおおおおおお!!これはでかい!」


「そうです、そうそう!その調子で!」


 シグレのアドバイスが的確に飛び、獲物がどんどん近づいてくる。デカい!これは今までで一番デカい。1m近くはありそうだが、それに耐える竿やラインも大したものだ。


 砂浜に引きずり上げるように釣り上げられたそれは……


「ゲエ!魔獣じゃねえか!ちくしょう!」


「マシュー、良くやりました。海棲素材は貴重なサンプルになります。それに恐らくこの辺りに我々の武器があるかも知れないという情報に繋がりますよ。えらいですよ、マシュー」


「ちくしょう、嬉しいけど何だか複雑だ……」


 その後、日暮れ近くまで釣りは続けられ、俺が暇つぶしにやっていた潮干狩りの成果とも合わせてそこそこの量の海鮮素材を手に入れることが出来た。


 一応バックパックには僅かではあるけれど以前買った魚が新鮮なまま保存されているのだが、気分的に釣りたては嬉しいものだからな。


 どのように調理するか最後まで迷ったが、海だと言うことでBBQにすることにした。

 

 バックパックから道具を取りだし、釣りたての魚や貝、ついでに肉や野菜を焼いて思い思いに食べる。

 俺やスミレもミシェルに取り分けてもらい、新鮮な魚貝に舌鼓を打つ。


「美味いな」


「うん、美味しいねカイザーさん!なんだろう、手を加えた料理って分けじゃ無いのに凄く美味しい」


「それは環境のせいですね、レニー。竜也達もやっていたでしょう?海辺の特訓で」


「あ!キャンプって奴だな!確かにあれはなんかやたら美味そうだった!」


「波の音を聞きながら外で食うってのは乙なものだからね。本当は海で泳げたら良いのだけれども、魔獣がいるみたいだからなあ……」


 と、ウロボロスから緊迫した声で報告が入る。


「カイザー、反応1、どうやら人間のようだけど……」

「ちょっと穏やかじゃ無いわよ。反応は海上、意識は無いみたい」


「なんだって……?」


 

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