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第百九十九話 いざ基地へ

 今日は朝から慌ただしかった。

 早朝からリックが張り切ってレニー達を叩き起こし、早めの朝食を済ませてさっさと資材や仕事道具を俺に積み込んでしまった。


「信じたくねえが、ヒッグ・ギッガや大量の機兵も積んであるんだろ?ならこれもいけるよな」


 と、かなり大型の道具も遠慮なく収納させられてしまった。運ぶのは良いが、向こうでの受け入れ体制とかもあるだろうに……。


 ……そうか、聞いてみれば良いのか。


『こちらカイザー、こちらカイザー。朝からすまない、ジン起きているか』


『何言ってやがる、俺達にとっちゃもう昼間もいいとこだ!どうした!急に連絡よこして!』


『ああ、すっかり連絡をするのを忘れていたが……、話が少々デカくなってね。今度その洞窟をトリバ、ルナーサ、リーンバイル3国が協力の下、俺たちの基地としてリーンバイル秘蔵の1世代機の改修等を行うことになったんだ』


『ヒッ』


 ん?通信機の故障か?声が聞こえなくなったぞ。


『こちらカイザー、こちらカイザー。ジン、聞こえるか?こちらカイザー……』


『き、聞こえてるよ!おめえさんがあんまりにも凄まじい事いいやがるから心臓が止まりかけたんだよ!リーンバイルにその秘蔵の1世代機だ?おいおい、お前ら一体どこに向かってるんだよ……』


『流石にジン達だけじゃ手に余ると思ってな、とびきりの助っ人、俺達の知人である技師を3人、道具や資材と共に連れて行こうと思っているんだが、大丈夫かい?』


『……たく、淡々と話しを流しやがるよなカイザーはよ。この洞窟はそもそもお前さん達の持ちもんだ。誰を連れてこようが何を運び込もうが俺たちは文句はねえよ。つうか、助っ人なら大歓迎だ。で、いつこっちに来れるんだ?来月か?20日後か?まさか来週なんて言わないよな』


『ああ、今フォレムにいてな。荷物と人員を積み込んだら直ぐにでも……、そうだな昼過ぎには着くと思うぞ』


『ぐっ……っはあ!あぶねえ、また死にかけたぞ!……お前なあ、そういう大事な連絡はもっと早くしてくれよ……』


『すまんすまん。まあ、そういうわけだから楽しみにしててくれ』


『おい、たのしみにしてくれじゃねえ!おい、!カイザー!おい!』


 ふう。特に問題が無いようで何よりだ。ジンはああ言ってくれているが、一応今の管理者は彼らだからな。少しでも彼らが難色を示したのであれば、何らかの話し合いが必要になるところだった。


「カイザー、ほんと貴方はちょいちょいやらかしますよね」


「なんのことだ?」


「……天然を見せる時は妖精体の方がうけますよ」


「だからなんのことだ?」


 スミレがやれやれといったポーズをしてレニー達の所に飛んでいってしまった。ともあれあちらの許可は取れたし、リックの荷物を積み込まないとな。


 ◆◇◆


 その後、リックの用意が終わるとそのままアルバートの店に移動し、まだ眠そうな顔をしているアルバートから言われるままに資材や道具を積み込み、馬車にアルバートを乗せて俺たちはフォレムを経った。


 あっちこっち移動していることが多いため、それほどホーム感がないフォレムだが、なんだかんだ言って外から門をくぐる度に「帰ってきた感」があるんだよな。


 色々ケリが付いたらフォレムにブレイブシャインの家を建てて、そこを拠点としてのんびりとクエストを受ける生活も悪くはないかも知れないな。


 しかし、フォレムを出て森まで向かうのも久しぶりだな。短期間で色々あったため、ミシェルを乗せて「嘆きの洞窟」に向かったのが本当に昔のことのように思えてくる。


「へえ、街道をこんな速度で走るなんてやっぱおかしいよなこのカイザー」


「アルもそう思うか。引いてる馬がカイザーだから速度はまあわかる。しかしこの速度で微塵も揺れねえわ、ケツが痛くねえわ一体どんな設計なんだよこの馬車は」


「それはですね!車輪に秘密があって……」


 全開と大きく違うのはこのむさ苦しさか。それなりに広い車内だと言うのに、男どもは仲良く近くに座り、熱い「カイザー談義」を繰り広げている。御者台に座っているレニーはその会話をニコニコとして黙って聞いているため、車内に響いているのはむさ苦しい声だけである。


 結果として、この会話が切っ掛けでザックがレニー防衛隊の二人に気に入られることとなったため、今後を考えれば悪いもんではないんだけどな。あの二人はどれだけ説明しても「レニーに悪い虫が付いた」とザックに睨みを効かせていたからな。


 詳しい話を聞いたことはないが、恐らく実家にいるであろう本当の父親よりも彼らは強力な防虫剤なのではなかろうか。


 途中、一度休憩を挟み予定通り昼にはもう洞窟にたどり着くことが出来た。


 洞窟の周辺には立派な建物がいくつか建てられていて、さすがの俺も少々驚いてしまった。


 ザック達を下ろし、そこらに居たギルドの連中に挨拶をしていると俺たちの到着を知ったジンがノシノシとこちらに歩いてきた。


「よお、ジン!待たせたな!」


「待たせたな!じゃねえよ!たく、昨日の今日で本当に来やがって!おう、マシュー!元気そうでなによりだ!」


 相変わらず勢いが凄いおっさんだな。マシューも久々にジンに会えて嬉しいのか、あまり見せない照れたようなハニカミ顔を見せている。


「あ!カイザー!流石にまだものは出すなよ!先ずはどういう物が有るか話を聞いてからだ!ええっと、そこにいるのがカイザーの知り合いの方々だな?俺はジン、トレジャーハンターギルドの前頭領だ。ひでえ口調だが許してくれ!」


「おう、俺たちも職人でよ、畏まったのは出来ねえ!俺はリックで機兵技師だ!」


「そうそう!これから同じ釜の飯を食うんだ、遠慮はしねえぞ!俺はアルバート、アルでいい。パーツ屋をやってるんだ。なんかあったら贔屓にしてくれよ」


「えっと、俺はザックです。機兵の模型を作ってます……よろしく!」


 なんだかザックが勢いに負けて少し小さくなっているが、おっさんどもに「たく、わけえもんが遠慮がちな声をだすんじゃねえ!」と、背中をバシバシと叩かれ、目を白黒とさせている。


 気の毒だが、慣れてもらうしか無いな……。


 さて、ジンに説明をして今後の用意を進めようじゃないか。

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