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第百九十六話 リックハウス

「へえ、奥はこんな風になってたんだな」


 今まで中に入ることが出来なかったが、妖精体のおかげで格納庫奥にある居住区に始めて入っている。

 リックのことだから、住処はたいして手を入れてないのだろうと思っていたがとんでもなかった。


 意外なことにきちんと綺麗に掃除がされていて、表とは違って木をベースとした暖かみのある内装。

 やわらかなオレンジ色の魔導ランプがあたたかく灯り、なんだかアウトドア雑誌で見た「男の隠れ家」といった具合だ。


「リックさんは仕事とおうちはわける人なんですよ。あっちはあっち、こっちはこっち。お風呂もこっちに作ってくれたら良かったんですけどね-」


 入って直ぐの場所に小部屋があり、リックはそこで着替えをしてから家に入るそうだ。

 その先にはトイレと洗面所があり、手と顔を洗ってから奥に進む……と。


「俺は準備してくるからよ、おめえらは先に清めておけ!レニー!後はお前さんが案内してやってくれ」


「わかったー」


 勝手知ったる我が家、そんな感じで我々を洗面所に案内するレニーだったが、扉を開けて固まっている。


「あれ……?内装が変わってる……」


 レニーの話によれば、扉を開けば直ぐに広めの水場があり、そこで身体を洗えるようになっていたらしい。もっとも、ここには格納庫の隅に作った簡易浴場の様に浴槽などは無く、ただ純粋にノズルから出るお湯をかぶるくらいにしか使えなかったそうなのだが……それが無くなっていて、なにやら籠や棚が置いてある。


「おいレニー!奥に扉があるぞ!」

「え!何それマシュー!私知らないよ!」

「以前お邪魔した際にはありませんでしたわ」


 この部屋を使ったことがある3人が見知らぬ扉を見つけて盛り上がっている。恐る恐るといった感じでそれを開いた3人が何かに驚き、動きを止めた。


「……どうした?何がある?」


 思わず声をかけると、よく分らない表情をした3人が震える声で奥の様子を伝えた。


「……お……お風呂がある……」

「でけえ風呂があるぞ……」

「外にあった物より立派ですわよ……」


 レニーのために急ごしらえで風呂をこしらえたリックだぞ……。居ない間に思うところあって屋内にそれを移そうと考えた……、それだけでは満足せずに大型化を実現した、そう考えてもおかしくはない。


「ちょっと顔を洗うだけのつもりだったけど……これを見ちゃ……ねえ?」

「ああ……、でけえ風呂には敵わねえ……」

「と言うわけですから……ザック、ごめんなさいね。ほら、シグレ貴方も来なさいな」

「え?ええ?風呂ですか?えええ?」


「……ザック、奥で待ってようか……」

「は、はい……そう……ですね……」


 風呂という物が何かは知らないが、会話の内容からこれからレニー達がどう言う姿になるかを理解したのだろう。紅い顔をしてそそくさと逃げるように部屋を出るザック。


 うーむ、初々しくて和む。


 レニーに代わり、スミレの案内でリビングに通された我々がそこで寛ぎながら雑談をしていると、通りがかったリックが不思議そうに声をかけてくる。


「あれ?お前らだけか?あいつらはどうした?」


「……どうしたもなにも……あんな物をみた連中がどうなるか……リックにはわかるだろう?」


「あんなもの……ああ!風呂か!そうかそうか、カイザーはよく分らんが、そこの小僧は男だもんな!がはは!わりいことしたな!まあ、これでも飲んで待っててくれや」


 何か飲み物を3人分出して快活に笑う。俺とスミレのグラスまできちんと用意されているのが憎い。

 恐らく前回寄った際にスミレ用の食器に困った経緯があったため、いつかのために用意してくれたのだろうな。


 そして去り際に「レニー達があがったら小僧も入れよ」と念を押してザックを苦笑いさせていた。


 

 そして暫くたった後、湯気を立てた乙女軍団がドヤドヤとリビングに現れ、それと交換にザックが風呂に旅立っていった。


「風呂はどうだった?」


「最高ですね!いつものお風呂もいいけど、足を伸ばして寝そべるように入れるなんて凄いですよ」


「ああ、ありゃいいね。一家にひとつだよ……」


「商機を感じましたわ。これは是非お母様に相談しないと……」


「あれは実家にも欲しいですね……何故今まで無かったのか疑問なくらいです」


 思い思いの感想だな。そう言えば有りそうなのにリーンバイルにも風呂は無かったのか。

 考えてみれば飯や酒の欲求はあったが、風呂の事はあまり考えてなかったな。


 代謝という物が無いであろう人工体だからだろうか。いや、それでいいんだ。

 もしも「風呂に入りたい!」と思ってしまったら大変だ。男なのか女なのか中途半端な今、レニー達と入って良い物か少々悩むし、かといって一人でデカい浴槽に入るのも寂しい……。


「その時は私と二人、丼に浸かればいいのですよ」


「うお、心を読むなよ」

「何を考えてるかくらいわかりますよ」


 まったく。スミレとは部分的にリンクしているからな。油断すると心を読まれたようになってしまう。

 ……今のは本当にカマをかけただけかもしれないが。


「はー!風呂すげえ!身体がすっかり楽になったよ!」


 さっき行ったと思ったザックがもう湯気を立てて戻ってきた。男の子の風呂はこんなにも速いのか。

 

「随分速かったな?もっとゆっくり浸かっていても良かったんだぞ」


「いやいや!あれ以上浸かったら溶けちゃいますって!」


 ワイワイとやってると、声で気づいたのかリックが戻ってきてまた飲み物を置いていってくれた。

 魔導冷蔵庫でもあるのだろう、冷えた飲み物が皆を喜ばせている。


「じゃ、俺も風呂入ってくるからよ。あがったら飯にしようや。積もる話があるんだろう?」


「ああ、とびきりのネタを持ってきたから覚悟しておいてくれ」


 リックはおどけるように顔を顰め、スタスタと風呂に向っていった。


 ……さて、どう説明したら良い物か。

 

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