第百九十五話 フォレムへ
熱い時間から一夜明けて村人たちに惜しまれながら俺たちはフォレムへと向かった。
なんだかんだ結局5時間も上映会をしてしまったため、村人達はすっかり俺たちについて詳しくなってしまった。
個々の人達にはこれからの事情は話していないが、もしかしたら協力してもらう事になるかも知れないな。彼らの統率力と銃の腕は捨てたものではないからな。
出る時間が遅かったため、フォレムに到着する頃には夕方になっていた。
久々のフォレムだったが、流石になにか大きく変わったという事もなく、以前と変わらぬ冒険者の街として賑わっている。
既にチラホラと噂になっているのか、ゾロゾロと歩く俺たちを冒険者たちが遠巻きに見ている。
「おい、見ろよあれブレイブシャインだぜ」
「ヒッグ・ギッガやバステリオン、未知の魔獣を倒して一気に1級まで駆け上がったんだってな」
「うっそだろ?あの全裸のレニーがリーダーだって?なんの冗談だよ!」
「あの子、金がねえだけで腕は良かったんだなあ……」
冒険者たちの声をしっかりとマイクが拾って俺に届けてくれる。地味にレニーが褒められてるような気がするな。「拾った機兵が強いからだ」という声もあるが「だったらおめえ軍機に乗ってヒッグ・ギッガに挑めんのかよ」と諌められている。
なんだかレニーがようやく認められたようで俺も嬉しくなるな。
そんな会話がレニーの耳にも届いているようで、気恥ずかしそうにはにかみながら馬車をエア操縦している。
「良かったな、レニー。ちゃんとお前の活躍を理解してくれてるハンターも居るみたいじゃないか」
「えへへ……。なんだか恥ずかしいですよ。でも、やっとハンターの一員になれたなんだなあって。嬉しいなあ……」
「ほら、レニー。もっと堂々とした顔をしなさい。貴方はもう1級ハンターなのですよ?今貴方を見ているどのハンターたちよりも階級が上なのです。ほら、もっとドヤ顔をしなさい」
スミレが妙な煽り方をしている。あんまりレニーを調子に乗らせるのはよして欲しい。
「うーん、でも先輩は先輩だよ、お姉ちゃん。階級なんて機兵に乗れるようになったらただの飾りだもん。やっぱり経験豊富で物を知ってる人には敵わないし、尊敬するよー」
よく言ったぞレニー!スミレは冗談をマジレスで返されてしまってバツが悪そうにしているが、あれは悪い冗談だからな。いい薬になるだろう。
「レニーがそういう子じゃないのはお姉ちゃん知ってましたよ。レニーは偉いですねー」
「えへへー」
取ってつけたように褒めているが、俺にはわかっているぞ。わかっているからな。
そして俺たちはゾロゾロとリックの工房に入っていく。大きなゲートをくぐると奥に格納庫が見え、それを取り囲むように雑多な素材や機兵が並んでいる。
リックは仕事を終えたところなのか、ちょうど外で資材の片付けをしているところだった。
そこにゾロゾロと俺たちが入っていったわけだが……。
「おうおうおう!なんだお前ら!ゾロゾロゾロゾロ入ってきやがって!暫く見ねえ間に1機増えてやがるしよ!」
「久しぶりだな、リック。突然ゾロゾロと押しかけてすまない」
「はん!何言ってやがる。別に悪いってわけじゃねえよ。どうせ宿のアテにして来たってとこなんだろ?突っ立ってねえでさっさと家に入れ入れ!ていうか、馬で喋られると気味が悪くて敵わねえよ。さっさとレニー下ろして機兵になりな」
っと、そうだったな。リックに二人を紹介しないと。
「リック紹介したい奴が居るんだが……」
「あん?ああ、その黒い機兵のパイロットか?」
「それもあるんだが、もう一人……な。今回来た要件にも関わってるんだが」
ここでザックが馬車から降り、リックに挨拶をする。サイズは違えど腕がいいメカニックの対面だ。何だか少しワクワクするな。
「はじめまして!ザックです!ええと、レニーの……」
「あん?なんだおめえ!レニーの男か!?おい!レニー!何だコイツは!俺はこんな奴許さねえぞ!」
とんでもない勘違いをしたザックの声を聞いて慌ててレニーが仲介に入る。
「ちょ、なにいってんの!違うよ!ザックはそうじゃなくって!ちょっと特殊なメカニックなの!お仕事を手伝ってもらうためにフロッガイから一緒に来てもらったんだよ!」
必死に弁明をするレニーだが、何だか少し顔が赤い。
……まあ、これはザックに何か思うところがあるとかそういうわけではなく、ただ純粋にそういう話に慣れていないと言うか、そういう弄られ方をされたことがないという顔だが。
そしてザックもまた同じ様に顔を赤くして弁明する。
こっちは少し満更でもない感じではあるが、残念だなザックくん……。レニーはまだちょっと心がそこまで成長してないようだぞ……。
「そ、そうなんですよ!レニーの紹介でカイザーと出会って、より精巧な機兵の模型を作れるようになったんです!今回その腕を見込まれて仕事を手伝うことになったんですよ!別にレニーとそんな……その……男とかそういうのでは……ないです……」
二人に否定されたリックは少々バツが悪そうな顔で頭をかきながら、渋々と頭を下げる。
「はあ、紛らわしいことを言いやがって……。まあ、勘違いしたのは俺だ。済まなかったな。
お、そっちの姉ちゃんもはじめましてだな。改めて俺はリックだ。機兵を直したり武器を作ったり……ま、そういう仕事をしてんのさ」
ようやく自己紹介が出来ると、ホッとした顔でシグレが口を開く。変な空気になってタイミングをすっかり逃してしまっていたからな……可哀想なシグレ……。
「私はシグレ・リーンバイルと申します。名の通り、リーンバイルの生まれで、あの黒き機兵、ヤタガラス…私はガア助と呼んでいますが、其れのパイロットをしています。よろしくおねがいします」
「おう、よろしくな。はあ、まあなんだ、面倒くせえ話はあとにしてよ、まずは飯にしようぜ!俺ももう腹ペコなんだよ……」
「そうだな、食事をしながら今回来た要件でも説明させてもらうとするか」
「つってもよ、おめえと話しながら飯となりゃここで食うしかねえが……ちと準備が大変だぞ」
「ああ、其れには及ばないさ」
妖精体に接続し、ひらりとリックの肩に座る。
「見てくれリック。俺もスミレから身体を貰ったんだよ。これなら一緒に飲めるし飯も食えるぞ!」
「……おめえさん……随分とまあ……」
「……それは言うな!スミレの趣味だ!」
……これから会う人々皆とこれをやるハメになると思うとやっぱり少し気が重いな……。




