第百九十三話 帰路
乙女軍団と共に部屋で朝食を済ませ、宿裏に回ると既にザックが来ていてボソボソとウロボロスと話をしていた。
何だかここでこの姿の俺を見せると面倒な事になりそうだったので、体を移してから声をかけた。
「ザック早いな。もう来ていたのか」
俺の声を聞いたザックは顔を上げ、こちらを見る。それなりに早い時間だというのに、妙にツヤツヤしている……。
「おはようございます!声をかけても返事がないので、まさか昨日のは夢だったのかと思ったんですが、ウロボロスが声をかけてくれて。いやあ、色々機兵のお話を聞けて満たされましたよ……」
「そ、そうか。それは何よりだ……。俺は……そうだな、わかりやすく言うと眠っていてね。君が来たのに気づけなかったんだ。すまないね」
「いえいえ!」
馬車に姿を変え、ザックと打ち合わせをしていると支度が済んだのか乙女軍団がゾロゾロとやってきた。
「あ!ザックだ!おはよー!もう来てたんだ」
「お、レニー!それとブレイブシャインの皆さん!今日から同行することになったザックです!よろしくお願いします!」
「おう、よろしくな!」
「協力頂けるようで感謝しますわ」
「ザック殿と申すのですね、始めましてシグレです。ブレイブシャインのパイロットで、ガアす……ヤタガラスのパイロットです」
「そこの見慣れない機兵は君のかあ。ザックだ、よろしくお願いします!」
そういやこいつら初めましてか。ともあれこれで顔合わせも済んだな。機兵という共通の話題もあるし、ザックもさほど気まずい思いをせずに済むことだろう。
「よし、出発するぞ!」
◆◇◆
出発してから2時間が経った。御者台にレニーを座らせ、ザックはスミレと共に席に収まっている。
馬車に乗り込むやいなや目をキラキラとさせ、うずうずとして居たのを見て「いつもの揺れが少ない!」という感想が来るのだろうと思っていたが、斜め上の……いや、非常にザックらしい質問でスミレを困らせていた。
「しかし、改めて凄いですよねこれ。まさか機兵が馬車になるなんて」
「ははは、俺は特別製だからな。驚いただろう。聞きたいことがあったらスミレに聞いてやってくれ。彼女も退屈が紛れるだろうし」
「ええ、馬車になるのも凄いですが……あの大きさが何故このサイズに収まるのか理解が追いつきませんよ……。人が乗る部分は背中に背負っていた部品が形を変えたのだろうと推測出来ます。となれば、馬部分。カイザーの機体サイズを考えると小さすぎるんですよね……一体どう言う仕組みなんですか?」
「そ、それは……確かに……改めて言われると不思議ですね。普通の馬より大きいとは言え、それでもカイザーの体を考えると……うーん」
まさかそこを突っ込まれるとは!
完全変形超合金は俺も買った傑作玩具だが、ロボから馬に変形させると明らかにデカすぎる馬になるのだ。そのため、バックパックがワゴンに変形するというアニメ再現をすると馬に対してワゴンが異様に小さくなってしまう。
なのでワゴン部分は別パーツとしてつけられていたわけだ。
アニメ特有の「都合良く可変するサイズ」により誤魔化されている部分故、馬鹿正直に技術的な解釈をしようとすると無理が出てしまう。
どれ、俺が助け船を出してやるとするか。
「ザック、昨日お前の屋台を収納して出してやっただろう」
「はい、あれは驚きました!」
「あれは俺のバックパックに収納したわけだが、バックパックは異空間、無限に物が入る特殊な場所と繋がっている。機兵から馬に姿を変える際、馬では使われない余分な部品は全てそこに格納されているんだ」
「成程……それでその分小さくなるわけですか……」
『私も知りませんでしたが、本当なんですか?カイザー』
『いや、俺も知らん。"神の力"で誤魔化されているとしか言えない仕様だからな。まともに答えるのは不可能だよ』
こそこそとスミレと内緒話をしている間にもザックはあれやこれやと質問を思いつき、リバウッドに着くまでスミレを困らせることとなった。
答えようがある普通の質問には嬉しそうに答えるスミレだったが、質問の殆どが「アニメだからね」で誤魔化されてしまっている「矛盾」をついた物だったからな……。
スミレには後でたっぷり埋め合わせをしてやらないと。
◆◇◆
既に商人達の間では噂になっているし、その商人達に捕まるのも面倒だったので街道はあまり遠慮せず速度を出して移動した。
無論、安全運転を心がけての移動だったが、それでも日暮れ前にはリバウッドに到着することが出来た。
通常、フロッガイからリバウッドまでは1泊か2泊の野営を挟む必要があるためその速度にザックはただただひたすらに感心していた。
無事に宿を取り、いつも通り一部屋に集まって会議をしながらの夕食……と言うところで俺の大仕事が待っていた。
今回部屋は2部屋取っている。ザック用のシングルと、乙女軍団用の大部屋だ。大部屋と言っても冒険者が存在するこの世界ではパーティー用の部屋という物が存在しているため、純粋に人数分の料金しか取られない。
今回はその乙女軍団の部屋が夕食会場となるわけだが……。
「はあ、気が重いなあ」
「ふふ……何時までも隠し通せませんよ。隠していたら食事を摂れませんからね」
「はあ……わかったよ……」
妖精体となった俺はスミレと共に窓からふわりと部屋に入る。
既に食事が運び込まれていて、後は俺達を待つのみという状況だった。
何時までも待たせるのは申し訳ない、意を決してみんなに声をかける。
「待たせたようで悪いね。では、食事をはじめようか」
「おせーよカイザー……あたい死んじゃうかと思った……」
「マシューは夕方おやつを食べてまだ入りますのね?」
「ほらほら、ザックも食べて食べて!」
「あ、ああ……なあレニー……スミレが……2機居ないか?」
「ん?お姉ちゃんが2人?ああ、あれね、カイザーさんだよ」
それを聞いたザックはフォークを落とし、こちらにゆっくりと視線を向ける。
「……そうだよ、カイザーだよ。スミレに食事を摂れる身体が欲しいと強請ったらこれを寄こされたんだよ……」
「あああ!そう言えばスミレもカイザーも食事を摂ってる!一体どういう仕組みなんですか!?」
「そっちかよ!」
ともあれ、女性体で有ることを色々言われることが無かったのは助かった。
しかしザックはほんとザックだなあ……。




