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第百九十一話 ザック三度

 国境の町フロッガイ。前回はゆっくりすることも出来なかったが、今回は一泊していくつもりだ。

 目的はザック。今回は彼をスカウトするためにこの街に立ち寄ったのだ。


 俺がザックと会っている間、パイロット達には買い出しがてら久々にゆっくりして貰う。


 そう、今回はパイロット抜き、俺とスミレだけでザックと会うのである。


「本当に大丈夫なんですかー?」


 フロッガイの小洒落た宿屋「ヤスカ亭」の裏手で心配そうにレニーが言う。

 俺以外のロボ軍団はお留守番と言うことで、先に宿を取って駐車場的なスペースに俺達を停めているところだ。


「まあ、問題あるまい。うっすらとではあるが、俺のことは噂になって広まっているし、もし間違えて騒ぎになってしまったとしても今ならきっとどうとでもなるだろう」


「むー。どうとでもなるんじゃなくて、騒ぎを起こさないで欲しいんですけどー」


「それをレニーに言われるとなんだかな……。まあ、何かあったら連絡するから気にせず行ってこい」


「連絡が来ないことを祈りますよ!じゃ、いってきまーす」


 何度も何度も振り返りながらレニーが去っていく。

 まあ、どうにかなるだろう。作戦なんて物は無いがね。


 コクピットにスミレを乗せ、一人通りを歩く。以前ならこんな事をしようとすら思わなかったのに我ながら不思議なもんだ。


 パイロット不在で人が多い街を歩いているこの状態は若干落ち着かないというか、微妙に後ろめたいというか。変な例えをすると下着を着けずに出かけてしまったかのような気分になるが、バレ無ければどうと言うことは無いのだ。


「おや、今も懲りずに同じ場所に居るようですよ」


 懲りずにって……前にザックとあった時少し面倒な思いをしたせいか若干辛辣だな。

 

 確かにいつもの場所でぼんやりと屋台を出している。あの様子ではあんまり儲かっていないのだろうな。


 屋台に近づくと、俺に気づいたのか表情を明るくしたザックが駆けよってくる。

 玩具を見つけた子犬のようで微笑ましい奴だ。


「レニー!またカイザーを見せに来てくれたんだね!今回はもっとじっくりと見せて欲しいな!」


 少年よ、そこは『また会いに来てくれたんだね!』ではないのかね。趣味も良いが、異性にも興味を持たないと手遅れになってしまうぞ。……どっかの誰かさんみたいにね……。


 っと、どうでも良いことを考えてしまった。


 さて、レニーが乗っていると思って必死に話しかけているようだが……。

 無視されていると思われるのも良くは無いな。


「よし、攫ってしまうか」

「さらりと凄い事をいいましたね」

「少しお話しをするだけさ」


 ザックに気を配りながらゆっくりとしゃがんでいく。コクピットの位置が下がっていくのを見ていたザックは、そこからレニーが出てくると思っているのだろう、やや離れた位置でその様子を見守っていた。


 ……いや、あれは「見守って居る」のではなくて「観察」だな。


 立て膝を付いたようなポーズを取り、ゆっくりとコクピットを開ける。


 ザックは「久しぶり-」だのなんだの呼びかけていたが、一向に返事がない様子に首をかしげている。

 暫く不思議そうに見ていたが、心配になったのかとうとうコクピットに近づいてきて中をのぞき込んだ。


「失礼しまーす……ってあれ?誰も……居ない?」


 すまんザック!


 悪いと思ったが、身体を少し傾け、ザックをコクピット内に"落とした”。


「うわあああ!なんだ?いきなり動いたぞ!?」


 ザックが完全にコクピットに収まったのを確認し、ハッチを閉める。

 さあ、ご挨拶だ。


「すまない、ザック。そしてこうして話すのは初めましてだな。俺はカイザー、知っての通りレニーの機兵であり、ブレイブシャインで司令官をやっている」


 何処から声がするのかキョロキョロと俺の姿を探している。


「現在、この声はコクピット内にだけ聞こえるようにしている。ザック、君は商人達の噂を聞いたことはないかい?ヒッグ・ギッガを倒し、各地で密かに活躍を続けているパーティーが所有している不思議な機兵、意思を持ち喋る白い機兵。それが俺、カイザーだ」


「……」


「カイザーだ」


『何で2回言ったんですか……聞いてるこちらが恥ずかしくなります……』


 スミレが俺にだけ聞こえる設定で突っ込みを入れてきた。やめろ!俺まで恥ずかしくなってきた。


 ザックが黙りっぱなしなので心配になってきたが、顔を見て其れが杞憂だと悟った。


「す、す、凄い!喋る機兵だなんて……!じゃ、じゃじゃじゃあ、前にあった時のことも覚えてるんですか?」


「ああ、覚えているとも。そして君が造った俺の人形、あれは素晴らしい物だった。細部が若干違うけれど、普通の人が見れば違いが分らないレベルだしな」


「うわあ!どうしよう、本人から褒められちゃったよ!うわあ!」


 喜んでくれるのはいいが、これじゃ話が進まんな……。取りあえず場所を移してゆっくり話せる状況を造るか。


 ザックは確か……屋台毎移動して商売をしているんだったな。ではこれは収納しておいて……。

 周囲に誰も居ないし、よし。


「ザック、前に俺をスケッチした所に行こうか。今日は君と話が合ってきたんだ。そこでじっくり俺の話を聞いて欲しい」


「そ、それはいい、いや、構いませんが、ちょっと店を畳んじまって良いですか?」


「ああ、それなら問題ない。既にまるごと俺が預かっている。後で家の前に置いてやろう」


「預かった?うわ!本当だ!俺の店がない!」


「後で仕組みは教えてやるが、安全な場所にまるごとしまってあるよ」


「すげええええ!っていうか、俺、今!カイザーのコクピットに乗ってるんだ……うわあ……どうしよう……すげえ……これが……。他の機兵のコクピットとは比べものにならないほど広いコクピット……いや、それどころか密閉されているのに外がくっきりと見える……どうなってるんだこれ……」


 だんだんと落ち着いてきたのか、コクピット内に居ると言うことを思いだしてあちこち分析を始めてしまったようだ。

 

 どうせこのまま移動するわけだし、暫くほっといてやろう。


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