第百九十話 久々の大陸
大陸へ向う途中、海上野営の際に肝心なことを思い出す。
「そういえば、ジンに連絡してなかったな……」
今回の作戦において要となるのは紅の洞窟。場所は勿論のこと、遺物に詳しいトレジャーハンター達は重要な人員となる。正直言ってあの会談に呼ばなかったのは失態だった。
事後承諾的な流れにしてしまったのは完全に俺の責任なので、何を言われてもこちらは謝る以外のことは出来ない、そんな事を考えつつジンに連絡を入れた。
「うおう!?おい、これどうやって使うんだっけー?」
「……俺しらねっすよー……」
なんだかガチャガチャと弄くり回す音と、遠く聞こえる声でどうやって使ったら良いか適当に弄くり回してる音が聞こえる……。
「おーいカイザーだろー!?聞こえてるかー!?……だめだこりゃ、聞こえてねえな!」
聞こえてるぞ!ダメなのはジンの方だ。アレだけ使い方を教えたというか、見るからに耳につけるものだとわかるだろうに。
それでも諦めずなんとか使い方に気づくまで通信は切らなかったのは助かった。
故障しているとでも思われたら帰るまで連絡が付かなくなりそうだしな。
「いやあ、悪い悪い。使い方を忘れちまってな……」
「いや、良いんだ。少々事が大きくなってしまってな。本来ならジンも含めて話し合いたかったんだが」
これまでの経緯を説明し、協力を仰ぐと逆に感謝されてしまった。
「いやあ、助かったぜカイザー!こんなクソ爺がそんなお偉方と肩並べて話し合うなんて無茶な話だぜ」
「そうは言うけどな……。勝手にトレジャーハンター達の協力を得ると言ってしまったんだぞ」
「あー、あーそれについてもありがてえ話だよ。なんたっておめえ、ほぼ無傷の1世代型を調査できるんだぞ?これまで見つかってる奴はどれもこれも損傷が激しいもんでよ、弾数が多かったのがヘビラドだったってのも仇になってマシなのは大体帝国のクソ野郎が接収しやがったからな」
「ああ……、通りで人型のはあまり見かけないし、軍が使っているのも形だけ真似た物が多かったわけだ」
「まあそういう事だな。しかも20機もあるんだろ?かー!腕が鳴るぜ!それでいつ帰ってくるんだ?」
「そうだな、途中将来有望な少年をスカウトしようと思うんだ。だから少しだけ遅くなると思う」
「将来有望だ?一体どんなやつだ!」
「精密な機兵の人形を作ってる奴なんだが、人形と言っても像のようなものではなくてな、きちんと各部位が稼働するんだよ。機兵をそのまま小さくした物を作って居ると言っても良い。そいつに俺達の身体を基にしたリーンバイル機の改修をさせてみようかなと思ってな」
「へえ。おめえさんがそこまで言うんだ、下手な玩具じゃすまねえ物を作れるんだろうな。そうか、そんな面白い奴が居るのか。よし、そいつは必ず連れてこい!俺達にとっても言い刺激になりそうだ!」
「ああ、それと俺やマシュー……いや、オルトロスの武器を作って貰った機兵技師も連れて行きたいんだがいいか?」
「それに関しても構わねえ!つうか、機兵に詳しい奴はどんどん連れてこい!俺達は遺物に詳しいだけで、機兵の修理はついでに覚えたようなもんさ。専門家がいるにこしたこたねえよ」
すんなりとジンとの話はまとまり、俺の懸念が一つ無くなった。
問題はザックとリックだな。彼らにはまだ何も言っていないと言うか、伝えようがない。それぞれ突然押しかけて無茶な事をお願いするわけだから断られても仕方が無い話だ。
かといって、彼ら以外に適任者を知らない、と言うかまだ行動を開始して1年も経っていないこちらの世界で人脈も何もないのだ。
多少無茶な礼をしてでも協力してくれるようお願いしないとな……。
◆◇◆
数日後、無事に大陸に帰り着き、補給で寄ったサウザンでアズベルトさんが俺達を迎えてくれた。
ミシェルの顔を見たかったのと、シグレときちんと話をしておきたかったとの事で、わざわざこちらまで出てきてくれたのだ。
現在アズベルトさんが出資している宿屋の大部屋を使ってちょっとした夕食会が開かれている。
それとなく事前に俺も小型化出来るようになったと伝えていたため、わざわざこの席を設けてくれたわけだが……。
「いやあ、久しぶりだねカイザー。何だか随分見違えたけど、どうしたんだいそれは」
「……姿のことは言うな。一つだけ言っておくが、俺の趣味ではないからね。スミレの趣味だから」
「そうかいそうかい。いやあ、その姿だと僕も君もなんだか話しやすくて良いね。より距離が縮まった気がするよ」
「うう……。実際この身体だと何故か口調が軽くなりがちなんだよね。だからなるべく長時間使わないようにしたいんだけど……」
そうは言っても、食事会だ。どうしてもこちらの身体を長時間使う羽目になってしまう。
口調を戻すの……地味に大変なんだよな……。
「シグレ君、かつての盟友、ルストニアの末裔として是非握手させてくれ」
「ぬ!?いや、あ!はい!こ、こちらこそ!リーンバイルの末裔としてルストニアの方と握手出来るのは光栄でござるよ!?」
シグレが何だか良く分からないテンパりかたをしている。ルストニアの姫様と日がなじゃれ合ってるくせに何を今更……と思うのは俺がアズベルトさんに慣れきっているからだな。
シグレにしてみれば形を変えては居るが、今もなお国家の代表として活動している人間を相手にしているわけだ。姫と言うより道場の娘と言った扱いが染みついているシグレはどうしても緊張してしまうのだろうな。
「さて、僕はもう行くけど洞窟にはちゃんと資材を届けさせるから安心してね」
「悪いね、アズベルト。こちらも出来る事はやろうと思うけど、どうしても全部には手が回りきらなくてね」
「いいんだよ。適材適所ってやつさ。それに君達は紅魔石を再現するという大仕事があるんだ。何もかも頼り切りになるわけには行かないよ」
「そうだね。取りあえずそれは洞窟に行ってからになるけど……レインズさんへの許可申請……根回し頼むよ」
「ははは、レイならそんな事しなくても許可なんて直ぐ出してくれるさ。寧ろ洞窟についたら許可が出ているまであるよ」
「違いない」
「じゃ、後はほんと任せたよ-」と、軽い挨拶と共にアズベルトは去って行った。
……いつの間にかめちゃため口になってたけどまあいいか。
明日は来た時同様森経由で空に上がり一気にフロッガイを目指したい。
ザックをどうにかしてスカウトしなければいけないが、こちらには秘策がある。
待ってろよザック、新たな世界に招待してやるからな。




