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第百八十六話 大戦の火種

 ここに来て黒龍。ファンタジー世界からかけ離れた世界にしてしまったと思っていたが、今度はそのファンタジー世界が向こうからやってきた、そんな気分になった。


「大陸の山が火を噴いてから数日後、ご先祖様のもとに巫女だと名乗る者が現れたのだと伝えられてるでござる。その伝承によると、『悪しき者の種が燃ゆる山より放たれた。子孫を想う気持ちがあるのならばルストニアとの関係を強固な物とし、長きに渡ってルストニアを護って欲しい』と言い残し巫女は消えたとご先祖様は残しているでござる」


「ルストニアとリーンバイルはかつて同盟を結び、共に戦火をくぐり抜けたと聞いていますが、成程……それも巫女の神託によるものだったのですか」


「ええ、そして後年迎えた大戦後、神託がまた下ったでござる。『悪しき芽を摘む土台は出来た。白き神機再来の日まで島を護り抜きなさい』そしてルストニア王家は森へ、我々は島へとそれぞれ姿を隠すことに」


「リーンバイルの鎖国……、それは自衛のため……、巫女からの神託による物だったのですね」


「そして今年になって拙者のもとに神託が降りたのでござるよ。正直な所、神託など争いから島を護るため先祖が作った掟のようなものだと想っていたのでござるが……カイザー殿やレニー殿の様な髪の色をした巫女が拙者の枕元に立ったのでござる」


「誰かの悪戯だとは想わなかったのですか?」


「悪戯というか、くせ者だと想ったでござる。所が隙を見て捕らえようとしても手がすり抜ける。拙者その場で平服でござるよ……」


 イカツイ顔をしてるが中々愉快な御仁だ。


「そして巫女は言ったのでござる。『悪しき子供は間もなく孵る。白き機神の再来、それは悪しき子供の目覚めの刻。帝国を見張りなさい。悪しき子供、黒龍は卵に揺られて眠っています。やがて訪れる白き機神と共に黒龍を滅しなさい。さもなくば世界は……』と、良いところで神託が終わりましてな……」


「それでシグレを帝国に送り込み見張らせていた、というわけですか」


「然り。元々あの国はキナ臭かったので何人か送り込んでいましてな。基盤は出来ていたため潜り込ませるのにはさほど苦労はしませんでしたが、しかし黒龍の卵とやらは未だ見つからず……しかし」


「連中が怪しげな玩具で遊んでいるのは突き止められた、そういうわけですな?」


「うむ、シグレの報告によると、カイザー殿の武器と動物が反応して魔獣に、既存の魔獣は稀に亜種に変化するとの事ですな。つまり、龍とやらが本当に居るとすればカイザー殿の武器と反応して……」


「……とんでもないことになるぞ……」


「龍というのは所謂ドラゴンですね、カイザー」


「ああ、その通りだ」


「私のデータベースには空想上のデータしか有りませんが、こちらの世界の其れが空想上の其れと同等であれば、恐ろしく強大な敵となりそうです」


「そうだな。ドラゴン型のロボットなんて考えたくもないよ……確実に不味い案件だ」


 話が終わったのか、ゲンリュウ氏は酒をぐいっと飲み干すと、こちらをじっと見つめてきた。


「白き機神……巫女は機兵の神だと言っていたでござる。拙者の目の前に居るのはどう見ても可愛らしいお嬢さんでござるが、見せて頂いたアレによると真なるカイザー殿は白き機兵なのでござろう?」


「……そうですな。合体すると色は混じりますが、俺単体だと確かに真っ白です」


「カイザー殿がルストニアにもたらした聖典により世界に機兵文明が生まれたとおっしゃっていましたな。つまりはカイザー殿こそ機兵の神なる存在、機神なのではござらぬか?」


「……神かどうかはわかりません。神託の巫女が言うのが俺のことなのかも分りません。しかし、帝国が持っている物が危険である以上、俺達は立ち向かわなければいけないでしょう」


「黒騎士に貸してる武器も返して貰わねえといけねーしな!」


「ルストニア家は貸した物は必ず返して貰うようにしていますの」


「……カイザーさん。神託は事実だと……思う。私、やるよ……!」


「父上!私もガア助と共に!」


 静かに聞いていたパイロット達が居ても経っても居られなくなったのか立ち上がり拳を握る。

 なんだこの熱い連中は……泣けてくるぜ。


「……神託によれば直ぐに孵るというわけではないようでござる。良いか、カイザー殿。これは依頼ではなく戦にござる。戦は一人では出来ぬ物だ」


「確かに……。敵は個人ではなく、帝国という国だ……。俺達だけではとてもじゃないが難しい話ですね」


「であれば、こちらも軍を持てば良いのです。リーンバイルにもかつての機兵が残っているでござる。時が来たら是非軍勢に入れて欲しいでござる」


 軍勢……か……。黒騎士と戦って分ったことはそこらの機兵では帝国機に太刀打ちできないと言うこと。しかし、黒騎士は3機合体とはいえ、俺達と同等に戦って見せた。こちらの世界の技術だけで、俺達に迫る物を作ることが出来る、敵が出来るなら……、聖典の原典、聖典以上のデータを持つ俺やスミレが居るのであればこちらにも同じ事が出来るのでは無いか。


「聖典の原典とも言える物を俺は持っています。それを使えばリーンバイルの機兵も今以上に強力な物に出来ることでしょう」


「おお、それは有りがたいな。では、刻が来たら我らと共に戦場に立って下さると言うことですな」


「ですが、敵の規模を考えれば少々心許ないのも事実です。ゲンリュウ殿、神託の巫女が言っていた期日は何時なのでしょう」


「期日……と言って良いのかは分りませぬが、今からだとおよそ1年後ですな。日が近くなれば天に影響を及ぼし暗くなると申してました」


「……時間はあまりないが……しかし、やれることは多そうだ。ゲンリュウ殿、これは我々の手だけでは余る。俺の親しい人達、トリバやルナーサのお偉方や機兵の改装に詳しい人にも話したいのだが、許可をいただけるだろうか」


「つまりは各国の軍を動かすという事ですか……古の大戦が再び起こる……それが巫女の望む事なのかは分りませぬが、なんにせよ、報告を上げて協力を得た方がいいのでしょうなあ」


「大戦を起こすのは俺の本意ではありませんが……、覚悟はして置いた方が良いでしょうね……」



 機神が破滅から救う、か。その破滅の元凶を生み出す者こそ俺ではないか。

 これでは神どころか邪神だよ……。


 大戦はなるべく起こしたくない。でも、流石にこの件は俺達だけでは手に余る。

 まずは国を動かす人達に相談だな……。

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