第百八十五話 リーンバイルの秘密
リーンバイルに伝わる伝承、それはどうやら少なからず俺に関係する話のようだ。
「我々を見て頂ければ分るとおり、大陸の人達とは若干見た目が異なるでござる。黒き髪に暗き瞳。獣人族の様に明らかな違いではござらんが、ミシェル殿やレニー殿と比べれば一目瞭然」
そういやこの島に来て一度も明るい髪の人を見てないな。俺的に自然すぎて気づかなかったが、言われてみれば確かに黒髪の人ばかりだった。
「しかし、伝承によれば有る時から産まれる子供全てがこの様な見た目になったのだと言います」
「それは……何かの呪いとか、魔術だとか騒ぎになったのではありませんか?」
「いえ、それどころか神の祝福を得たのだと先祖達は喜んだのだと言います」
「神の祝福……?」
神という存在を疑う所か知り合いであるため、この手の話は疑わず『またあの神か』と信じられるのだが、黒髪と言えばこの手の世界で忌まれる存在であることが多い。何故、その黒髪が神の祝福に繋がるのか。その繋がりを考えて首をかしげていたが、どうやら疑っていると取られてしまったようだ。
「大陸に伝わる聖典という物がありますな」
「え、ええ。とは言え実はその聖典は約5800年ほど前に俺から持ち出された俺の所有物なんですけどね…………」
「な、なんと……その話は後で詳しく伺いたいが、リーンバイルにも『聖典』と呼ばれる物があるのです」
「ほほう」
「カイザー殿が知っている聖典とは機兵の技術が余すところなく書かれた技術書でござろう?」
「そうですね。そもそもあれは俺の操作や保守の方法について纏められた説明書なので……」
「……なんと……いやいや、今はこちらの話でござるな。我々の聖典はその様な物では無く、数冊の絵物語でござるよ。タマキ、アレを」
「はい」
タマキさんが脇に置いてあった箱から数冊の本を取り出し、テーブルに置いた。
「どうぞ、中を見て下され。少々変わった様式の本ですが、読み方が分れば中々……。これほど面白く読める聖典は他には無かろうと思うでござる」
表紙は後から補強されたようで、元々どんな表紙だったのか分らない。まずは開いてみるか……
「なっ……」
「はっはっは、驚きましたか」
驚くも何もこれは……漫画じゃ無いか……。
俺はあまり読んだことが無いが、年季が入った食堂に置かれてるような時代劇の漫画だ。
文字は何故かこちらの物に書き換えられているが、これは明らかに日本のものだ。
この太ももが眩しいくノ一が出てくる漫画は読んだことがあるからな。
しかし、ここまで来ると分け合ってあの愉快な神様が何か狙いをもってこの地を日本化したのだろうけど、その理由が全く分らないな……。日本にハマっただけという理由だったら流石に怒るぞ。
「これは俺達が元いた世界に存在した本です……。他にもこの国で食べられている米や味噌、醤油等も我々の国、「日本」ではなじみ深い食材で、貴方方が「リーンソード」と呼ぶ物は、刀と呼ばれる我が国特有の武器として存在しています」
「むう……?それは誠でござるか」
「ええ、かつての日本、我々の先祖が生きた時代によく似ているのですよリーンバイルは。そして我々はシグレのような存在を「忍者」と呼んでいました。忍ぶ物と書いて忍者。その名の通り、諜報活動を主に請け負う存在で、暗殺等も請け負っていた……いや、俺もあまり詳しくは知りませんので何処まで真実かはわかりませんがね」
何となく、本当に何となく日本ネタトークのつもりで話した忍者ネタだったが、それは核心を突いていたらしい。この話題から急激に話は核心に迫っていった。
「うぬ……成程……。そこまで知っているのであればお気づきかも知れませんが、現在の当家はアサシンギルドの元締めをやっているのです。本来は多数の者がここに住んでいるのですが、職業が職業ですからな。秘密を共有しようとして下さるカイザー殿達であっても顔を見せることは出来ぬのですよ」
「成程、正に忍者ですな……。それは当たり前の話ですし、顔を知ってしまえば俺や他のメンバーが街でうっかり声をかける、と言う事もありましょうから、謝ることではありませんよ」
「さて、見ての通り今の我々はあまり日が当たるところに居られない存在。しかし、カイザー殿、お主はシグレと共に旅をしたいと申すのですな?」
「はい。今回こちらまで来たのはご挨拶とそのお願いをするためでした。シグレから旅の許可を貰うためには貴方の信頼を得てシグレの仕事について聞かなければいけないと言われていました。言うなればリーンバイルが抱える秘密を共有する信頼を掲げ共にそれを抱える覚悟をする必要があると思っています。」
「……では、相応の覚悟を持つと判断し、我々の目的……、世の人がまだ知らぬ話をしましょう。
我々が代々、影となる修行に明け暮れ、その技をもってアサシンギルドをやっている理由は有る物の監視、巫女の神託を受けた先祖から代々伝わる責務のためなのです」
ここでも出てきたか、謎の巫女よ。リーンバイルを日本に染めたあたりから犯人は神様じゃ無いかと思っているのだけど、あの神様巫女という感じでは無かったような気がする……。
「シグレをガア助と共に大陸に送り出したのは帝国に仕えさせるためではありません。帝国の動向を探る……いや、現在帝国が所持しているとある物の監視がその理由です」
俗に言う二重スパイと言う奴かな?ガア助を使った諜報活動は他に真似を出来るものは中々居ないだろう。となれば帝国からも警戒をされそうなものだが……。
「何を考えているかわかりますぞ。確かに、連中の目を盗み監視を続けるのは骨が折れる事でした。しかし、何人もの同胞を潜り込ませています故、断片的ではありますが、情報は集まり一つの結論にたどり着きました」
「そうまでして探る物……それは一体……」
「巫女より託されたのは災厄の芽の監視……、黒龍の卵です……」




