第十七話 物資輸送
タンククローラーを解体し、新たな素材を手に入れたところで気づいてしまう。
森を出てギルドに向かうに当たって一つ問題があったのだ。
それは今まで集めた素材達である。「カイザー、これはいつか使えると思うのでとっておきましょう」なんてスミレが確保したパーツに、俺が確保したパーツ、それ以外のパーツだって売ればそれなりに金になる。
金は俺がジャンクパーツを買う資金にするほか、人間であるレニーの生活費も必要だし金はいくらあっても足りない。なるべく多くの素材を持って行きたいのだが……。
この手の異世界にありがちなアイテムボックスでも存在すればレニー任せでなんとかなったろうが、残念ながら聞く限りでは存在しないようだった。
うっすらと背中に感じる寂しさから、なにかそういう運搬用の装備があったのかもしれないとぼんやり考えたが、例の如く頭痛の野郎に襲われて思い出すことが出来ない。
悩んでいてもしょうが無いので木を加工して収納箱を作り担いでいくことにした。
俺が板を作り、レニーがボルトを打ち込んでいく。
板を加工する俺を見てスミレが「カイザーがそんな作業を…」と、ブチブチ言っていたが、なんだか作中にそういうシーンもあったような気がするし、他のロボアニメでも物干し台にされたり、風呂を沸かす道具にされたりと、生活臭半端ない使われ方してるのを見た覚えがある。
まあ、気にしたら負けってこった。
車輪パーツでもあれば馬車を作って引いて行けたのにな、と残念に思うが、予定通りメイン形態で肩に担いで歩くことにする。
「よっこいせーっと。いやあ、結構集めましたねえ!こりゃジャンク屋のおっちゃんもたまげるぞう」
『丁寧に運びなさいね、落としたり転んだりしないように』
なかなかの重量があるため、ズシンズシンと地響きを立てながら森を歩く。たまにフラりと身体が傾きヒヤヒヤするが、レニーは特に焦りもせず、ニコニコと操縦していて、嫌な汗をかいているのは俺とスミレだけのようだ。
そんな思いをするくらいなら俺の自立機動で運べば良かったのに、とスミレは言うが、こういう特殊な操作も立派な訓練になる。
繊細な制御から学ぶ事は沢山あり、これはぴったりの訓練似なると思いレニーに任せることにしたのだ。大分マシになったとは言えまだまだレニーの操縦はアラが目立つからな。それに俺もレニーのクセを吸収し、レニーの行動と俺の思考との誤差を減らす努力をしなければいけない。
なのでこう言う日常的な部分でもなるべくレニーに操縦させることにしている。
そもそも元人間である俺としては、ロボとなり人に操縦されるのはなんというか最初はとても変な感じだった。
最初が最初だっただけになおさらだ。お約束とは言え、いきなり実戦からはじまったものなあ……。
攻撃が来る!よし!足捌きで交わそう、そう頭では思っているのに身体は勝手に上空へ跳躍。落ちるぞ!ならばその勢いを利用してブレストウルフに蹴りを叩き込む!……と、思えば姿勢制御もせずに地面へ落下。
例えば、道を歩いていて何かに躓いたとしよう。普通はその時何らかの反応をし、転ばないよう努力したり、転んでしまっても身体をかばう動作をするはずだ。だが、頭でそれをしたいと思っているのに、躓いた姿勢のまま身体は動かず顔から地面と口づけだ、恐ろしいってレベルの話じゃあ無い。
だがそれもここ一ヶ月の特訓でかなり改善された。
レニーには輝力出力の調整を徹底してやった。当初のレニーは常に最大出力で輝力を注ぎ込んでいたため、攻撃だけでは無く回避行動まで大げさな動きになってしまっていた。これでは軽くステップをしたつもりが壁目がけてタックルするような具合になってしまう。
また、常時最大出力では10分も持たずに輝力を使い果たしてしまう。格下の群れであれば兎も角、格上の群れや、格下でも大規模な群れ相手となると戦っているうちに息切れを起こして気絶、そのまま蹂躙となってしまうだろう。
なので輝力の調整は肝心要であり、丁寧に扱わざる得ない荷物運搬も立派な訓練になると踏んだのだ。
さらに効果的な訓練もあったのだが、
「なあ、俺サイズの箸をつくってさ、右から左へ石をつまんで移動させていく練習をしてはどうだろう」
と、スミレに持ちかけてみたら凄い勢いで反対されてしまった。絵的にシュールすぎるからダメだ!ということだが、ロボアニメでたまにあるシュール回、好きなんだけどなあ……。
まだまだ荒削りとは言え、レニーには何か才能を感じる。
本来のカイザーはハンドガンを用いた射撃とソードを使った斬撃が主力の攻撃方法なのだが、どうもレニーは格闘術を使いたがる。ならばそれはそれで伸ばしてやってもいいのかもしれないな。
この短い期間で必殺技を二つも編み出して居るし、やはりレニーは侮れない娘だ。
「うおおっとおお!!!きゃあああ!!!」
「うおおおおい!レニー????ぐあっ」
『レ、レニー!?ああっ……左足被弾、損傷無し。敵機補足、地面より露出した岩の先端部と判明、しかし当機体の転倒により運搬物散乱。パイロット緊急射出の許可を、カイザー』
「いってててて…ごめんなさい,お姉ちゃん、カイザー…転んじゃったあ……」
……もう2週間ほどキャンプ場に居た方が良かったかもしれないな……。




