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第百八十一話 報告

 リーンバイルは長い間に渡って他国との接触を避けるようにしていたため、宿屋と呼べるものはそこそこの規模を持つミヤコであっても1件しか無いらしい。


 その宿もまた、島内に数箇所有るという村からやってくる行商人等が使うくらいなのであまり大きなものではないが、有るだけ有り難い。


 シズルの案内で宿にチェックインしたところでシズル・シグレ兄妹と一時お別れだ。

 シグレ兄妹とガア助は先に屋敷に戻り、旅の報告と俺達のアポを取ってくれるらしい。


 その間は好きに街を見ていてくれということなので、あとの連絡はインカムですることにして俺達は街に向かった。


 なんだかんだ言いたいことはたくさんあるが、やはりこの妖精体(からだ)は便利だ。この島には殆ど機兵が存在しない、というか民間人が乗ることが無いらしく、街もまたそれに合わせた作りになっているためあの体で歩き回るのは迷惑がかかることだろう。


 従っていつものように宿で待機……となる所をこの身体のおかげで同行することが出来ている。

 それはオルやろーちゃんも同じようで、それぞれのパイロットに抱っこされ嬉しそうにあれやこれや話しかけている。


 ……視線が痛い。レニーがじっと俺を見ている。


「……馬にはならないぞ……」


「えーーー、私だけ人形を二つ肩に乗せた変な子みたいじゃないですか!せめてカイザーさんが馬になってくれればあまり目立たないのに!」


 そうは言われても譲れないものは譲れないのだ……と、さっそく良さそうな店が見えてきた。


「まあまあ、レニー。あの屋台が見えるか?あそこで売っている変わった串焼き、アレは恐らく凄まじく美味いぞ」


 店の親父がパタパタとうちわで炭を扇いでいる。それにより甘辛い香りが辺りに漂い乙女軍団の腹をグウと鳴かせる。


「う……確かにあれは当たりの香り……」


 フラフラと屋台に吸い込まれる乙女軍団。売っているのは恐らくウナギ……の様な魚の蒲焼だろう。もちろん、俺達ロボ軍団の分も1串買ってもらう。


 屋台から少し離れた場所に座れる場所があったので腰掛けてさっそくいただく。


「美味い……な……」


「うわあ、ふわっとしてとろっとしておいひい……」


『ねえカイザー、これってウナギ?ウナギよね?ウナギとしか思えないんだけど』


「ろーちゃん、お前よくウナギっぽいってわかったな。あの体じゃ食ったことがあるというわけでもあるまいに」


『ほら、パイロットとの共感覚ってやつよ。雫が好物だってよく食べていたからね……』


『美味しいねーこれ。ケンちゃんはあまりお金が無かったから駄菓子の奴を食ってたなー』


 ううっ……謙一……可哀想な子……。

 しかし俺が知らない設定が出てきたぞ。共感覚?俺の死後明らかになった設定なのだろうか。

 なんにせよ、彼らと故郷の懐かしい味という共通の認識が出来たのは嬉しい誤算だ。


「スミレ、ありがとうな」


「なんですか突然。思い当たる事が多すぎて何に感謝されているのかわかりませんけどね」


「ふふ、全部だよ、全部」


◆◇シグレ◇◆


 父上……頭領と会うのはいつ以来だろうか。私が命を受け帝国に潜り込んだのはもう2年も前か。

 同胞が立ち上げていたアサシンギルドの一員として帝国の依頼を受け、その傍ら帝国の情報を集める日々。


 帝国が企む怪しげな何か、その最期の欠片を埋めてくれたのはレニー達の活躍が大きい。

 当初は敵……いや、要注意監視対象として出会ったレニー。しかし彼女達の働きによって私の仕事は思いがけず早く終わることとなった。


 レニーは、ブレイブシャインの皆は掛け替えのない友であり仲間だ。

 私が握っている帝国の陰謀、それを父上に話せば事は大きく動き出すことだろう。


 ……すまない皆、面倒に巻き込んでしまうかも知れません……。


「頭領、シグレです。ただいま戻りました」


 久々に見る頭領の部屋、その戸の前に立ち声を掛けると間もなく懐かしい声が聞こえた。


「うむ、入りなさい」


 戸を開け中に入ると、多少白髪が増えたが変わらず力強い表情をした父上、頭領のゲンリュウがこちらをギロリと睨んでいた。


「受けた命、確かに達成致しました。こちらがその報告書です」


 懐から出した紙束を頭領に手渡すと、1枚1枚じっくりと丁寧に目を通している。特に感情を変えること無く、声も出さぬので不安になるが、これこそが父上。読み終わるまで褒められるか叱られるかわからぬため昔からこの瞬間は心臓がいくつ遭っても足りぬと感じる。


 そして一通り読み終わったのか、紙束を机に置き、こちらに向き直った。


「うむ、シグレよ。大儀であった。して、お主はこの件どう動けば良いと思う?」


「はい、奴らの動き、それは大陸は元よりこの島も巻き込むと予想されます。しかし、我らにはあれに抗う力はない」


「うむ……。かつての大戦以後、我らに残された機兵は僅か。そしてそれらも本来の力を失って久しい」


「はい、そこで私は大陸で得た仲間と共にそれに挑もうと思います……いえ、彼女達にはまだこの事は話しては居ませぬが……」


「書に書いてあった者たちか。お主は彼女達をどう見る?」


「彼女達はまだ未熟。しかし、秘めた力はかなりのものです。そして私が心より友と慕えるほど何者にも流されず、真っ直ぐな心を持っていると思います」


 ここまで聞いた父上の表情が一際厳しいものに変わる。


「……シグレ、これは頭領ではなく父として問う。お主は友を戦いに巻き込むことを善しとするか?」


「いえ、それは本意ではありません。しかし、私一人黙って彼女達から離れ挑むと後から知ればきっと悲しませてしまう事となりましょう」


「ならば、お主はどうしたい」


「はい、許されるのであれば、彼女達にも話を聞いてもらい、そして協力してもらえるというのであれば共に技を磨き、来るべき時に備えたく思います」


 私を押し付けるかのような圧が弱まったのを感じる。同時に父上の表情がスッと柔らかなものに変わった。


「成程な、シグレも良い友を得たのだな。よし、まずは彼女達と一席設けて……いや、カイザーなる彼女達を統べる不思議な機兵が居るということだな、であれば演習場で……」


「いえ、それには及びません。今のカイザー殿は少々特別な身体を使っていますので、屋敷内に呼ぶことも可能でしょう。それで、出来れば少量で構いませんので追加で4人分料理を用意していただければと思います」


「良くわからぬが、シグレがそういうのであれば用意させよう。では、夕刻ここに彼らを案内するように」


「はい、わかりましたそのように」



 ……はあ、緊張した。普段の父上は優しいけど、頭領であれば別ですからね……。

 ともあれ、まずはなんとかなったと言うべきか。


 ブレイブシャインの皆に迷惑をかけてしまう事になるかも知れないけれど……いやいや、今はうじうじしてる場合ではござらんな。


「カイザー殿でござるか……あ!えっと、カイザー殿ですか?ええ、頭領が会うそうです。夕刻に迎えに上がりますので、宿で待っていて下さい。それで、一席設けるようなので、宿の食事は断って置いてもらえると……ええ?屋台で沢山食べている……?えっと、お腹をすかせておいてくださいますよう……はい、はい、わかりました。ではまた夕刻に」


 はあ、さすがブレイブシャインですね。真っ先に屋台制覇にかかるとは……。

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