第百七十五話 新たなる身体
スミレが取り出した新たな義体はスミレの色違いと言えるものだった。
レニーのような白銀の髪、赤い瞳にゆったりとした白いローブ。背中には2対の翅がついている。
「なるほど、この身体であれば確かに俺の望みが叶えられるというわけか」
では、早速と新たな義体にAIを移し、手や足、首に腰などを動かし動作チェックをする。
特に問題なく動作するようなので、今度は発声テストだ。
「あーあー、わっ、中々に可愛らしい声だな……そりゃそうか。この身体でカイザー役の渋いイケボ声優声なんか出しちゃったら気持ちが悪いもんな……」
ブツブツと言いながらあちこち作動チェックをしていると不思議そうな顔をしたスミレが近づいてきた。
ううむ、サイズ差が無いと普通の女の子にしか見えんなこりゃ。これまた久々の感覚だわ。
「どうしたんだい?そんな不思議な顔をして。どこかおかしな所でもあったかのかい?」
「い……いえ、その……、その身体……女性型なんですよ?あの……何かもっとこう……、変化による違和感とかそういうのは無いのですか?」
「そうは言われてもな……。メインの身体は男性型と言えるが、人型とはいえこの身体ほど人間に近いわけじゃ無いだろう?寧ろ今の身体は元の身体に近いわけだから、違和感はそこまで無いというか、寧ろしっくりくるというか……」
「ううん……そういう事を言ってるわけじゃ無いんですが……いや……カイザー、貴方……」
そう言えばカイザーは男性型なのに、何故この身体を女性型にしたのだろう?別に男性型でも構わないというか、すっかり慣れてしまったこの口調だと女性型は逆に周りから変に見える気がするのだが……。
「なあ、スミレ。なんで俺の身体を女性型にしたんだ?」
何か言おうとしていたスミレだったが、俺の質問を聞いてそれを引っ込めてしまった。
そして一瞬困ったような顔をしていたが、少し考える顔をした後理由を話してくれた。
「女性だけのパーティですからね。共に行動する際、貴方も女性型の方が彼女たちもやりやすいと思ったのですよ」
「へえ、成程なあ。流石スミレ、そこまで考えているとは」
素直に感心したので褒めてやると、何か諦めた顔でため息を一つついて追加の理由を話し始めた。
「……と言うのは実は建前で……。いえ、女の子ばかりのパーティだからだというのは同じなのですが、男性の身体になるとその……サイズ感はあれど所謂ハーレムパーティになるじゃないですか……」
「は、ハーレム?」
「レニーは師弟愛のようなものですから兎も角、マシューやシグレは少し怪しいところがあります。特にミシェル。彼女は母親の推しもあって下手に人間に近い男性体を見せてしまえばコロリと行く可能性大!」
「ちょ、ちょっと待ってくれスミレ!あいつらが俺のことをそんな目で見ているとでも?」
「ですから、見る可能性が高いと言う話ですよ。女性ばかりの職場にイケメン上司が配属されたらどうなりますか?王子化するのは目に見えてますよ」
「……いやあどうかな……表向けはそうでも裏では結構……顔だけじゃないしさ……って、いやいや、そうじゃなくて。そんな事を考えていた訳か……」
まったく。結局の所またスミレの打算的な暴走が原因だったというわけか。何処まで人に近づけたとしても俺の身体は生身では無く機械であるわけだし、妙な間違いなど起こるわけは無いのだが。
ミシェル母が言っている事だってあれはある種の暴走みたいなもので、ミシェル本人にはそう言う性癖など有るわけも無し。そもそも俺が彼女たちにそう言った興味を抱くわけはないのだから、結局の所スミレの取り越し苦労というわけだ。
まだ何か言いたそうにして居たスミレだったが、この身体になんの文句はないばかりか、寧ろ非常に感謝をしていると素直に伝えると急に表情を明るくして元気よく俺の手を引っ張った。
「ではカイザー!行きましょう!今日のドッキリは二段構えです!」
スミレと相談して、最初は俺が登場することになった。
ふよふよと普段のスミレを意識して乙女軍団の所へ移動すると、彼女たちは配膳を終えスミレがくるのを待っていたようで俺に声をかけてきた。
「あ!お姉ちゃんやっときた!ほらほら、ご飯のしたくができましたよ……ってあれ?お姉ちゃん?」
「スミレ?なんかちょっと変わったかお前?ああ、わかった服が違うんだ!着替えあったんだな!」
「服どころか……、レニー殿の様な髪の色になってますし……顔も違うような……」
「……スミレさん……ではありませんわね?では……まさか……本物の妖精様……?」
レニーとマシューは少し残念な子だが、シグレとミシェルは鋭いな。直ぐに普段のスミレと違うものだと気づいたようだ。
そしてこのタイミングで彼女たちの後ろからスミレが現れる。
「どうかしましたか皆さん。あら、ご飯が出来てますね。お待たせしちゃってすいません」
スミレの声を聞いて後ろを振り向き、俺とスミレを交互に見るレニーとマシュー。
「あれ……お姉ちゃんが二人……あれ?」
「おいおい、スミレ……お前増えたのか……?」
「だからスミレさんではなく陽性さまでは無いかと言ってますでしょう?」
「うむ、やはりスミレ殿とは別の者か。お主、何者ですか?」
その言葉を待っていた。俺は自信満々に胸を張ってそれに答えてやった。
「俺が何者かだって?忘れたのか俺の姿を!俺はカイザー、お前達の司令官だ!」
可愛らしい声で放たれた俺のセリフに固まる乙女軍団。
後日スミレから「あの時のカイザー、今まで見た中で一番のドヤ顔でしたよ」と言われてしまった……。




