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第百六十九話 輝力の導き

 穀倉地帯を眼下に納めフロッガイを目指している。

 麦のような穀物が黄金色に輝き風に揺れている。


「わあ、オグニムギが綺麗ですねえ」

「知っているのかレニー」


「勿論!オグニムギはオグーニの特産物で、ふっくらとして甘みがあるパンの原料になるんです。その代わり、年に一度秋にしか収穫が出来ないんですよー」


 そうか、もう秋か。


 言われてみれば朝晩の気温がここの所低下していた。

 この身体になると外気温などただのデータにしか過ぎないため、暑さ寒さという情緒には縁が無く気づかなかった。


 寒くなる前に一段落つけて春まで面倒無く過したいものだな。



 やがて広大な穀倉地帯も終わりを迎え、原野や林に切り替わる。

 時折村や街の残骸のような場所が確認できた。大戦前はもっと村や街があったのだろうと思うとその時代に、真に剣と魔法のファンタジーだった時代に見て回れなかったことが残念に思えた。


 後でウロボロスから色々話を聞いてみるのも良いだろうな。


「お、あれフロッガイじゃないか?」

「ですわね、こうして空から観るとまた格別ですわ」


 っと、そろそろ着陸しないと不味いな。


 フロッガイからやや離れた場所に着陸をする。

 流石にフロッガイともなれば多くの人間がひっきりなしにやってくる。


「シグレ、ここはケチらず光学迷彩を使おう」


「はい、リーン忍術 清澄!」


 シグレが謎のかけ声と共に輝力を込める。

 

 俺達の操作や制御にはイメージ力が大きく関わってくる。

 操縦桿と便宜上呼んでいるが、バランスボールの頭だけ出ているような球状の物に手を置いて動作をイメージすることによりパイロットと俺達は一体化し、戦う事が出来る。


 そして何か機能を使おうとする時はそれは同様で、光学迷彩……透明化をする際にもそれは必要なことだ。


 にしても忍術て。この世界に元々あったものなのか?

 まさか神様……俺の記憶から悪戯で……。


 まさかね。


 谷間に降り、透明化を解除して分離する。

 

 それぞれ機体毎背伸びをしているが、何も意味は無い。


「気分的なもんだよ!気分的なさ!」


 ある意味機体と同調出来ていると言えるのかも知れないが、面白い事をする連中だな。


 ……俺もパイロットだったらやってたかもしれないけれど。


 谷から出て街道に向うと商人達がびっくりした顔でこちらを見ていた。

 手を振りながら近づいて友好度アピールをする。あんな場所から出てくるなんて怪しすぎるからな。


「たまげたなあ……なんだってあんた達あんな街道を外れたところから……?」


 ミシェルがハッチを開け、対人攻撃を放つ。


「……私達パーティーは女性だけのパーティーですの。街道から離れた場所から現れる、女性の口から言わせるつもりですか?」


 これを言われた男はたまったもんじゃない。

 勝手にあれやこれや想像をしてしまい、気まずそうな顔になる。


「あ、ああ……!そりゃすまない、いやその、すまん、悪いことを聞いてしまった!」


「商人たる者、相手が何者かわかるまで余計な事を口走らない、肝に銘じておくことですわね」


 ちょっとした好奇心から振ったつもりの世間話でお説教をされてしまった。

 そんな商人を思うと気の毒に感じるが、この場合しょうが無いことなんだ……すまんな商人。


 間もなくフロッガイに到着したが、今回はそのままフラウフィールドに抜けルナーサ入りを果たした。

 

 ザックの顔を見たり休憩を取ったりしたかったが、イーヘイでたっぷり補給をしてしまったのでだったらさっさと先を目指そうということになったのだ。


 それぞれがやや後ろ髪を引かれる思いでフラウフィールドを後にした。


「はー、甘い物を買い足しておくべきだったあ」


「ったく、レニーは好きな食べ物もツメもあめえなあ。あたいはしっかりイーヘイで……ああ、肉の在庫が……」


「ならば甘味も肉もサウザンで買い足して行くのはどうでしょうか」


「そうね、ロップリングは補給をするには少々頼りないし、どうかしらカイザーさん」


「うむ、では明日はサウザンで補給をしつつ一泊宿を取ることにしよう。それ以降はリーンバイルまで気が休まる暇が無いだろうからな」


 操縦桿を通して輝力の上昇を感じる。パイロット達のやる気が急上昇したのだろう。

 やれやれわかりやすい連中だな、乙女軍団は。


 

 ◇◆◇


 フラウフィールドを出た後が大変だった。

 列を成して歩く商隊があまりにも多すぎるのだ。


 これではいつまで経っても脇にそれることが出来ない。


 このままではルートリィまで徒歩になると思った時、契機が訪れた。

 ゲンベーラからはぐれて来たのであろう、大きな虎型の魔獣が現れたのだ。


 慌てる商隊の前に華麗に搭乗する我々は、やや苦戦しながらも撃退に成功。

 胸をなでおろす商隊達に向かってトドメの一言だ。


「奴は手負いです。このままではヤケになってこの辺りで無差別に暴れる危険性があります。

 しかし、安心して下さい!私達はブレイブシャイン!1級(ファースト)パーティーブレイブシャインが必ずや奴の息の根をとめて見せます!

 皆さんはどうか、安心して先を急いで下さい!貴方がたの荷を待つ人達が居るのだから!」


 やや演技がかった声でレニーが雄弁に語る。


「おお……ブレイブシャインと言うとパインウィードの……」


「見慣れない機兵だと思ったらファーストかよ……なら安心だ……」


「では、我々は奴を追うので失礼!貴方がたに輝力の導きがあらんことを!」


 いらん決め台詞まで言い放ち、先行するマシュー達を追って森に向かう。

 スミレは何かがツボにはまったのか、珍しくコンパネの上で笑い転げている。


「レ、レニー……よくやりました……れ、練習していたのですね」


「ちょ、お姉ちゃん!そんな笑わなくても……ちょっとアレのマネをしてみただけだよ……」


 アレとは恐らくアニメのことだ。しかし、あんなセリフは微塵も出てこない。

 がっつりと影響を受けたレニーが自分なりに解釈したかっこいいセリフがアレなのだろう。


 スミレはそれに気付いて大笑いしている……ということか。


「はあはあ……ああ、もうレニーは……こほん。目標は無事森に追い立てられ討伐されたようです」


「うん……ちょっと気の毒な気もするけど、レニーの演説は強ち嘘にはならないだろうからね」


「そ、そうですね……で、でも輝力の……導きが……うふっ…ありますから……」


「お姉ちゃん!!」


 こうして暫くの間ブレイブシャイン内で「輝力の導きがあらんことを」がブームとなったのである。

 

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