第百六十八話 進路を東に
本日は出発の日。早朝、街の門が開放されると同時に俺達はイーヘイを去った。
その後頃合いを見て街道を離れ、周囲から人気が無くなったのを見計らって空へ上がる。
いくら高度が高いとは言え、地上から見えてしまう事はあるだろうが、まさか鳥以外の物が飛んでいるとは思われないだろうから気にしないことにしている。
元々道という物が存在しない空を移動する以上、街道に沿って飛ぶと言う律儀な真似はしない。
本日はリバウッドの南にあるオグーニ手前を目指して飛行している。
オグーニはトリバの穀物を担う穀倉地帯だ。
広大な畑が延々と広がっているらしく、依頼が無くても訪れたいと思っていた。
残念ながら今回は飛行主体の移動をするため、街や村に立ち寄るのは最低限と決めているのでオグーニに寄ることは無い。
しかし、上空から広大な穀倉地帯を見られるだろうからそれは楽しみにしている。
「白き~胸の光ぃ~かーがーやくーとーきー」
レニーの暢気な歌声が機内に響いている。
これは真・勇者シャインカイザー1~13話までのオープニングテーマ「白き機神」だ。
この間上映会を開いた際に気に入って覚えてしまったらしい……。
「いくぜー!「いくぜー!」
「あーつーき「血潮!」
「もーやーせ「命ぃ!」
レニーの唄にマシューがコーラス?を入れるものだから賑やかと言うレベルでは無い。
普段であればこの手の流れを止めるはずのミシェルもまた、ノリノリで合唱してるものだから止まらない。
ただ一人、シグレだけ真面目な顔で飛行ユニットの制御に集中している。
「すまんなシグレ、煩いだろう?」
「いえいえ、レニー殿の歌のおかげで気が休まりますよ。飛行は緊張しますから寧ろ有りがたいです」
遠慮して我慢でもしてるのだろうと思ったが、よく見れば膝でリズムを取り、時折鼻歌まで歌っていた。
思った以上に乙女軍団を侵食してしまったようだな……。
わいわいと賑やかなおかげか、時間はあっという間に過ぎ去っていき気づけば遠くにぼんやりと穀倉地帯が見えてきた。
予定より一時間ばかり早いが、このまま進んだところで着陸予定時刻にちょうど穀倉地帯という不味い事になってしまう。
「スミレ、少々速いが付近の地形を探ってくれ。着陸用意だ」
スミレにお願いをして周囲を探って貰う。
「良い具合の谷間がありますね。そこそこの深さがあるため人はまず近寄らないと思います」
「よし、と言うわけで少々速いが今日はこの先に有る谷で野営をするぞ」
俺の発言は乙女軍団を大いに沸かせた。
野営を心待ちにするほど疲れていたのだろうか、そう思っていたのだが……。
何時もに増してテキパキとおうちや風呂の設置をし、入浴と洗濯を済ませた乙女軍団は随分とはやめの夕食を摂っていた。
野営においてここまでキビキビと動く乙女軍団は見たことが無かったため、何事だろうかと逆に心配になったのだが、間もなくその謎が解けることとなった。
「よし!今日やることはおしまい!ほら、カイザーさん!」
「へぁ?ほ、ほらってなんだ?」
「何レニーみたいな声出してんだよ!アレだよ!アレ!」
「アレ……とは……」
「もう!お忘れですの?アレの続き!」
「ガア助が出たところで終わったままではありませぬか!」
「カイザー、アレですよ。アニメの貴方を見たいのですよ彼女たちは」
「あ、ああ!それでみんな張り切って……やれやれ、じゃあキリが良いところまでだからな」
機内で随分盛り上がっていたからなあ。確かにあれを見ようと思えば場所を選ぶこととなる。
人気が無いこう言う谷間で野営をする時くらいでは無かろうか。
ルナーサの格納庫でなら上映会を開いても良さそうだが、あそこに戻るのはまだ先だしな。
「ほら、みんな待ってますよ。早く再生して上げて下さい」
そういうスミレもまたソワソワと急かしている。彼女もまた見るのを楽しみにして居たのだろう。
スミレならデータを直に見れば良いのではと思ったが、そう言う話では無いのだろうな。
本日は10話から再生が始まる。パイロットが揃い、4機となり戦力が整ったに見えたが、個性的すぎる4人はそれぞれが主張をするため連携が上手くいかない。
どうにか敵を撃退するが、チームには微妙なギスギスが残ったまま10話が終わる。
「おいおい、こいつらアホかよ……仲良く出来ねえのか?」
「これじゃ……勝てる戦いも勝てませんわ……」
「な?この前の話、ヤタガラスの所で区切って置いて良かっただろ?前回ここで切ってたらお前達はモヤモヤしたまま今日まで待つ羽目になってたんだから……」
「確かに……ほら!カイザーさん早く次!次のお話しを見せて!」
「はいはい」
レニーを始め、皆一様に11話で仲直りをして解決となる、そう信じているがそうはいかないのだ。
話数の都合なのか、スポンサー様の御意向なのかは分らないが、もう1話だらだらと引っ張るんだここ。
敵の本拠地に潜入し、司令官を追い詰めたまでは良かったが力が及ばず負けてしまう。
倒れ奈落に落とされたカイザー達をあざけ笑う敵司令官の笑い声で11話は終わった。
「……負けてしまったでござる……」
「シグレ……ガア助みたいになってるぞ……」
「どうして?どうしてカイザーさんはあそこで合体出来なかったの!?」
「俺に言われてもな……ううん、パイロット達がまだ気づいて居ないからだな」
「気づいて居ないってなににだ?あたい達はそれを知っているのか?」
「知っているというか、お前達はあの時点での竜也達に勝っている物がある。それがあいつらにはまだ足りないんだ」
「なるほど……それは……」
「おっと、ミシェルそこまでだ。賢い君は気づいたようだが、答え合わせは実際に目で見てみようじゃ無いか」
12話は奈落のそこでの反省会から話が始まる。自らを責め、仲間を責め、芽生えかけていたチームの絆が壊れかけてしまう。
しかし、ここでチームが真の絆で結ばれるシーンが見られる。
合体に必要な物は何か、合体すると言うことがどう言うことなのか。
このシーンはウチのパイロット達にも見せたかった重要なシーンだ。
『へっ……、勝てねえわけだよ、俺達じゃな……これじゃあ俺達も連中と同類だ……』
『竜也?聞き捨てならないわね?一体私達の何が同類だというの?』
『俺は……いや、俺達は自分以外を信頼しきれてねえんだ。自分の命は自分で守る、それに慣れきっちまって仲間に命を預けるって事が出来てなかった……合体つうのはよ、命を預け合う事……違うか?』
『はっ……!竜也に気づかされちまうたぁな。確かにな!ルナになった時感じたあの感情、あれは確かに互いの心臓を握り有ってる感触だった』
『皇城……いや、迅!俺の命……おめえに預けてえ……構わねえよな?』
『面倒くさい、面倒くさいねえ、君達は……。でも、嫌いじゃ無い……。いいよ、僕の命預けてやろう。その代わりたっぷりサボらせてくれよな』
『ったく、竜也も謙一も迅も……男って単純でいいわね……』
『そういう雫もまんざらじゃねえツラしてんじゃねえか』
『う、うるさいわね!ほら!こんな所さっさと出るわよ!』
命を握り合うと決意を新たにした4人は無事に合体を済ませ、奈落から脱出する。
そして最終決戦は13話まで跨ぎ、とうとう敵司令官の撃破が叶う。
「「「「輝く光が有る限り!俺達の炎は消えないぜ!」」」」
シャインカイザーを堪能した乙女軍団の心が一つになっている……!
何か映画を見た後主人公になりきってしまう例の現象だが、彼女たちにとってはリアリティがあるってレベルでは無いので浸食度がまた半端ない。
「今日はここまでだぞ」
「「「「「ええええ~!!!」」」」」
スミレまで揃った綺麗な不満の声が響く。
「だめだだめ!13話で丁度一区切りなんだよ。14話からはまた新しい話が始まるんだ」
「え?じゃあもうタツヤさんたちは出ないんですか?」
「いや、彼らは最後まで続投するぞ。わかりやすく俺達に当てはめるとだな、さっきの話はこの間黒騎士を撃退したところだ。でも、俺達の旅は続いているだろう?」
「そうだね、これからシグレちゃんち行ったりするんだもんね」
「竜也達も俺達同様にまた次の戦いが待っているんだ。それを少しでも観てみろ、しばらくの間続きが気になってしょうがないだろ」
「ううー確かに!でもそれを聞いちまったせいであたいはやっぱり気になるぞ!」
「……すまん」
見せろ見せろと煩い乙女軍団に負け、14話の良くある「つかの間の平和回」を観せるはめになったが、2期の敵を匂わせる話は15話からなので、結果的に後を引かず、平和な世界を見てスッキリ出来たようだった。
元々この子達のチームワークや絆は立派なもんだから今更感はあるのだが、でもこうやって客観的に見せることに寄ってさらなる成長に繋がってくれたら嬉しいな。
神様がただの善意で俺に映像データをくれたとは考えにくい。
きっとこうして教材にして欲しい、今後起こるなにかに備えて欲しいというメッセージなのだろう……。




