第百六十七話 補給
見た目も性格も力強いギルマスに終始グイグイ寄られる事となったが、なんとか会議は無事に終わった。
不本意ながら我々は1級パーティになってしまった。
しかし、これがあればハンターとして堂々と禁忌地や帝国、リーンバイルなどの地域で活動することが可能となる。
特に禁忌地は扱いがデリケートなようで、公式に立ち入れるのは許可を取ったトレジャーハンターと1級以上のハンター、国が指名したそれに準ずる者のみとされているらしい。
さらりと流してきたが「禁忌地」という名前は穏やかでは無い。何か恐ろしく強大な魔獣が居るのか、人体に有害な何かが有るのか、はたまた宗教上都合が悪い何かが有るのか……。
そう言えばこの世界における宗教という物に触れたことが無いな。
強いて言えば俺が拝まれたくらいか……って、好き好んで近づくようなもんでもないな。
確かマシューとジンが出会ったのも禁忌地だったな……。
どういう場所なのか、そのうちジンから聞いてみるとするか。
今後の予定としては、フロッガイ付近まで飛行主体で移動をする。その後陸路で国境を越える。
その後山沿いを飛行して一度ルナーサに降りる。
アズベルトさんと打ち合わせ後、ロップリング周辺に移動し、そこからリーンバイルを目指す。
旅の途中寄れる街はフロッガイ・フラウフィールドとルナーサの2カ所。
イーヘイである程度補給をしていくつもりだが、必要なものがあれば寄った先で仕入れることにしよう。
というわけで、現在イーヘイの市場で食料の補給をしているのだが、マシューがとても生き生きとしている。
「へえ!そのエビ凄いね!ルナーサで食ったのよりでかいよ!」
「そうかい?ルナーサも魚介が有名だけどそれよりもかい?」
「うん!あっちのも旨いけど、やっぱエビはデカい方がいいよ!」
「ははは、面白い嬢ちゃんだな。エビは一尾20銅貨だけど買うかい?」
「買う買う!そこの箱全部くれよ!えっと銀貨4枚くらいなら出せるけどいくら?」
「全部……?ああ、お使いなんだねえ。だいたい200尾は入ってたと思うけど、銀貨3枚で良いよ」
「本当?じゃあ、そっちの貝も1箱ちょうだい!」
「ありがとうよ、じゃあ貝の分は50銅貨でいいよ。お釣りで串焼きでも食べて帰りな」
「ありがとー!今度イーヘイに来たらまた寄るよ!」
「ミシェル、今の買い物はお得だったのかい」
「……値切ったところでエビと貝で銀貨5枚が良いところですよ……。店主は値切られたつもりが無いのでしょうけど……マシューがアレを計算でやっているなら恐ろしいですわ……」
マシューを見ればオルトロスを屋台によせ串焼きを買って頬張っていた。
計算なのか天然なのかまったくわからんな……。
ちなみに購入した物は箱毎バックパックに収納している。
街中で人が多いため、バックパックの蓋を開けそこに入れて普通の荷物入れに見せかけているわけだが、そもそもバックパックという発想が無かったようでこれはこれで目立つ事となった。
「へえ、そこに荷物を入れられるんだなあ!バランス取りが難しそうだが、商用にゃ良さそうだな」
「魔獣の素材も入れて運べますので、ハンターにも悪くはありませんのよ」
「ああ!なるほどな!戦闘中は外しておけば良いだろうしなあ」
商人やエンジニアらしき人々が必死にメモを取っている。
「そういや、そこの嬢ちゃんが乗ってる白いの、馬車になるって噂を聞いたが……」
「え?あ、ああ……えへへ……」
『レニー、俺に任せておけ』
「え?」
「ああ、俺は馬にも馬車にもなるぞ」
「え?今のってまさか……」
「ああ、俺が喋っているんだ。ちょっとそこを空けてくれ馬車になってやろう」
周囲がざわめく中、俺は馬車に変形してみせる。
何人かが腰を抜かしていたが、流石イーヘイ、機兵に関する興味が勝るようでメモを取る手を加速させる物の方が多い。
「商人達から噂を聞いていたんじゃ無いか?喋る機兵が居るってな」
「あ、ああ……いや、確かにそうなんだが……てっきり盛られた話かと……」
隠すのを辞める、そう決心したのだ。後はもう遠慮無く存在を明らかにしていく。
人型機兵の最先端は帝国なのだろうが、魔獣型機兵の最先端はイーヘイと言っても良いだろう。
そんな土地ならば機兵マニアも多く、俺の存在も受け入れられやすい……はず。
ここで多少無茶をしておけば噂の拡散速度はさらに増すはず。
「先に言っておくが、俺達の出所については答えられないからな」
「ヒッグ・ギッガを倒したのはあんた達だって聞いたが……ほんとうかい?」
「ああそうさ!あたい達がやっつけた」
「あんなの普通はやり合おうと思わねえぞ?良く依頼を受けたな」
「あたいはただ……シカを食いたかっただけさ……」
「シカ……?ああ、奴のせいで狩りが出来ねえって……はっはっはおもしれえパーティだな!」
やばい、調子に乗りすぎた。どんどん人が集まってくるぞ。
ミシェル、そろそろ上手いこと切り抜けて……ってミシェル?
ミシェルがウロボロスの拳を突き上げレニーのような顔をしている。
「私達はブレイブシャイン、1級パーティーですわ!縁あればよろしく頼みましてよ!」
「うおおおお!ファーストかよ!」
「こんだけの機兵を持てるだけはあるな!」
ミシェルの声に周りはどんどん加熱していく。
こんな時に張り切りそうなレニーは……あわあわとしているな……。
本番に弱いというか、プレッシャーに弱いというか……。
シグレはシグレで苦笑いをしている。
忍者みたいな娘だからこうやって目立つのは複雑なのだろうな。
さて、そろそろ動き出さないと今後の予定に影響が出てしまうな。
くそ、失敗したな。思ったより人が集まりすぎてしまった。
「たまにこう言う大失敗をしますよね、カイザー」
「うう……言うなスミレよ……」
取りあえず補給の続きにもどらねばな。
「すまない!俺達は次の依頼のため補給中なんだ。道を空けてくれると助かる!」
「お、すまねえ!よし!お前ら道を空けろ!」
ザワザワとした声は続いていたが、間もなく人混みがパカッと開いて通路が出来上がる。
なんだかパレードをしている気分になってしまうが……まあ今日くらいはいいか……。
その日は結局ゾロゾロと野次馬を引き連れて補給をすることになってしまい、パイロット一同はすっかり疲れた顔をして居た。
行く先々で過剰なサービスをして貰ったり、野次馬がプレゼントをしてくれたりと、悪いことばかりでもなかったけどな。
「今日はすまなかったな。俺の考えが至らなかったせいで皆に迷惑をかけてしまった」
「迷惑?私は楽しかったのでかまいませんわ」
ミシェルは何故か妙に張り切っていたからね……。
「まあまあ、結果的に補給が1日で済んだんだ、良かったじゃん」
二日余裕を取っていたのは君達の休暇のためなんだが……。
「目立つのは慣れてませぬが……、今は特に隠れる必要も無いので……」
そう言われるとそうなんだが……。
「ま、これでカイザーさんが少しでも動きやすくなったならいいんじゃないかな」
レニー……君は本当によい子だな……。
というわけで、過剰サービスとプレゼントにより補給が1日で終わってしまったため、二日目はパイロット達への休暇ということにした。
予定を繰り上げて出発することも考えたのだが、身体と心をゆっくり休める日も必要だからな。
二日目はパイロットのみ、つまりは俺達はお留守番で徒歩にて街に出かけて貰った。
特に何か作戦的なものでは無く、純粋に人の視点でこの街を楽しんで欲しかったからだ。
これから帝国と、黒騎士と戦う事になると思う。それに至るまで厳しい訓練をする事になるだろうし、その戦い自体もけして楽なものでは無いだろう。
遊べるうちにたっぷり遊んでもらう。
俺から彼女たちに報いる手段は限られているが、少しでもこう言う時間を作れたらなと思う。




