第百六十六話 身に余る話
ギルマスにこれまでの経緯をざっくりと説明すると「ふむ」と呟き顎に手を当てて何かを考え始めた。
「シグレは言ってしまえばリーンバイルの姫様ってわけだよな」
「当家は確かにあの島を治めるリーンバイル家ではありますが、今は国と呼べるような立派なものではありませぬぞ」
「そうかあ?……まあ、リーンバイルの姫にゃ変わりない。であれば……うん、行けるな」
ギルマスは何か悪いことでも思い浮かべたような顔で俺たちを見渡している。
そして、うんうんと頷くと、無理に作ったような真面目な顔で言った。
「リーンバイル王国第一王女シグレ・リーンバイル姫殿下からの指名依頼、トリバからリーンバイルまでの護衛任務をブレイブシャインが非公式に受託したが、これはこれよりギルドを通した公式の依頼となる。
そして国交のない地域で行う依頼を受託するにはハンターズランク1級が必要となる……が、現在ブレイブシャインは3級だ」
わざとらしく咳払いをしてギルマスが言葉を続ける。
「で、これまでの活躍により2級に昇格することは決まっていたため、ブレイブシャインは実質2級と言っていいだろう。
さらに、秘密裏に潜入し、我が国土を脅かした帝国の猛者、黒騎士を撃退したとなれば1級に昇格する資格が十分あると言っていいだろう」
「いやいや、ちょっとまってくれ。それは我々の技量にあっていないのではないか?」
「んんっ!ごほん!まあ、聞けよカイザー殿。確かにあんたら特殊な機兵の性能もあるのかもしれねえが、いい機兵に乗ってたって腐らせてるボンボンはなんぼでも居るんだよ。
1級は所謂上位ランクに値するわけだが、恥ずかしい話、トリバの1級で黒騎士に勝てるやつが何人居るのやら」
「……それはそうかもしれないが……」
「さらに言えば俺はA級だ。そしてその上にゃあSAがあるんだ。
A級は俺を含めて大陸全土に5人居る。だが、SAは現在空席、つまりまだまだ上があるんだよ。
1級にあげるのはギルドの都合もあるんだが、ブレイブシャインが今後上を目指すには今でなくちゃだめだ、俺がそう判断したんだ。どうか納めてくれねえか」
2級ですら速すぎる昇格だと思っていたら1級にまで押し上げられてしまった。
レニー達の様子を見ると、特に浮き足立った様子は無く何だか複雑そうな顔をして居る。
ついこの間まで昇格だ、昇格だと喜んでいたと言うのに。
「レニー、お前はどう思う?」
「正直……、私には勿体ない話だと思います。でも、それが無ければシグレちゃんの国に行けない、カイザーさんの武器を取り戻せないとなれば仕方が無いのかなって……」
「仕方が無い……か……」
「……それに、ランクが上がったからと言って下位の依頼を受けられなくなるわけではありませんからね。
ランクはランク、私達は私達で変わらず活動していけば良いんですよ」
「だな!多少ゴタゴタ言われる事も増えるかも知れねえが、そんときゃリーダーがなんとかしてくれるさ」
「ちょ、ちょっとマシュー?」
「なんだか……私のせいでとんでもないことに……」
「何言ってるのシグレちゃん。これはもう私達全員の問題なんだよ。だからそんな顔しないで欲しいな」
「レニー殿……」
「まあなんだ、1級パーティーともなればよ、カイザーみてえな変な機兵に乗ってても納得されるだろうよ。おめえさんもそろそろ動きやすくしてえんだろ?」
「それを言われると……まあそうなんだが……」
「うし、話が進まねえからギルマス権限でお前らもう昇格だ!じゃ、次!リーンバイルまでの行程だが……」
なんだか無理矢理話がまとめられ、強制的に昇格させられてしまった。
このギルマス……、全く何も考えていないな……。
レニー達が手放しで喜んでしまうようなら無理矢理にでも昇格を取り消して貰うつもりだったが、けしてそうでは無く、寧ろ戸惑っているように思えた。
その様な心構えであれば……心配しているような事にはならない……かな……?
これからゆっくりクラスに相応しいパイロットに育てて行けばいいか……。
まあ、とは言え話が進まないというのは確かに同意なのでこの場は納めておくしかないな。
……今後何か問題が起きたらアズベルトさん経由でしっかりと抗議させて貰おう。
「リーンバイルまでは飛行、つまり空を飛んで行こうと思う」
「また突拍子がねえ事をいいやがる……が、おめえさんなら出来るんだろうな」
椅子に深く腰掛け、全てを諦めたような顔でギルマスが言う。
飛行機というものが存在しないこの世界で飛行機能とは地球における反重力装置のような夢のようなものだろうからな。
"ガア助"の様に飛行魔獣をテイムして使っている者も居るのかもしれないが、飛行とはあり得ない事なのだと再認識する。
「で、飛び立つ場所なのだが、リーンバイルの位置と帝国の位置を考慮してルナーサのロップリング付近を考えている」
「そうだな、帝国の目についたら色々と面倒な事になるだろうしな……既になってるんだがよ」
「ロップリング付近から飛び立ち、リーンバイルまで飛行する。恐らくは2~3日で着く筈なのだが正確な地図が無いためあくまで推測とさせて頂く」
「リーンバイルも今よくわかんねえからな。その日数だってシグレから聞いて出したものなんだろう?であれば、それが一番頼りになるとしか言えんな……っと」
ギルマスは立ち上がると自分の機兵の元へ行き、声を張り上げる。
「帝国の連中が何考えてるかわかんねえが、次は恐らく戦になるだろうと思う。
事が起きてゴタゴタする前にリーンバイルと話をつけておきたい。
ついでに利用するみたいで申し訳ねえが、シグレの件ついでに親書を渡して欲しい」
「……それは当家にも戦に出ろということでしょうか」
「いいや、そうじゃない。ルナーサもトリバも元はルストニアさ。大昔に手を取り合った盟友、リーンバイルに帝国の動向について教えてよ、ついでになんか迷惑かけたらスマン!と先に謝っておくだけだよ」
親書の内容をベラベラと……。
実際何が書いてあるのかはわからないが、ほんと大統領としてはダメな人だな……。
だが、嫌いじゃない。
「シグレ、恐らくこいつは本当に何も考えていないぞ」
「……確かに……そんな気はしますな……」
「こらこら!聞こえてるぞ!筋を通してえだけだよ!筋を!」
ギルマスはずっこけそうになりながらも、姿勢を正し咳払いをする。
そして機兵の足をバンバンと叩き、ニヤリとした笑みを見せた。
「さっきも言ったが、俺はこれでもA級だ。なんかあってもトリバは俺達が護り抜いてやる。
ブレイブシャインは安心してリーンバイルまで姫さんを連れてってやんな」
こうして、強引なギルマスにより強引に話が進み二日後俺達はリーンバイルへ向けて発つことになった。




